藤井聡太と羽生善治のタイトル戦は実現するのか。
というのが、今期王将リーグを舞台に大いに盛り上がっている。
羽生善治九段と言えば、昭和後期から平成の将棋界において圧倒的な王者として君臨してきた大棋士。
ところが、竜王を広瀬章人八段に奪われ無冠に転落したあたりから、その棋神のごとしだった強さが鳴りを潜めてしまった。
タイトル戦や棋戦優勝から遠ざかり、竜王戦で挑戦者になるも、豊島将之竜王に1勝4敗と完敗。
順位戦でもA級から陥落。1期での復帰を期待されたB1でも、早々に4敗目を喫するなど、思わぬ苦戦を強いられている。
年齢的に棋力が下り坂になるのは、どんな棋士でもさけられない運命で、さすがの羽生でもそれに対抗するのは、むずかしいよう。
このままだと、昔のような存在感もなくなっちゃうかもなあ、とか心配してたら、あにはからんや。
まず棋王戦では、佐藤康光九段、広瀬章人八段、伊藤匠五段を破って勝者組の決勝に進出(まさに今、佐藤天彦九段戦を観戦中)。
王将リーグでも快進撃を見せ、服部慎一郎五段、近藤誠也七段、糸谷哲郎八段、永瀬拓矢王座、渡辺明名人・棋王を次々破って、土つかずの5連勝。
若手のホープから、現役のA級、タイトルホルダーをつるべ打ちしてこの成績だから、すばらしいの一言。
最後に残った豊島将之九段戦に勝てば文句なしで挑戦者。
負けても3戦を残している豊島九段が1敗でもすれば決定。
仮に羽生相手もふくめて3連勝しても、まだプレーオフがあるという、羽生にとっては断然有利な星勘定となったのだ。
ただ、そこは天下の豊島将之のこと。
そう簡単に「どうぞお通り」というわけにはいかず、服部五段と渡辺名人を破って最終戦に希望を残す。
こうなると、勝負はわからなくなってきた。
藤井-羽生のタイトル戦は観たいけど、必死で戦っている人に
「空気を読め」
というのは、冗談でもあまり言いたくないので、もうあとは見守るだけ。
私は羽生ファンであるが、同時に豊島ファンでもあるので、まあここは
「どっちが勝ってもオレの勝ち」
というスタンスで行くしかないわけだが、それでもやはり、羽生さんに少しばかり肩入れしてしまうのは、たぶんちょっとした歴史的な「忘れ物」感があるから。
まず、そもそもの話、今回の王将戦は私だけでなく、多くの人が藤井-羽生戦を期待していると思われる。
それはまあ、単純に話題性ということもあるが、人によっては、そこまででもないという声も、あるかもしれない。
これが、仮に「羽生王将」に「藤井挑戦者」が挑んで、それで防衛なり奪取なりすれば、
「新旧交代の戦い」
として盛り上がるが、藤井聡太はすでに五冠を保持する第一人者。
A級でなく、タイトルも持っていない今の羽生との「格付け」は、対戦成績もふくめて、とっくに終わっているのではないか。
その意味では、やはり豊島や永瀬、渡辺や糸谷のような「今」をバリバリで戦う棋士か、近藤や服部のような次代を担うニューフェイス(棋王戦の伊藤匠五段とか)が出たほうがいい。
という声もそれはそれで一理あるわけだが、それでもやはり、
「今回は羽生さんに……」
と考えてしまうのは、特に昭和後期から平成の将棋界を知っている私が、
「結局最後まで、あの大棋士と羽生善治のタイトル戦が実現しなかった」
というモヤモヤを、なんとなく思い出したりしているから、なのかもしれない。
(続く)