「東海の鬼」の幻術 升田幸三vs花村元司 1956年 第10期A級順位戦

2022年07月10日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 升田幸三と言えば、「ポカ」である。

 ヒゲの大先生と言えば、

 「升田流角換わり

 「升田式石田流

 「駅馬車定跡

 などなど、天才的な序盤戦術とともに語られるべきは、信じられない大ポカ。

 「升田のポカ」というのは有名で、またそれが、ここ一番という大勝負に出現することも多いというのが、また語り草になるところは、前回の「ポカからまさかの快勝」事件でもわかるところ。

 そこで今回も、その「升田のポカ」にスポットライトを当ててみたい。


 1956年の、第10期A級順位戦

 花村元司八段と、升田幸三八段の一戦。

 この期のリーグ戦を、ともに8勝2敗の好成績でフィニッシュした2人は、名人挑戦を決めるプレーオフ3番勝負に進出。

 1勝1敗と星を分けた第3局では、相矢倉から先手の升田がバリバリ攻めていく。

 

 

 図は2枚のが強力で、升田が勝勢だが、次の手がハッとするところ。

 

 

 

 △59馬と王手するのが、「妖刀」花村の魅せた手。

 真剣師あがりで、幾多の修羅場をくぐってきた「東海の鬼」花村はタダではやられないし、将棋と言うのは、たとえ負けても、1回はこういう相手をドキッとさせる手を見せることが大事なのだ。

 取ればもちろん、△26角の王手飛車。

 そこで升田は▲78玉と逃げるが、△69角の追撃。

 

 

 

 王手王手でせまられて、かなり気持ち悪いが、後手も戦力が不足しており、逃げ切れそうなところ。

 とりあえず、玉をどこに逃げるかだが、升田はこの大事な場面で、まさかの「やらかし」を見せてしまう。

 

 

 

 

 

 ▲67玉と逃げたのが、名人戦の挑戦者決定戦という大舞台でやってしまった大ポカ。

 すかさず△58角成で、先手玉は大トン死。ここで升田は投了

 以下、▲66玉に△74桂、▲75玉、△85馬と抱きつかれてピッタリ。

 

 

 

 升田によると、そこで「▲74玉」と逃げれると錯覚していたそうで、ウッカリしているとこに、なにを言っても意味などないが、それでも、あまりにもったいない。

 正解は▲88玉で、△85桂▲67金

 △76歩、▲同金、△68馬には▲79歩で受かっていて、後手玉は▲42銀▲15歩で受けがなくなるから、先手の勝ちだった。

 

 

 このころの升田は、大山康晴がいたせいで名人を取れずに苦しんでいたが、まさかの伏兵相手に、落とし穴に落ちることとなったのだった。

 それにしても、遊びの将棋でも、こんな負け方したら盤をひっくり返したくなるのに、それを名人戦挑決で喰らってしまうなど、どういう気持ちになるのか。

 このころは升田本人のみならず、ファンの方も相当にフラストレーションがたまったかもしれない。

 今で言えば、「名人」「八冠王」を期待される藤井聡太五冠が毎度、挑決や決勝戦でこんな負け方をしてると想像してみたら、これはメチャクチャにしんどいですわなあ。

 

 (升田のポカの理由編に続く)

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