「かわいそう」という言葉でマウントを取りにくる人の思い出

2023年06月28日 | 若気の至り
 「なんか議論の途中で【かわいそうだね】とか言うてくるの、頭きますわー」
 
 
 先日、ランチにふわふわオムライスをいただきながら、そんなボヤキを発したのは後輩ヒラノ君であった。
 
 ことの発端は、ヒラノ君がユリコちゃんという恋人と、デートで映画に行ったこと。
 
 これが、いわゆる
 
 
 「感涙必至」
 
 「ハンカチのご用意を忘れずに」
 
 
 といった宣伝内容の感動系作品だったそうだが、観てみると内容的にはイマイチで、ヒラノ君はドッチラケ
 
 どっこい、チラッと横の様子をうかがうと、愛しの彼女が
 
 
 「なんてステキな話……」
 
 
 目をウルウルさせているのだ。
 
 これには二重にシラケたヒラノ君が、
 
 
 「よう、こんなんで泣けるなあ」
 
 
 言わんでもいいことをついもらすと、先ほどまで映画に没入していたユリコちゃんも、「はあ? どういうこと?」と返してきて、そこから口論になった。
 
 しばらく言いあいが続いたのだが、そのうちに、いつの間にか可憐な涙もどこへやらの彼女が言い放ったのが、
 
 
 「なんか……かわいそう」
 
 
 突然、あわれむような口調で告げられ、今度はヒラノ君が「はあ? どういうこと?」と返すと彼女は続けて、
 
 
 「考えてみたら、あなたってかわいそうだなって思って。世の中を、そういうひねくれた見方しかできないんだ」
 
 
 彼女はため息をつくと、
 
 
 「逆に同情しちゃうな。心がない人なんだって。だからそうやって、だれかの揚げ足を取ることしか、できないんだね。かわいそうだね」
 
 
 これにはヒラノ君もブチ切れて、
 
 
 「なに急に、上から目線になってるねん! お前がピーピー泣いてるのは、心があるんやなく、自己愛が強くて、涙腺のパッキンがゆるんでるだけや! 単に映画リテラシーが低いから、お涙頂戴に乗せられただけのくせして、そこをごまかして議論を有利に運ぼうとすな!」  
 
 
 なんて、ずいぶんと激しいことに、なってしまったのだそうな。
 
 よくある痴話げんかといえばそうであり、独身貴族の私としてはしごくゆかい……もとい心配になってしまった。
 
 まあ、この件に関しては、かなりの部分ヒラノ君に改善の余地ありとは思うけど(いらんこと言うな、すなおに謝れ)、後輩がついムキになってしまった気持ちは、わからなくもない。
 
 それが「かわいそう」というワード。
 
 とはいっても、器の小さい男が、あわれまれてプライドを傷つけられたわけでもなければ、図星をつかれて逆ギレしたわけでもない
 
 いや、器が小さいこと自体は認めるにやぶさかではないけど(そう言えばこの「器が小さい」もケンカでは便利なワードだな)、例えていえば、
 
 
 「格闘ゲームで《ハメ技》を使って勝ちにくる人」
 
 
 を見たときに感じる義憤とでもいうのか。
 
 世の中には、そこに根拠も、話者自体の努力能力も必要としないのに、相手を傷つけたり、優位に立てそうになるワードというのが存在する。
 
 セクハラや、パワハラをとがめたときの「冗談だよ」「そういうときはユーモアで返せよ」とか。
 
 こちらが非を訴えているのに、こう言うことによってまるで、
 
 
 「こちらが心に余裕のないヤカラ」
 
 「ユーモアを解さないつまらない人間」
 
 
 であるかのような、空気感を醸し出してくる人がいるのだ。
 
 意識的な人もいれば、無意識の人もいるけど(これはこれでタチが悪い)、これってちょっと問題ある対応ではないか。
 
 同じようなものに、
 
 
 「の話はするなよ」
 
 「感情的になるな」
 
 
 あと日本人的最強ワードは「空気を読め」だけど、そういう論理のすり替えの一種で、
 
 
 「不利な状況を、あたかも《自分のほうが冷静に物事を見る余裕がある》ふりをすることによって、逆転しようとする試み」
 
 
 これに「いかがなものか」と言いたいわけだ。
 
 ましてや、なんとなく話者が
 
 
 「オレ今、大人として良いことい言った」
 
 
 てな雰囲気を出してきた日には、何をかいわんやである。要するに「詭弁」「欺瞞」が嫌いなのだ。
 
 今回の件で、ユリコちゃんが言った「かわいそう」も、決して本当に憐れんでいるわけではない
 
 ただ、ガチギレしてるのを見られるのが恥ずかしいのと、議論で優位に立つために、
 
 
 「わたしは怒ってない。あなたの言動に心を乱されているわけでもない。ほら、その証拠にあなたを冷静に分析するだけの余裕があるし、あなたをかわいそうと、思ってあげられるだけの愛情すらあるではないか」
 
 
 そうアピールしているだけなわけだ。
 
 今の言葉でいえば、「マウントを取りに来ている」というところで、そりゃ言われた方は本意ではないわなあ。
 
 などと長々語っていると、
 
 
 「それくらいいいじゃん。受け流しとけば?」
 
 
 と言われそうで、まあそれが一応は正解でもあるんだけど、この手の話は、昔のある思い出と密接にリンクしていて、なんだかムキになってしまうのである。
 
 
 (続く
 
 
コメント
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