この一撃で「オワ」 中座真vs大石直嗣 2011年 第69期C級2組順位戦

2023年04月15日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 「オワ」というのは、升田幸三九段がよく使った言葉である。

 序中盤であざやかな構想妙手を見せ、早々と勝敗の行方を決定してしまったときや、逆に信じられない大トン死を食らってしまったときなどに、

 

 「この将棋は、これにてオワ」

 

 私は世代的に升田幸三九段の現役時代は知らないが、多く書かれている升田論や、やはり升田将棋をリスペクトする先崎学九段のエッセイなどでも、よく見かける表現。

 すごい手を食らって「おわあ!」とおどろいた状態かと思っていたが、なにかで「終わり」の略だと聞いたこともあり、くわしいことはよくわからない。

 まあ「ビックリするような急転直下でおしまい」

 くらいの感覚でいいと思うが、不思議なことに語源を検索してもなにも出てこないので、今では死語になっているのかもしれない。

 

 1958年、第17期名人戦第7局。
 升田の指した△44銀が、本人も生涯ベストと自賛した名人防衛を決定づける好着想。
 意味は超難解だが、▲45歩と突かせてから△33銀と戻っておけば、先手の角、銀、桂がまったく使えない形となり後手が必勝(らしい)。
 まさに「この銀上りでオワ」。

 


 とはいえ、羽生善治九段をはじめ多くの棋士が

 

 「一度は指して見たかった」

 

 あこがれる升田幸三のパワーワードをこのまま埋もれさすのは惜しいので、今回はそんな「オワ」な一手を紹介したい。

 

  2011年、第69期C級2組順位戦

 中座真七段大石直嗣四段との一戦。

 ここまで中座が3勝、大石は2勝と、双方星が伸びない中の対戦で、いわゆる「の大一番」という対決。

 後手の大石が、当時流行していた一手損角換わりを選択。

 局面は序盤、中座が飛車先の歩を交換し、大石が△45歩と突いて、▲46にいたをバックさせたところ。

 

 まだ。なんということもない場面で、これからの将棋に見える。

 初心者の方は△33角と打つ手が気になるかもしれないが、▲28飛▲88ヒモがつくからなんでもない。

 ところが、この将棋はすでに後手が必勝。ここで必殺手があるのだ。

 

 

 

 

 △46歩▲同銀△48歩で「オワ」。

 なんとこのわずか3手で、先手はすでに指す手がない。

▲同金▲同玉が逃げるのも、そこで△33角と打てば、▲48にある駒がになって▲28飛としても△88角成と取られてしまう。

 

 



 この歩打ち自体は部分的には手筋だが、一回△46歩とワンクッション入るところが盲点になったか、中座はこの手が見えなかった。

 これで先手は、どうもがいてもをなんの代償もなくボロっと取られてしまう。

 序盤の駒組も終わってない段階で、これはヒドイ。

 私だったら、バカバカしくなって投げる。いや実際、中座だって他の棋戦なら投了しただろう。

 しかし、これは順位戦である。

 しかも、中座はここまでまだ3勝

 この期は順位がよく、また最終戦もあるため、すぐに降級点を食らうわけではない。

 それでも万にひとつ、こんな負けを食ったことが最悪の結果を生んでしまったら、泣くに泣けないではないか。

 以下、中座は▲48同金△33角に、歯を食いしばって▲27飛と引く。

 当然の△88角成▲77角と打って、△同馬▲同桂△88角と打たれて銀香損が確定。

 ▲78金に、△99角成

 

 

 

 すでに将棋は終わっているが、中座はその後、まったく勝ち味のない局面を99手まで指し続けた。

 自らのふがいなさへの憤りや、脱力感をグッと飲みこんで、最後まで折れずに戦った執念もすごい。

 ここから投了までの手順は、きびしいことを言えば棋譜としての意味価値はほとんどないが、だからこそ、その無念さが伝わってくる。

 この中座の悲壮なねばりこそ、まさに「順位戦の手」だが、そういえばこれも「オワ」と同様、最近ではあまり聞かなくなった言葉かもしれない。

 

 

 


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