パンクとファルスの抱腹絶倒日本文学 坂口安吾『風博士』を読もう! その2

2018年12月18日 | 
 前回(→こちら)の続き。
 
 林太郎金之助も悪くないが、日本文学の最高峰は坂口安吾であると確信している。
 
 安吾先生の魅力は、一言でいえば「パンク」である。
 
 『日本文化私観』など、のっけからブルーノタウトが絶賛する桂離宮を「見たことがな」いとし、茶の湯石庭よりも小菅刑務所ドライアイス工場を美しいと礼賛。
 
 あまつさえ、
 
 
 「必要ならば、法隆寺をとりこわして停車場をつくるがいい」
 
 
 などとぶちあげる。
 
 これには坂口ファンであると公言する作家や文化人すら、
 
 
 「論旨が破綻している」
 
 「そこまで日本古来の文化をあしざまにいう必要があるのか」
 
 
 首をひねるが、もちろんのこと安吾先生だって、本当に寺をつぶして停車場を作れと言っているわけではあるまい。
 
 この『日本文化私観』では、冒頭から「日本を愛する」ブルーノ・タウトという「偉い人」をもってくるところからして、そういう
 
 
 「気取った文化人が語る日本文化」
 
 
 にモノ申したいわけだ。
 
 法隆寺竜安寺石庭が悪いのではない。
 
 そういった「文化的」なものを
 
 
 「権威があるから」
 
 「えらい人がいいと言っているから」
 
 
 などといった理由だけでほめたたえ、しまいにはその意見にくみしない人を見ると、
 
 
 「おまえはわかってない」
 
 「伝統文化なんだから敬えばいいんだ」
 
 
 などと、権威ぶってカマす俗物。そういった連中の性根こそを、
 
 
 「停車場にでもしたったらええねん!」
 
 
 一撃食らわせているわけだ。
 
 これには、なんと痛快なことであるかと溜飲が下がる思いだった。私も当時、無力な10代男子として、
 
 
 「えー、これ流行ってるのに知らないのー?」
 
 「我々には歴史と伝統がありますから」
 
 「先生がそういってるんだから、だまってやればいいんだ」
 
 
 などといった、意味不明高圧的態度に、
 
 
 「流行りって、ただの広告代理店の宣伝や! こっちを愚民あつかいして高笑いしとるやつらの流す情報なんぞ、知ってるほうが、おどれの知性と個性の欠如をあらわしとるんや!」

 「歴史と伝統って、ただ古いだけやし、仮にそれに価値があるとしても、それでイバるお前は、『オレの兄ちゃんヤンキーやから、お前らのことシバいてもらうからな!』ってえらそうにしてる中学生と変わらん!」

  「だまってやればいい。その通り! 日本の学校教育いうのは、アンタのやるような《奴隷根性の育成》ですからな。でも、そんな《ヨゴレ仕事》をやってるという罪悪感くらい持っても、バチは当たらへんのとちがいますか?」
 
 
 なんて、いちいち憤っていた私からすると(というか、でも全然思ってますけど)、安吾先生の言いたいことは共感度400%なんである。
 
 ようするにいいたいことは、人が「」とか「歴史」とか「芸術」とか、そういったものと向き合うときに、審美眼知性は必要だが、
 
 
 「権威によっかかっただけの、えらそうな連中のご高説」
 
 
 これがいらないということだ。「流行」? 知らん。「伝統文化」? に食わせとけ。
 
 そういった「上からの雑音」は本当に邪魔だ。マンガ家桜玉吉さんの名セリフを借りれば、
 
 
 「自分の好きなものくらい、自分で決めるよ」
 
 
 だから「日本文化」に安易によっかかる人に疑念の目を向ける。
 
 日本文化が良いものであることは本当だろう。だがそれは、決して
 
 
 「ブルーノがそう言ったから」
 
 
 であってはならない
 
 大人を信じるな! ドント・トラスト・オーバーサーティー! これぞまさに、パンクではないか。
 
 以上、これが「正解」かどうかはわからない私の勝手読みだが、「」の部分は共通しているのではあるまいか。
 
 後年、パンク歌手で芥川賞作家町田康さんの作品を読んだとき、
 
 
 「あっりゃー、この人、絶対安吾チルドレンや」
 
 
 と感じたものだが、調べてみるとやはりそうで、それどころか坂口安吾を特集した本では対談で、熱くそのを語っておられた。
 
 やっぱり、そうであった。私はパンクという魂を、イギー・ポップでもザ・クラッシュでもなく、坂口安吾から学んだのであった。peste!
 
 

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