将棋 この大トン死がすごい! 谷川浩司vs高橋道雄 第13期棋王戦

2018年07月28日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 人の指す将棋のおもしろさは「悪手」や「フルえ」にこそある。
 
 前回(→こちら)の羽生善治竜王に続き、今回はそのライバルである谷川浩司九段に登場していただこう。

 谷川といえば

 

 「前進流」 

 「光速の寄せ」

 

  を売り物にし、将棋の終盤のスピード感を変え、世界に変革をもたらした男。

 その圧倒的かつ、クリエイティブ終盤力は、まさに「通常の3倍」の速さで敵の肺腑をえぐり取る。

 よく西部劇のガンマンや、凄腕の剣豪をあつかった映画や小説に、



 「気がついたら撃たれていた(斬られていた)」



 という表現があるが、谷川の寄せはまさに、そういった「見えないところから飛んでくる」おそろしさがあるのだ。

 だが反面、そういった「美しい攻め」を旗印にするものは、ときにその美学に裏切られることもある。

 いわば、



 「1-0で勝つよりも、3-4で負ける方が美しい」



 と言い放った、「トータル・フットボール」のヨハンクライフとオランダサッカーのように、その理想に殉じてしまい、勝率の面などでをすることがあるのだ。

 そんな谷川のポカは、当然攻める手にあらわれやすく、一番わかりやすいのは、



 「寄せあり、と思って手堅く行けば安全勝ちのところ、あえて踏みこんだら、なんと寄らなかった」



 というものだろうが、ここではもう一歩踏みこんで、



 「詰みと思って踏みこんだら、全然詰まなくて、呆然としてたらなぜか詰んでしまって、勝ったんだけどもう全力で納得いってない谷川浩司」



 という場面を紹介したい。

 事件が起こったのは、1988年に行われた、第13期棋王戦5番勝負。

 高橋道雄棋王との対戦でのことだ。

 私が将棋ファンになったのは、ちょうど羽生さんが四段プロデビューしたころで(あらためて思うと、すごい前だな……)、当時のトップといえば谷川浩司だった。
 
 特に名人戦での中原誠との激闘の印象が強く、藤井聡太七段からファンになった人にとって、「名人」といえば佐藤天彦だろうが、子供のころの私は「中原名人」と「谷川名人」のひびきがしっくりきたものだ。

 そんな「羽生前夜」の将棋界を席巻していた谷川だが、それに対抗していたのに高橋道雄南芳一がいた。

 中でも高橋はその腰の重い棋風で、棋王戦では谷川を破り、王位二冠を獲得するなど、

 

 「一番強いのは高橋では」

 

 という声もあったものだ。

 このふたりは今でいえば、豊島棋聖vs菅井王位くらいのイメージであろうか。

 そんな、次世代を担う谷川と高橋が相対したのが、またも棋王戦の舞台。

 このころの谷川は、前年の棋王戦敗退で無冠になり、ややスランプ気味だったが、心境の変化などから復調の気配を見せる。

 まず、痛い目にあわされた高橋から王位を奪い返し(奪取のドラマチックな一局は→こちら)、このシリーズも優位に展開する。

 オープニングマッチを制し、続く第2局も右玉から後手の猛攻をしのいで、谷川が勝ちの局面をむかえた。

 

 



 
  ……と誰もが思った。

 踏みこんでいった谷川はもとより、観戦していた面々も、対戦相手の高橋すらも。

 だがこの谷川勝勢に見えた局面が、どうあがいても先手が負けになっていたという事実から、ドラマの幕が開くのだ。



 (続く→こちら

 

 


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