「この世界に足りないのは、ド外道っスよ!」
そんなことを言ったのは、後輩ハナタグチ君であった。
彼は映画やマンガが好きなのだが、最近そこで出てくる悪者に不満があり、
「頭脳明晰な殺人者」
「完全なる悪」
「弱者による世界への復讐」
のような、人生哲学や感情移入を誘発するヤツはアカンと。
「もっとシンプルに、平松伸二先生の『ブラックエンジェルズ』に出てくるような、心の底からブチ殺したくなる、わかりやすい悪がええんです」
というのが彼の望みなのだ。
声に出して読みたい松田さんの名セリフ。
「いや、ネットリンチとかって、そういうノリから……」とは、とてもつっこめません。
前回『シカゴ』のヒロイン(→こちら)などを紹介したが、続けて「やな女」部門から。
映画版『桐島、部活やめるってよ』の野崎沙奈。
もともと『桐島』は、観たあとかならず自分の青春時代を良かれ悪しかれ振り返り、そのさまざまな記憶の奔流に、
「ああ!! あああああ!!!!」
頭をかかえて悶絶させられるという、デヴィッド・フィンチャー『ゴーン・ガール』のような、
「絶対見るべきだが、決しておススメではない」
といったタイプの映画だが、とにかく鑑賞中ずっとザワザワしっぱなしで、居心地が悪いのなんの。
そもそもこの映画は、学校という閉鎖空間の息苦しさを見事に表現した、ある種の「収容所もの」でもあるわけだが、これはもうオープニングでの女子4人の会話から、これでもかとそれを感じさせる。
なんかあの女子たちの、
「顔がかわいいもの同士なんとなくつるんでいて、別にそこに熱いものはないけど、そこを軸に周囲を見下す態度を取ることに、やぶさかでない」
という、イヤーな連帯感を見せられる。もうこの時点で、
「あ、これはアカンやつや」
という気にさせられますよねえ。
部活のことで悩んでるバドミントン部の子に、
「あたしだって、別に本気でやってるわけとかじゃないし」
みたいなことを言わせる同調圧力とか、ヒドイなあ。
監督の演出が巧みすぎて、ちょっと正視できない感じなのだ。
でだ、立場的には明らかに文化系地味男子の私からすれば、あのパーマとか桐島の彼女とか言いたいことあるヤツはいっぱいいるわけだけど、中でもダントツに「仮想敵国」になるのが、松岡茉優さん演ずるところの野崎沙奈。
いやもう、この女がねえ、すごく、すーんごく、やな女なんですよ。
うーん、これじゃあ言い足りなあ。ちょっとここは一発いかしてください。
松岡茉優ちゃん演ずるところの、野崎沙奈。これがもう、すごく、すごーくヤな女で、もう観ている間中ムカムカしまくりで、死ねこのクソ女とスクリーンに叫びまくりやあああああ!!!!
ぜいぜい……ちょっと興奮してしまったけど、とにかくそういうこと。
もう、無茶苦茶に、ムーッチャクチャにイヤな女なのだ。
このふだんはボーっとした私が、連呼してしまったものねえ。
死ね、死ねこの女、今すぐ死刑!
嗚呼、腹立つぜ。
これは私だけでなく、映画評論家の町山智浩さんをはじめとして、この映画を観た男子が同じように、
「やな女なんだよー(苦笑)」
と語っているから、本当にそうなんだろう。
具体的にどう嫌なのかは映画を観てもらうとして、彼女のすごいのは個々の言動とか言うよりも雰囲気というか、とにかく全身から「イヤな女子高生」オーラが噴き出ているところ。
なにがどうということはないけど、わかるのだ。コイツとは絶対に仲良くなれないよ、と。
いや、これねえ。もちろん、ほめ言葉なんです。
つまるところ、セリフとかうんぬんじゃなくて彼女自身が
「ヤな女にしか見えない」
ということは、演じている松岡茉優さんが、すんごく演技が上手ということなんですよ。
彼女はNHKのドラマ『あまちゃん』で、
「明るくてがんばり屋で、それでいてちょっと抜けているところがあって、皆から慕われるリーダー」
ていう、まさに正反対の役をやってるから、よけいにその達者さが際立つ。
すごいなあ、この子。今の邦画やテレビドラマの大きな弱点は
「役者がそろいもそろって演技が下手すぎる」
ということだから(なので『シン・ゴジラ』は「演技をさせない」ため、あんな編集になってるんですね)、よけいにそれが際立つというもの。
この作品は群像劇であり、あえていえば神木隆之介君と東出昌大君が主人公になるんだろうけど、物語の芯を支えている裏MVPは、間違いなく松岡茉優さんであろう。
もう、出てくるたびに、
「この女、オレ様が成敗してくれる!」
て気になるのだ。まあ、どう「成敗」するかは、ご想像におまかせしますが(←絶対エロいこと考えてるだろ)。
いやあ、いいなあ松岡さん。最高ですやん、この子。
というと、なんだかさんざ語っておいて「最高」とはどういうことだとつっこまれそうだけど、前回も言ったように、
「女のド外道は魅力的でもなければならない」
わけで、その定義からいっても、松岡茉優さん演じるあの女は、もう腹立って、ぶん殴りたくなって、「でも……」という気分にさせられる、「最高にいいクソ女」なのである。
つまるところ、結論としては、
「ゴミみたいなあつかい受けてもいいから、死ぬほど根性の曲がった松岡茉優さんとつきあいたい」
ということであり、マジで惚れますわホンマ。