「SFとは筋の通ったホラ話である」
そう喝破したのは、SF作家の山本弘さんである。
読書好きという人種は、大きく2つに分けられる。
それはミステリを読む者と、SFを読む者。
というのは、ものすごい、ざっくりした分け方であるが、イメージとしてはわかってもらえるのではあるまいか。
私の場合は、ミステリ派であった。
元の読書の入口が江戸川乱歩ということもあって、自然に路線は推理小説に決まることとなったのだ。
少年探偵団から、ホームズ、クリスティーときて、クレイグ・ライスやウールリッチ、ロアルド・ダールなどに広がっていくという、典型的な王道ミステリ野郎である。
とはいえSFも、まったく読まないわけでもなかった。
根が早川に創元っ子なので、SFというジャンルは身近なもの。
高校時代には、早川の『ミステリハンドブック』と『SFハンドブック』を購入し、ボロボロになるまで読みこんで、せっせと青い背表紙の本を買い集めた。
なんといっても、はじめて女の子にプレゼントした品というのが、プレゼント包装をした
『夏への扉』
『火星人ゴーホーム』
だったというのだから、今思い返すと冷や汗もの。
『夏への扉』はまだしも、なぜ『火星人ゴーホーム』なのか。
火星なら、せめてブラッドベリの『火星年代記』にしろよ!
いや、『夏への扉』も、一見さわやかに見えて実は問題だらけの小説だしなあ。
受けとたっときの、彼女の困ったような笑顔が忘れられません。
そんなこともあったので、この読書男子の分かれ道としては、ここでSFにシフトしてもおかしくなかったのだが、やはり乱歩チルドレンとして、
「いや、オレはミスヲタ道をつらぬくのだ」
という、よくわからない求道的な哲学と、あとハードSFが苦手だったことも、とどめをさした。
今でも、科学考証がどうとか、延々とSF的設定を語られる作品はつらい。
山本会長も、フェブラリーから最新の『MM9』までだいたい全部読んでるけど、『地球移動作戦』は、最初の100ページがしんどくて挫折してしまったくらいだ(のちに読了、超おもしろかった)。
なもんで、比率で言えばミステリ8に、SFが2程度の割合で読み分けていた。
いわば、ミステリが本妻で、SFは二号さんのような存在であったわけだ。
そんな私だが、ある時期からこの比率が5・5。
ときにはSFの方が上回ることにもなるほど、SFに傾倒することとなったのである。
そのきっかけは、『神狩り』であった。
『神狩り』。いうまでもなかろう、山田正紀の書いた、日本SFの古典であり、名作中の名作。
「人間は、関係代名詞が7重以上入り組んだ文章を理解することができない」にもかかわらず、冒頭で出てくる古墳に書かれた古代文字は、なんと論理記号が2つしかなく(人間の言語では5つらしい)、しかも関係代名詞が13重以上に入り組んでいるという」。
このつかみで、「おお!」とばかりにグッと引きこまれる。
そこからのストーリーもものすごく、神学論的展開から、最後には全知全能の神に人間の知恵を集結させて立ち向かうという、とんでもないスケールのものに。
もうページを繰りながら「なんやこれ!」「すげえ!」と、ブレイクなしの一気読み。
当時の私はミステリもSFも海外物一辺倒であったが、日本のSFがこんなにもおもしろいとは思いもしなくてショックであった。吃驚しました。
ちなみに、これがなんと山田正紀のデビュー作。
おいおい待てい。はじめて世に出た小説が、このクオリティー。
いかついな。あんたこそ神やないか! と、本気で文庫本に向かって、つっこんでしまったものである。
でもって、読み終えての感想というのが、
「なんちゅうハッタリや……」
すごい。こんな壮大なハッタリは、私の読書生活の中でもはじめてであった。
つかみの関係代名詞うんぬんとか、果ては神と戦うとか、ようこんなとんでもないこと考えつくなあ。あんたは、どんなホラ吹きや!
そう、私はここで、はじめてSFの本質を理解したのである。
SFとは科学がどうとか、タイムパラドックスがどうとか、シュレディンガーの猫がどうとか、なんだか理屈がややこしくて、そこが敷居の高さになるという人もいるだろうけど、なんのことはない。
そういうのは、すべて「ホラとハッタリ」なのである。
そのことがわかった瞬間から、私のSF感は変わった。
「いやーん、こんなアホな(超ほめ言葉)物語書いてもええんやー」
目がハートになってしまったのだ。
それ以降は、ミステリとSFは半分ずつくらいで共存共栄して、楽しい読書ライフを送っている。
最近おもしろかったのは、松岡圭祐『人造人間キカイダー The Novel』。
売れっ子作家が書いたノベライズなんて、どうせスッカスカでつまらんのやろ。
なんて、あなどりながら読んでたら、あにはからんや、無茶苦茶におもしろくて腰を抜かしてしまった。
物語の進行やアクションシーンのテンポが良く、なによりも「SFしてる」感がすばらしい。
完全になめてました。「ごめーん」と心で土下座しながら一気に読了。超オススメ。
(続く→こちら)