中田功が見せる、三間飛車からのさばきは、いつ見ても惚れ惚れする。
前回は島朗竜王が、羽生善治六段に見せた、攻め駒を責めるB面攻撃を紹介したが(→こちら)、今回は華麗な大駒の乱舞を。
昨日の夜、なんとなくネットを見てたら、村中秀史六段のYoutubeチャンネルに中田功八段が出ていた。
なんでも「王手将棋」をやるということで、こりゃすごい、と座りなおすことに(→こちらなどから)。
なんといってもコーヤン(中田功八段の愛称)は専門誌『将棋世界』に、なぜか王手将棋の講座を持っていたという、その道のスペシャリスト。
さらには、その天才的センスから、同誌の企画で先崎学九段との
「飛車飛車vs角角」
「金金金金vs銀銀銀銀」
といった変則将棋対決にも抜擢された、知る人ぞ知るゲームの達人なのだ。
こりゃもう見なきゃしょうがないと、そのあざやかな指し回し(と衝撃の結末)を堪能したが、もちろんコーヤンのさばきが発揮されるのは、王手将棋だけではないのである。
1993年、第51期C級2組順位戦の9回戦。
中田功五段は、真田圭一四段と対戦することとなる。
当時22歳だった中田功は、開幕2連敗を喫するも、そこから連勝して昇級争いに浮上。
インタビューによると、この快進撃は師匠である大山康晴十五世名人が亡くなったことが、転機になったそう。
順位も4位と好位置につけて、相当に有力だったが、中田にとって大きな試練だったのが、後半の当たりだ。
まず6回戦では、プライベートでも仲の良い先崎学五段(4勝1敗)。
続く7回戦では、新四段になったばかりの深浦康市四段(6連勝)。
そしてこの9回戦では、7勝1敗の真田圭一四段。
どれも、自力昇級の権利を持った、超強敵3連チャンだったのだ。
このジェットストリームアタックにはコーヤンも、
「今なら火を噴いてます(笑)」
思わず苦笑いだが、このときの中田功は冴えていて、先崎、深浦という、未来のA級棋士をなで斬りにして2敗をキープ。
むかえた最後の関門が、のちに竜王戦の挑戦者になる真田圭一だが、ここでコーヤンは代表作といっていいほどの、すばらしい将棋を披露するのだ。
この大一番に、中田は当然エースの三間飛車を投入。
真田は穴熊全盛の時代では、なかなか見られなかった急戦策で迎え撃つ。
むかえた中盤戦。▲45桂とはねて、居飛車が成功しているように見える。
△同金は▲33角成と、角が取れる。
角が逃げるのは、▲44角で金をいただいて、どちらも先手がうまい。
一見、手段に窮しているように見えるが、もちろんのこと、これは中田功の掌の上。
ここから、まるで舞を舞うような、スペシャリストの「ワザ」が見られるのだが、その第一弾のさばきとは。
△42角、▲44角、△64角が、あざやかな三角跳び。
負担になっている金を取らせて、その逆モーションで角を好所にのぞく。
これぞ、振り飛車のさばきの見本。
それもこれも、三間飛車の職人として、この形のことを知りつくしているからこその、カウンターショットなのだ。
まず序盤戦は振り飛車から「いい蹴り」が入ったが、この程度でまいってるようでは、順位戦は戦えない。
真田は▲55金と投入して、力強く抵抗する。
傷口にはマーキュロクロム、カルサバ(軽いさばき)には、重い押さえこみがよく効く。
角が逃げれば、▲53桂成などで攻めがつながるが、もちろん、そんなのは振り飛車の手ではなく、△41飛と活用。
「争点に飛車をまわる」
振り飛車における、基本中の基本である。
▲64金は△44飛と、フリーハンドで暴れまくりだから、先手は▲42歩と打って、△同飛に▲11角成と馬を作る。
そこで、かまわず△45飛と桂を取るのが、またピッタリの一着。
▲同金は当然、△28角成だから、取るに取れない魚屋の猫。
後手の攻め駒は飛車角2枚だけなのに、それがあざやかなコンビネーションで、先手の連携を次々突破していく。
アマチュアには振り飛車ファンが多いが、その理由がよくわかる一連の手順だ。
こんなん見せられたら、そらみんな自分でも、指したくなりますわな。
ここまで、好き勝手やっているように見える中田功だが、中盤以降も絶好調。
いやむしろ、ますますペースが上がっていく感じで、われわれの目を楽しませてくれるのだから、コーヤンの三間飛車は本当に官能的である。
(続く→こちら)