レッセルシュプルング作戦 佐藤天彦vs稲葉陽 2017年 第56期名人戦 第6局

2021年03月19日 | 将棋・好手 妙手

 佐藤天彦の、ねばり腰にはシビれた。

 先日行われた、第79期A級順位戦の最終局は、メインイベントである降級争いこそなかったが、挑戦者を決める一番は、その欲求不満をおぎなって余りある熱戦だった。

 その功労者こそが、消化試合の立場だった佐藤天彦九段

 評価値換算では、勝率ヒトケタ%の土俵際で延々と戦い続け、一時期は逆転の空気が、濃厚なところまで盛り返したのだから、すごいもの。

 名人位を失ったところから、これといった目立った戦績のない佐藤天彦だが、この将棋を見て、まったく心配する必要はないと確信した。

 これだけの見せ場を作る棋士なんだから、ここからどんどん巻き返してくるだろう。NHK杯もおしかった。

 前回は永瀬拓矢王座のA級昇級を祝って、新人王戦優勝の将棋を紹介したが(→こちら)今回は佐藤天彦の将棋を取り上げてみたい。

 

 2017年、第56期名人戦は、佐藤天彦名人稲葉陽八段が挑戦。

 第6局は、3勝2敗で名人防衛に王手をかけた佐藤が、稲葉得意の相掛かりを受ける展開に。

 序中盤のかけ引きが、かなりのハイレベルで、観戦するにはむずかしい将棋だったが、ようやっと駒がぶつかって、この場面。

 

 

 稲葉が▲75歩と突いたのが機敏な手。

 佐藤名人は△75同銀と取れると思っていたそうだが、それには▲65桂打とくり出すのが、うるさい攻め。

 ▲75歩のような攻めに、形は△84飛と浮くものだが、ここでは▲76桂と打つ筋がある。

 困ったようだが、ここで名人がうまい使いを見せる。

 

 

 

 

 

 △62桂と打つのが、おもしろい手。

 受け一方のようだが、後手も△74桂と跳ねだせば、▲66▲58玉▲78が絶妙の位置で目標になっている。

 稲葉は▲65桂打とこじ開けに行くが、△同桂▲同桂△42角▲76桂△83飛と浮いてつぶれない。

 

 

 

 以下、▲64桂△同歩▲74歩に△65歩を取り払い、▲同銀△53桂とふたたび自陣桂

 

 

 ▲76銀△74桂と活用して、いかにも後手好調。

 

 

 

 △66桂打の王手金取りを避け、▲79金と引いたところで、△55歩と突くのが感触の良い手。

 ▲75銀打と、厚みでしのごうとするところに、△62桂みたび自陣桂

 

 

 

 その後、佐藤名人は△64桂と、4枚目の桂馬も自陣に打って、先手玉を攻略。

 

 

 

 飛車の宇宙戦艦と、その周囲でグルグル回るのファンネルが先手の駒を攪乱し、5枚金銀をうまくまとめることができない。

 

 「三桂あって詰まぬことなし」

 

 という格言は、

 

 「使えない」

 「役に立たない」

 「詰んだとこ、見たことない」

 

 結構ディスられているが、

 

 「桂は控えて打て」

 

 という別の格言は、メチャクチャ使えるということがよくわかる。

 天馬の華麗な乱舞を見せた佐藤天彦が、見事に名人初防衛を達成するのであった。
 

 (稲葉陽の銀河戦優勝編に続く→こちら

 

 


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