佐藤賢一『英仏百年戦争』 え? イギリスでもなく、100年でもなく、勝ってすらないの? 

2018年09月04日 | 

 佐藤賢一英仏百年戦争』を読む。




 英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。

 イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス人」だった。




 という紹介文にもあるように、我々が英仏百年戦争教科書で習い、かのシェイクスピアも華々しく「勝った」と歌ったこの戦い。

 これがなんと「英国」でもなく「百年」でもなく、ましてや「勝利」でもないことを、読みやすく、ときにユーモラスな文体で暴いていく本。

 平たくいえば、これは国家間の戦争ではなくて、

 「海峡をはさんだフランス王位をめぐる内輪もめ」



 であって、あんまりイギリス人は関係ない

 フランス諸侯が、フランスでチャンチャンバラバラやってただけやん、と。

 そもそも当時は「イギリス」とか「フランス」なんて国民国家も存在しなかったわけで、その意味でも「英仏」という表現も微妙だ。

 歴史の本を読むと、こういう「現在」の知識や経験がある立場から見たら、わかりにくいといった事例がけっこう多くて、困惑させられることがある。



 「ドイツ人がナチズムに傾倒していった時代」

 「共産主義が世界を二分するほど人を惹きつけたこと」

 「真珠湾奇襲すなよ。あんな国力に差があって、アメリカに勝てるわけねーじゃん!」

 「フランス革命って、もしかしてフランス大虐殺なんじゃね? ポルポトとか文革とどうちがうの?」



 などなど、「もっとうまく、やれんかったんかいな」なんて思いがちになる。

 もちろん本などで、当時の社会状況を把握していくと「なるほど」と考えさせられるが、それでも知識だけでは実感できないところもあろう。

 下手すると、そういったことに鈍感なあまり、


 「昔の人はバカばっかりだなあ」


 といった傲慢な感想すら抱いてしまうことも多々だ。

 それが短慮であることは重々承知だが、その意識の調整も、当時を知らないわれわれには困難を極める。

 どうしても「当たり前のこと」にとらわれてしまって、そこから歴史を逆算するのは難しく、その試みが「正しい」ことかもわからない。
 
 それこそ中世の「という概念がない」なんて、今では想像しづらいものなあ。

 でも考えてみれば、そもそも世界は「国なんてない」時間の方が圧倒的に長いのだ。

 アラブアフリカ国境線なんて、一部の人間が勝手に引いたものだし、「ドイツ」や「イタリア」というまとまった国も、せいぜい150年程度の歴史しかない。

 自分たちの方が「歴史的少数派」なのに、「想像できない」なんて、むしろ傲慢かもしれないのだ。

 この本から学べることはふたつで、


 「自分たちの《の常識》で見ると、歴史認識というのは傾いた家と同じで、まっすぐ歩いているつもりなのに、いつのまにかおかしな結論になってしまう」

 「歴史なんて自分たちに都合よく解釈したがるのは、どこの国も同じですわ(笑)」 



 どちらも安易におちいらないよう注意が必要だが、わかってても結構むずかしい条件ではあるなあ。





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