読み終えて「なんじゃこりゃあ!」 江戸川乱歩『孤島の鬼』&ヴィクター・コントスキー『必殺の新戦法』

2017年06月03日 | 

 『松田優作小説』に出会うと、小躍りしたくなるほどうれしい。

 といっても、これは伝説の俳優には関係なく、あまりの奇想に、読み終えたとき、



 「なんじゃこりゃあ!」



 そう叫んでしまう小説のことである。

 前回(→こちら)はアルゼンチンの作家コルタサルや、ウィリアムブリテンジョンディクスンカーを読んだ男』を紹介したが、今回もそんな変わり種を。

 たとえば、ヴィクターコントスキー必殺の新戦法』。

 主人公は、あるチェスプレーヤー

 成績的にはさえない地味な男だったが、あるころから連勝街道を走りだす。

 どうやらその秘密は、彼の発見した画期的な新戦法にあるらしいのだが、はたしてその正体とは……。

 チェス小説のアンソロジー『モーフィー時計の午前零時』に収録されている短編だが、これが実にイカれている。

 物語のキモは、彼の編み出した新戦法がどういうものかだが、その正体というのが、ぶっ飛んでいるなんてもんではない。

 書いてしまったら、おしまいだから自粛するが、あまりの内容に茫然自失抱腹絶倒、そして大爆笑

 なんというのか、



 「チェスを題材に小説を書いてみよう」



 という出発点からは、絶対に出てこない発想なのだ。

 ようこんなん思いつくなあと、心底感心しました。

 こんな素敵に阿呆な小説は大好きだ。

 ファルス(と勝手にジャンル分け)としてのお気に入り度は、坂口安吾風博士』と並ぶかも。

 シェリイスミス午後の死』を読んだ小泉喜美子さんのごとく


 


 「こんな小説、書いてみたいねえ」



 思わず、つぶやく一品。

 たとえば、江戸川乱歩孤島の鬼』。

 乱歩先生といえば、探偵小説界の巨人であり、われわれミステリファンなら足を向けて寝られない、それはそれは偉大な人。

 そんな先生のすばらしいところは、そんなビッグマンでありながら、同時にそれはそれは



 「なんじゃこりゃあ!」



 な作品を、たくさんものしていること。

 乱歩チルドレンの一人である大槻ケンヂさんは、



 「乱歩をあつかった映画がつまらないのは、彼を『アーティスティック』ととらえているから。

 そうじゃなくて、乱歩は開いた口がふさがらなくなる駄作や、奇想としかいいようのない『バカ』なものも書いてて、むしろそっちこそが本質なのだ。





 これには、やはり子供のころ、乱歩先生から読書のすばらしさを教えてもらった私も大賛成だ。

 かの大乱歩を「アート」など、まったくしゃらくさい

 たしかにビッグ乱歩はSМ趣味や少年愛エログロナンセンスな要素を小説に取り入れてはいるが、それはどこか、「B級」テイストなのが持ち味だ。

 『人間椅子』『鏡地獄』『D坂の殺人事件』『パノラマ島奇譚』などなど代表作は、ときに「芸術的」に解釈されるけど、その中身は読んでみるとどこか「?」というか、腰くだけなところがポイント。

 たしかに美しくはあるけど、それはどこか駄菓子屋的というか、ジャンク安いところに味があるのだ。

 そのトホホというか、「バカ」なところが、グレート乱歩の妙味ではあるまいか。

 だから、子供向け作品も上手なのだとも思う。

 そんな数ある奇想の中でも、さらによりすぐりのものに、この『孤島の鬼』がある(以下ネタバレはしてないけど、カンのいい人はわかっちゃうかもしれないから飛ばしてください)。

 密室殺人同性愛フリークス洞窟での大冒険と、乱歩テイストをこれでもかと詰めこんだ、著者自身も認める代表作であるが、この結末がすばらしかった。

 いや、ミステリのクライマックスのキモといえば「犯行の動機」であり、世の中には、



 が欲しかったから盗んでやった」

 「オレを愛さなかったから殺してやった」



 とかとか、激しいのになると、



 「この腐った世界など、一度滅びてしまえばいい!」



 なんていう人もいるけど、まさか、




 「この腐った世界など、一度滅びてしまえばいい! そして、地球を〇〇の世界に作り変えてやるのだ!」




 とは、恐れ入りました

 それって、今流行りの〇〇〇ものの走りというか、ある意味ディズニーならぬ、〇〇〇〇〇ランドを作りたいってことでは(笑)。

 これには恐ろしさに背筋が凍るやら、あきれて爆笑するやら、「やっぱ先生は天才や!」と感心するやら。

 ともかくも、傑作なのは間違いなし。みんなも読んで、その奇想にぶっ飛びましょう。




 (フレドリック・ブラウン編に続く→こちら





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