「ダイエットに失敗した女の子が、好みやね」
学生時代、学食でごはんを食べているとき、そんなことを言ったのは友人クロベ君であった。
先日、この冬から春にかけて発動された「体重レインボー作戦」により、3か月で5キロの減量に成功した私。
ただ、こういうときコワイのは「リバウンド」であり、ホッとして気がゆるんだり、ガマンの反動でドカ食いなど、あっという間に元に戻ってしまうというのは、よくあること。
これはもう、人間の業とでもいうべき法則であって、
「食が細くて、太りたいのに太れない」
という、ぶんなぐ……うらやましい体質の人以外、だれもがこの、
「ダイエット→リバウンド→リバウンド(∞)」
という無間地獄からは、逃れられない運命で、人類の夢「永久機関」の開発は、このあたりにカギがあるのではないだろうか。
とまあ、人はちょっとやせたといって、そこで安心してはいけない。
ダイエットで肝心なのは、体重を落とすのは道半ばで、もっとも大事なのは、
「そこからこれをキープする」
これは「試験合格」「就職」「結婚」など、人生の様々な
「これにて完了」
とガッツポーズしたところですぐに襲われる、おそるべき現実でもあるのだ。
なんて、めんどくさい話をしていると、せっかくダイエットが成功したのに、なんだか気分も盛り上がらないが、ここにひとつ、
「せっかくダイエットしたのに、すぐに元に戻っちゃったよー」
と泣く女性の方々に、いい知らせがある。
それが、クロベ君言うところの「リバウンド萌え」という存在だ。
「萌え」のファンタジーは人様ざまである。
単純に「顔」がいいとか、女性の「胸」や「尻」に反応する人もいれば、ちょっとひねって、うなじや足首。
眼鏡がいいとか、二次元サイコーとか、靴屋でハイヒールを見ると興奮するとか。
はたまた中島らもさんが、エッセイで紹介していたような、
「女装して部屋で編み物をしていると、そこに軍服姿の女が入ってきて、『おまえは編み物が下手だ!』と罵倒されながら、椅子ごとけり倒されないと燃えない」
という、ツイストの効きまくった人というのも存在する。
「けり倒されると燃える」
ではなく、
「けり倒されないと燃えない」
というところが、なんとも味わい深いところである。人間って、いいな。
かくして、ファンタジーは人の数だけ存在するわけだが、クロベ君の場合は「リバウンド萌え」。
リバウンド萌え。
といわれても、ちょっと意味がわからないところもあり、はて湘北高校の桜木花道選手のファンなのかいなといえば、そうではなく、彼は基本的に、ポッチャリ系の女性が好きなのだ。
世に「ポッチャリ好き」というのは結構いるもので、男女も問わないようだが、友のケースは少しばかりひねりがあり、
「リバウンドして、ポッチャリ」
これでないと、ダメらしい。
限定付ポッチャリ。
そこを普通のポッチャリでは、いけないのかと問うならば、
「ボクはな、元からちょっと二の腕とかプニプニした子が好きやねん」
わかるよ。やせすぎの子って、案外魅力感じへんこともあるからね。
「でやな、そういう子がダイエットして、ちょっとやせて、そのまま細身で行くのかと思いきや、なんやかやあって、結局元に戻っちゃいました」
まあ、よくあるよなあ。
「それくらいの肉付きの女の子にグッとくるんや。すごく、かわいらしいねん」。
一回リバウンド経由。
なんだかまわりくどい気もしないでもないが、それに意味はあるのかといえば、友は声を荒げて、
「全然、違うがな!」
メッチャどなられてしまった。
「ただのポッチャリやと、アカンのや。リバウンドして、その一回やせた後に、もう一回ついた、肉とアブラがええんですやん」。
彼は身も世もなくという風情で、天をあおぐと、
「わかってないなあ。これやから、素人は困るんや。ポッチャリ好きいうたら、プニプニしてたら、なんでもええと思ってるんやからなあ」
これでもかというくらいに、あきれられてしまった。
さすが玄人はちがう。
というか、なんの玄人かはよくわからないが、というか、この話、なんでオレが説経されてるんやろ。
なんにしても、男のこだわりというのは様々ではあり、ダイエットに失敗した女性にとっては、希望のある話と言えるのではあるまいか。たぶん。