前回に続いて『帰ってきたウルトラマン』のお話。
上の偉い人から「次ダメだったら解散だからな」とイヤごとばかり言われている、怪獣攻撃隊MATの面々。
グドンとツインテールという2大怪獣に苦戦を強いられ、やはり解散をちらつかされるのみならず、小型水爆と同じ威力の破壊兵器を使用して、東京もろとも怪獣を焼き払おうという作戦を聞いてびっくり仰天。
加藤隊長をはじめ、「そら、いくらなんでも、あんまりだっせ」とあきれ顔ですが、地球防衛庁の岸田長官はもうノリノリで……。
「まあ、このあたりは脚本書いてる上原正三の、沖縄戦の恨みとかもあるから」
「あの対馬丸に乗ってたんでしたっけ?」
「いや、違うはず。たしか疎開用の船が潜水艦にねらわれんよう、蛇行して逃げ回って数週間漂流したとか、そんな話」
「ボスタングの元ネタになったエピソード。しかし、連中も子供が乗ってる疎開船を沈めるかぁ?」
「戦争に仁義もへったくれもないんですよ。アニメの『対馬丸』は今でもトラウマですわ……」
「あー夏休みの登校日に見せられるヤツな。ガチやもんな。上原も負けてないけど」
「この人の沖縄の情念と、少女好きはマジもんですねえ」
「《オマエら沖縄を盾にして、とっとと降伏しやがって! 本土決戦やって、同じ目にあったらよかったんや! あとセーラー服とおさげが好き!》って、本気で思ってる人やから」
「だから『帰マン』初期では異様に東京を破壊するもんな」
「映画の『激動の昭和史 沖縄決戦』観たら、ちょっとは気持ちもわかりますけど」
「沖縄の民間人が次々死んでるのに、丹波哲郎とかが、どうやって名誉の自害すべきか延々話し合ってるという、ブラックジョークのようなシーンが」
「はよ降伏せーよ!」
「で、結局スナイパーはどうなったの?」
「ス【パイ】ナーね。加藤隊長をはじめとするMATの猛反対で、いったん凍結」
「そらそうだよね」
スパイナー使用阻止のため「もう一度チャンスをください」と願い出る加藤隊長。なぜ「理想の上司ランキング」に登場しないのか不思議。
「兵器の威力を表現するため、ここで原爆で廃墟になった街の写真を挿入するんですよね」
「あれは怖いよな」
「で、MATは最後のチャンスをくれということで、《ダメだったら解散》と最後の特攻に挑む」
「燃えるねえ。その作戦は?」
「ジープに乗って近づいて、10メートルの至近距離からツインテールに麻酔弾を撃つ」
「かなり無謀な気がするけど」
「いや、ここは盛り上がるところ」
「(歌う)ワンダバダバワンダバダバワンダバダバダ!」
「MATといえば地上戦!」
「怪獣とMATの接近戦が超燃えるんや。100回見ろ!」
「ボクが推しの丘隊員もバズーカで戦うし」
MAT日本支部で働く丘ユリ子隊員。
剣道四段の腕前。ウルトラシリーズのヒロインでは比較的地味とされているが、充分魅力的な女性である。
「一応、ツインテールの目をつぶして、ウルトラマン勝利のサポートはしたから活躍したよ。がんばってるやん」
「初期のMATは殺伐としてるけど、加藤隊長とか伊吹隊長とか、南隊員とか、いい人はそろってますし、応援したいです」
郷秀樹(ウルトラマン)の良き理解者である南隊員。射撃の名手。
子供のころいじめられっ子だったためか、弱い者へのやさしさを(同時にきびしさも)忘れない男。
キカイダー01でおなじみだが、もともとはウルトラマン役の候補でもあったらしい。
「MATは隊長が2人ともいいよな」
「加藤隊長が、郷隊員の妄想(?)を確認するために霧吹山に登るところとか、子供心にもグッときました」
「さっきのグドン&ツインテール戦で、隊員が緊張でジープのエンジンをなかなか、かけられへんところとか」
「静かに【落ち着くんだ】って声をかけるねんな」
「地味なシーンやけど、人柄が伝わる名演技なんです」
「伊吹隊長はやっぱ初登場時がカッケーんス」
「《この怪獣は俺が殺る》。超絶飛行テクニックがシブい!」
「根上淳は、もともと航空隊の生き残りやそうやし」
「あとはずせないのは、ムルチ戦の【郷、行くんだ!】」
「《怪獣使いと少年》。今のエクストリーム保守の人が見たら、卒倒するような内容」
「まあ、ウルトラシリーズは基本的には左寄りやろ」
「大江健三郎には批判されてましたけど」
「それは前も言うた通り、核のあつかいとかは雑でしたからねえ」
「あと心に残ってるのがゼラン星人」
「あれってやっぱ、メイツ星人に対するアンサーなんですかね」
「宇宙人が、口の聞けない障碍者の少年に化けて、人のやさしさにつけこむって話やもんな」
「なんだか、キワドそうなにおいが」
「伊吹隊長の娘さんが、その男の子と話をするために手話をおぼえるんスよ」
「美奈子ちゃん、メチャメチャええ子やねん! 親の育て方がよかったんやな」
家族で休暇中の伊吹隊長の一コマ。隣にいるのが、心やさしき美奈子ちゃん。
ふくれっ面なのは、パパの優先順位が家族旅行よりもMATの仕事の方なため。
隊長、空気読んで!
「で、伊吹親子の信頼を完全に得たゼラン星人は、《社会的弱者であるわたしに手が出せるかな》ってウルトラマンを挑発する」
「攻めてるねえ」
「攻めてるよなあ。《コイツは宇宙人です!》って見破ったはずの郷隊員が、《おまえ……サイテーやん……》て人非人あつかいされて」
「最後、伊吹隊長が自らマットシュートで撃ち殺すけど、その姿が……」
「たしか、見た目が少年に化けたままの状態やのに撃つんですよね」
「すごい絵面やねん。大人が子供を撃つねんもん。しかも首筋を」
「殺す気満々だ」
「まあ正体というか、人殺してるところ見たから、それはしゃあないけど」
「で、すべてが終わったあと郷秀樹が《ボクやったら、あの男の子は外国に引っ越したとか言うときますわ》って言うたら」
「伊吹隊長は首を振るんスよね。《いや、事実を話すつもりだ》」
「《しょせんは人の腹から生まれた子供だ、天使にはなれんよ》って」
「大人やなあ」
「でも、美奈子ちゃんにはキツいッスよね……」
「相手、小学生や。立派な人って、そういうところが重かったりするからなあ」
「そこは全然、ウソついてもええのにな」
「黙っとったらええのに、昔の子供番組はこういうとこに容赦せんのですよ」
「そのガチなところが、昭和特撮の魅力でもあるけどな」
「そんなMATなんですけど、劇中では解散、解散言われてかわいそうでした」
「よかったね、でも最後まで、解散しなくてすんだんでしょ」
「でも、そのあとも度々言われてましたよね」
「なんか、お約束のギャグみたいになって。【解散、いただきました!】みたいな」
「よ、成駒屋!」
「さーあ、どうするどうする!」
「合いの手が古いよ」
「《世論ではMAT不要論もある》とかナレーション入って、どんだけシメられてるねん」
「メインライターの一人、市川森一も《あーあ、MATって弱いなあ》って思いながらシナリオ書いてたらしいし」
「そこまで言われると、いっそ愛しくなるよ」
「だから、昔『アメトーーク!』の【元コンビ芸人】やったときさー」
「あー、あれは特撮ファンみんな思ったでしょうねー」
「《次に解散しそうな芸人》でアンジャッシュの名前が挙がってたんやけど……」
「うん、そこは絶対にMATって思ったよな、みんな」
「絶対《みんな》ではないと思いますけどね」
(TAC編に続く)