横歩取り「中座流△85飛車戦法」の隆盛 松尾歩vs木村一基 1999年 王座戦

2022年11月08日 | 将棋・好手 妙手

 「自分では絶対に思いつかない手」

 これを観ることができるのが、プロにかぎらず、強い人の将棋を観戦する楽しみのひとつである。

 藤井聡太五冠の見せる、終盤のあざやかな寄せもすばらしいが、様々なクリエイター型棋士が見せる序盤戦術での新構想にも、シビれることが多い。

 前回までは升田幸三賞も受賞した「鈴木(大介)式石田流」のヘンテコな将棋を紹介したが、今回もまた歴史を変えた画期的な戦法について。

 世代的にやはり、もっともおどろかされたのが

 

 「藤井システム」

 

 これにつき、もうひとつ同じくらい「丸山忠久名人」や「渡辺明竜王」など、多くの棋士の運命を変えたであろう、

 

 「中座流△85飛車戦法」

 

 このインパクトもすさまじかった。

 藤井猛中座真が生み出したこの2つこそが、平成将棋界を引っ張ったビッグウェーブであって、抜きにしてこの時代のことは語れないのだ。

 

 1999年の王座戦。

 木村一基五段松尾歩四段の一戦。

 

 

 

 このころ大流行を超えて、ほとんど居飛車後手番マスト戦法に近かった「中座飛車」。

 とにかく猫も杓子も採用していたため、当然のごとく新手が続出し、とんでもない進歩を見せることに。

 ここから後手は、先手の陣形によっては、飛車の横利きを生かして△75歩と仕掛けたり、△25歩と先手の飛車を押さえたり。

 △54歩から△55歩と玉頭をねらったり、あるいは△86歩から横歩を取りに行くなどが考えられるところ。

 だが、ここで松尾が指した手が、目を疑うものだった。

 

 

 

 

 

 

 △55飛とまわるのが、のけぞるような異形の感覚。

 あるベテラン棋士が、これを見て

 

 「図面が間違ってるよ」

 

 と指摘したそうだが、その気持ちはよくわかる不思議な手だ。

 

 

 

 

 そもそも、この「中座流」自体が、初めて出現したとき、検討していた棋士たちが皆、

 

 「指がすべって、△84に引くはずの飛車を間違えたのかと思った」

 

 そう口をそろえるほどの違和感なのに、さらに「えー!」という手が飛び出すとは。

 相手のの利きに飛車を置くなど、まったく意味不明に見えるが、▲同角△同角▲88銀△44角打が、飛車取り△88角成の両ねらいで「オワ」。

 

 

 

 木村は▲58金と固め、▲29飛と引いて強襲にそなえるが、松尾は一回△54飛と引き、△75歩△35歩とゆさぶりをかけてから、好機に△65桂と飛び出していく。

 

 

 

 結果は木村が勝ったが手としては有力で、とかく受け身になりがちな居飛車後手番で、主導権を取って攻めることができるのが大きかった。

 この戦型はタイトル戦など大一番でも定番となり、特に「丸山忠久名人」誕生の大きなカギになったことが、将棋史的にもっとも語られるべきところであろうか。

 

 (丸山忠久が名人をかけた横歩取りの将棋はこちら

 

 ■おまけ

 (「中座流」登場前の古典的な横歩取りはこんな感じ)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 


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