三間飛車の芸術的さばき 中田功vs真田圭一 1993年 第51期C級2組順位戦

2019年09月10日 | 将棋・名局

 中田功が見せる、三間飛車からのさばきは、いつ見ても惚れ惚れする。

 前回は島朗竜王が、羽生善治六段に見せた、攻め駒を責めるB面攻撃を紹介したが(→こちら)、今回は華麗な大駒の乱舞を。

 

 昨日の夜、なんとなくネットを見てたら、村中秀史六段のYoutubeチャンネルに中田功八段が出ていた。

 なんでも「王手将棋」をやるということで、こりゃすごい、と座りなおすことに(→こちらなどから)。

 なんといってもコーヤン(中田功八段の愛称)は専門誌『将棋世界』に、なぜか王手将棋の講座を持っていたという、その道のスペシャリスト。

  さらには、その天才的センスから、同誌の企画で先崎学九段との

 

 「飛車飛車vs角角」

 「金金金金vs銀銀銀銀」

 

 といった変則将棋対決にも抜擢された、知る人ぞ知るゲームの達人なのだ。

  こりゃもう見なきゃしょうがないと、そのあざやかな指し回し(と衝撃結末)を堪能したが、もちろんコーヤンのさばきが発揮されるのは、王手将棋だけではないのである。


 1993年、第51期C級2組順位戦の9回戦。

 中田功五段は、真田圭一四段と対戦することとなる。

 当時22歳だった中田功は、開幕2連敗を喫するも、そこから連勝して昇級争いに浮上。

 インタビューによると、この快進撃は師匠である大山康晴十五世名人が亡くなったことが、転機になったそう。

 順位も4位と好位置につけて、相当に有力だったが、中田にとって大きな試練だったのが、後半の当たりだ。

 まず6回戦では、プライベートでも仲の良い先崎学五段(4勝1敗)。

 続く7回戦では、新四段になったばかりの深浦康市四段(6連勝)。

 そしてこの9回戦では、7勝1敗の真田圭一四段。

 どれも、自力昇級の権利を持った、超強敵3連チャンだったのだ。

 このジェットストリームアタックにはコーヤンも、

 


 「今なら火を噴いてます(笑)」


 

 思わず苦笑いだが、このときの中田功は冴えていて、先崎、深浦という、未来のA級棋士をなで斬りにして2敗をキープ。

 むかえた最後の関門が、のちに竜王戦挑戦者になる真田圭一だが、ここでコーヤンは代表作といっていいほどの、すばらしい将棋を披露するのだ。

 この大一番に、中田は当然エースの三間飛車を投入。

 真田は穴熊全盛の時代では、なかなか見られなかった急戦策で迎え撃つ。

 むかえた中盤戦。▲45桂とはねて、居飛車が成功しているように見える。

 


 

 △同金▲33角成と、が取れる。

 角が逃げるのは、▲44角をいただいて、どちらも先手がうまい。

 一見、手段に窮しているように見えるが、もちろんのこと、これは中田功の掌の上。

 ここから、まるで舞を舞うような、スペシャリストの「ワザ」が見られるのだが、その第一弾のさばきとは。







 

 △42角▲44角△64角が、あざやかな三角跳び。

 負担になっているを取らせて、その逆モーションで角を好所にのぞく。

 これぞ、振り飛車のさばきの見本。

 それもこれも、三間飛車の職人として、この形のことを知りつくしているからこその、カウンターショットなのだ。

 まず序盤戦は振り飛車から「いい蹴り」が入ったが、この程度でまいってるようでは、順位戦は戦えない。

 真田は▲55金と投入して、力強く抵抗する。

 傷口にはマーキュロクロム、カルサバ(軽いさばき)には、重い押さえこみがよく効く。

 角が逃げれば、▲53桂成などで攻めがつながるが、もちろん、そんなのは振り飛車の手ではなく、△41飛と活用。

 

 



 「争点に飛車をまわる」

 振り飛車における、基本中の基本である。

 ▲64金△44飛と、フリーハンドで暴れまくりだから、先手は▲42歩と打って、△同飛に▲11角成と馬を作る。

 そこで、かまわず△45飛を取るのが、またピッタリの一着。

 




 

 ▲同金は当然、△28角成だから、取るに取れない魚屋の猫。

 後手の攻め駒は飛車角2枚だけなのに、それがあざやかなコンビネーションで、先手の連携を次々突破していく。

 アマチュアには振り飛車ファンが多いが、その理由がよくわかる一連の手順だ。

 こんなん見せられたら、そらみんな自分でも、指したくなりますわな。

 ここまで、好き勝手やっているように見える中田功だが、中盤以降も絶好調

 いやむしろ、ますますペースが上がっていく感じで、われわれの目を楽しませてくれるのだから、コーヤンの三間飛車は本当に官能的である。


 (続く→こちら


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