『ゆでたまごのリアル超人伝説』はミキサー大帝ファン必読の1冊

2018年08月30日 | オタク・サブカル
 『ゆでたまごのリアル超人伝説』を読む。
 
 子供のころに読んだ、マンガの話は楽しいものである。
 
 私は『北斗の拳』や『ドラゴンボール』に代表されるころの、いわゆる、
 
 
 「ジャンプ黄金時代」
 
 
 に育ったため、必然的に集英社の作品を取り上げることが多くなる。
 
 もちろん、ゆでたまご先生のキン肉マンも愛読しており、その作者の本となれば、やはり気になるのが、ものの道理であろう。
 
 内容的には
 
 
 「キン肉マン制作の流れを、プロレス的視点で語る」
 
 
 当時から、つっこみどころであった御都合主義的な展開(グレート中身が入れかわっても失格にならないとか、王位争奪戦で途中からわっさわっさ助っ人が出場してもOKとか)を、これすべて、
 
 
 「プロレスとはこういうもの」

 「興行的には見事だ」

  「さすがのショーマンシップ」
 
 
 といった、自画自賛のセリフだけで処理してしまうところが、すばらしい。
 
 私自身はプロレスや、格闘技一般に全然興味はないが、こういう
 
 
 「良くも悪くも、うさんくさい」
 
 
 ところがプロレスの、さらには昭和のマンガの味であり、楽しいところであろう。
 
 私がもっとも目をひかれたのが、第3章にある、
 
 
 「ゆでたまごが選ぶ『キン肉マン』ベスト興行12」
 
 
における(「バトル」「マッチ」でなく「興行」であるところがすばらしい)、対マリポーサ戦。
 
 ここでは
 
 
 「キン肉マン史上もっとも悲壮感のある場面」

  「ロビンマスクとテリーマンの行動には胸が熱くなる」
 
 
 といった、ファン的にも盛り上がる話題を取り上げながらも、なぜか妙にクローズアップされるのは、飛翔チームの中堅選手であるミキサー大帝。
 
 ミキサー大帝
 
 下半身は普通の人なのに、上半身がバカでかいミキサーというイカしすぎたフォルムに、「大帝」ときたものだ。
 
 
 
 
       
          こういう大帝
 
 
 
 歴史の時間に、たしか「カール大帝」という偉人がいたのは習った記憶があり、あとはピョートルとかジャングルとか色々いるけど、そこにミキサーを持ってくる感性は秀逸であろう。
 
 大帝というからには、やはり帝国を治めているのか。
 
 「皇帝」の定義は
 
 
 「数ある王国や諸侯をすべる存在」
 
 
 みたいなもんだから、きっと配下に
 
 
 「トースター国王」
 
 「冷蔵庫侯爵」
 
 「電子レンジ首長国連邦の長」
 
 
 なんてのもいるのだろう。
 
 ゆで先生はこの熊本城決戦において、ストーリーの展開上、主人公であるキン肉マン敗退させなければならないことになる。
 
 だが、そこはヒーローのこと。あっさり負けてしまっては、話が盛り上がらない。
 
 そこで、単に負けるのではなく、
 
 
 「すでにホークマン、ミスターVTRという強敵を相手にして、大きく疲労している」

 「ミキサー大帝のパワー分離器によって、伝家の宝刀『火事場のクソ力』を奪われる」

  「それはミキサー大帝一人の手に余るので、邪悪の神々による卑劣な手によって行われる」
 
 
 という3段階のエクスキューズを用意。
 
 ここまでしないと、「キン肉マン敗北!」というショッキングな事実は受け入れられまい。
 
 さすがは名興行師である。たかだか1回戦の中堅戦をあつかうにも、これだけの繊細な配慮を忘れない。
 
 見事な説得力で、まさかのミキサー大帝勝利を描いた先生は、そこからもノリノリで、
 
 
 「怒りに燃え、超人参謀、超人幕僚長という自らの地位を捨てて助太刀にかけつけるロビンとテリー」

  「数あわせに過ぎなかったミート君の、バックドロップによる奇跡の勝利」
 
 
 名シーンを次々と打ち出してくる。
 
 しかも感動的なのが、ここでもゆで先生は、超人に対する配慮をおこたらない。
 
 ミキサー大帝が負けるのは話の展開上、仕方がないにしても、
 
 
 「ただ負けるだけでは、ミキサー大帝のプライドが傷ついてしまう」。
 
 
 ミキサー大帝のプライド
 
 こういっちゃあなんだが、フォルム的にもキャラ的にも「イロモノ」っぽいこの超人の、レスラーとしての誇り見せ場にまで言及するとは。
 
 うーむ、先生のプロレスへのの深さには、心底うならされた。
 
 そこで先生は
 
 
 「キン肉マンが敗れはしたものの、ミキサー大帝のネジをはずしておくというワンポイントを入れることによって、仮に安全パイと思われていたミート君に負けてもののしられずにすむ。

  キン肉マンのかっこよさも際だち、ミート君の勝利も自然な流れに感じられ、敵のプライドも守られる。我々はミキサー大帝にも気を使っているのだ」。
 
 
 なんという深謀遠慮! まさに希代のプロデューサー! 見事なブックである。
 
 今こうして、当時の記憶を呼び覚ましながら、が震えるというものだ。
 
 ミキサー大帝にも気を使っている。なんという秀逸なフレーズであろうか。
 
 私は先生が語るジェロニモサンシャインへの想いよりも、この一行にこそ魂をつかまれた。
 
 もう一度書こう。
 
 
 ミキサー大帝にも気を使っている。
 
 
 何度でも声に出したい、美しい日本語だ。言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信。
 
 やはりゆで先生は、日本一のエンターテイナーであるといわざるをえない。
 
 ちなみに私は、王位争奪戦では、テリーマンキング・ザ・100トン戦が、ベストバウトだと思ってます。
 
 
コメント
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