将棋は「打つ」ではなく「指す」だと、ブームを機会に知ってほしい!

2018年02月14日 | 将棋・雑談

 「《将棋を打つ》っていう人に対する反応って、むずかしいよなあ」。

 先日、飲み屋で一杯やっているとき、そんなボヤキを発したのは、友人ミナミモリ君であった。

 きっかけは、昨今の空前ともいえる将棋フィーバーのこと。

 藤井聡太四段(C1昇級を決めて今は五段)の鮮烈デビューからはじまって、羽生善治竜王・棋聖永世七冠達成などもあり、世間やネットで、将棋はかつてない大盛り上がりを見せている。

 これには、長年の将棋ファンである私とミナミモリ君も、大いによろこんでいるのだが、こういった時期にかならず向き合うこととなるのが、

 「将棋を打つ

 という言い回し。

 将棋ファンにとっては、「ああ、あれね」と、たいていは苦笑とともに理解していただけると思うが、将棋は「指す」が正しい。

 けど、これが世間ではあまり浸透していなくて、将棋を知らない人やライトなファンの方々は、けっこうな確率で「打つ」を使うのだ。

 これに対して、どう反応していいのかというのが、毎度悩ましい



 「将棋は《打つ》じゃなくて《指す》が正解だよ」



 と教えてあげるのが、まあ普通なんであろう。

 こういうとき「へーそうなんだ」と納得してくれれば問題はないけど、中にはイラっとされて、



 「いちいち、うっとうしいなあ」

 「どっちでも同じだろ」



 なんて逆ギレされることもある。

 また、ネットやテレビなどで、そこそこ将棋に接している人の中には、



 お前の方こそ間違ってるぞ。

 だって、テレビで羽生さんが《打つ》って言ってたもん。知ったかぶりして、恥ずかしいなあ



 なんて反対にさとされて、どうしたもんかと頭をかかえたりもする。

 なにより、あまりにも「打つ」が幅を利かしている場所だと、いちいち訂正するのもこっちがめんどくさいし、偏屈な人みたいで場の空気を悪くしかねない。

 そういった長年の経験を踏まえての、「むずかしい」という友の悩みになるわけだ。

 ここに将棋ファンとして明言しておくと、将棋をすること、つまりスポーツでいう「play」を意味する言葉は「指す」なのです。

 「将棋を指す」が正解

 「将棋を打つ」は間違い


 まず、この大前提をふまえた上で、ではここに



 「テレビやネット中継では《打つ》を使ってたけど」



 という疑問にお答えするならば、将棋において「打つ」のは持駒の場合のみなんです。

 みなさんも、将棋番組や手元の将棋のを、あらためてチェックしてみてください。

 「打つ」という表記があれば、それは100%、駒台にある持駒を盤上に置くときだけなのです。

 これは絶対にです。


 「敵陣に飛車を打つ」

 「角を打って馬を作る」

 「銀の割り打ち」

 「頭金を打って詰み」

 「香車は離して打て」

 「金底の歩を打つ」



 などなど、そのすべてが持駒使用のときのみなのです。

 それ以外、盤上を動かすのはすべて「す」。ゆえに、


 「先手は初手▲76歩と打った」(×)

 「▲68飛と打って四間飛車を選んだ」(×)

 「▲88玉と打って矢倉に入城した」(×)


 
 これらはすべて、必然的に誤りとなります。

 全部「指す」が正しい。だから、厳密にはチェスも「指す」になるはず。

 将棋を「play」するのは「指す」であり、「打つ」のはその中の

 「持駒を使うとき」

 のみに使う、限定用語とでもいうべきもの。

 スポーツでたとえれば、サッカーをしていて、


 「シュートを打つ」

 「フリーキックを蹴る」
 
 「ゴールを決める」



 と言いますけど、


 「サッカーを打つ」

 「サッカーを蹴る」

 「サッカーを決める」



 とは言いません。野球なら、


 「ボールを投げる」

 「バットで打つ」



 と言いますけど、同じく「野球を投げる」「野球を打つ」とは言わない。

 まあ、意味は通じなくもないけど、間違ってるし、変な言葉でもある。それこそ、


 「オレ、メッシ大好きなんだ。彼がサッカー蹴るときは、絶対見るからね」

 「ワールドシリーズは残念。ダルビッシュはもっといい野球を投げられるのに」


 なんて人がいたら、スポーツファンは「え?」ってなりますよね。少なくとも、

 「どっちでも同じだろ」

 って返されたら、「そうだよね」と、うなずくことはないはず。同じじゃないよ、と。

 「将棋を打つ」

 これはファン以外にはどうってことなくても、こちらからすると、それくらいに違和感のある言葉なんです。

 お笑い好きにとっての「M―1のコント」とか。

 ミリタリーファンにとっての潜水艦が「沈む」とか。

 「アメリカの首都ニューヨーク」とか「ウィンブルドン男子シングル決勝」みたいな、気持ちはわかるけど、聞いた途端ガクッとしちゃうワードなんですよ。

 ということで、この「将棋を打つ」問題は、整理すれば

 「将棋を指す」が正しくて、持駒を使うときだけ「打つ」。

 というだけのシンプルな話なんだけど、これがなかなか伝わってくれず、ひそかな将棋界の課題。

 ただまあ、ここまで説明したところで、あらためて思うことには、間違って伝わるのも、ある程度しょうがない面もあるかもなあと。

 それこそ、親戚のような関係の囲碁は「打つ」が正しいし、ゲームなのに「指す」なんて言葉にもなじみがなさすぎる。

 そして、なによりというか、理屈抜きで、あの駒音の「打つがインパクト充分。

 「ビシ!」でも「パシ!」でも「バシ!」「パチーン!」など、表記は好みでも、あの木と木が触れ合う乾いた音は、「打ってるなあ」という気になるものなあ。

 特にプロが奏でる本式の駒音は、盤と駒の良質さも相まって、耳になんとも心地よく響く。

 これが「打つ」じゃないんだから、言葉ってむずかしい。

 なので、テレビや雑誌など、言葉をあつかう商売の人には一応正しく使ってほしいけど、それ以外に関しては、

 「一応、そういうことなんで」

 としつこくない程度に、伝えておくくらいがいいのかなあと。

 まあ、こういうのはファン歴が長くなってくると、自然と解消されるものなのでしょうけど、一応参考までに知っておいていただけると、うれしいです。


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