こんなに変だぞ『死刑台のエレベーター』 ノエル・カレフ原作 ルイ・マル監督 その3

2019年03月30日 | 映画
 前回(→こちら)の続き。
 
 一見重いフィルム・ノワールに見せかけて、実はゆかいなコントのようなフランス映画『死刑台のエレベーター』。
 
 ここでさらにコメディ度を加速させるのが、主人公モーリス・ロネをの道へと導いたジャンヌモロー
 
 またこのジャンヌ姐さんが、妙におかしいというか、恋人がアクシデントに見舞われていることに、ちょっとした行き違いがあって気づかず、
 


「どうしたん? もしかして土壇場でおじげづいたんかいな。それとも、もうウチのことなんて愛してないのん?」

 

 アレコレ悩みながら、深夜の街を徘徊するのであるが、なんかそこもヘン。
 
 たとえば、モーリス行きつけのバーに、聞きこみに出かけるのだが、そこで
 


 「ジュリアン(モーリス・ロネの役名)を見かけた」


 
 という女に出会う。
 
 期待と恐れが、ないまぜになった表情でジャンヌ姐さんは「彼女に一杯」とギャルソンに告げるが、女はうつろな表情で
 
 

 「先週よ……」 

 
 
 この答えに、ジャンヌ姐さんは「ああ……」とでも、ため息をつきたげに、そっと外に出ていく……。
 
 ……て、この場面。画で見ると、ジャンヌ姐さんの演技力と、マイルスデイヴィスのしっとりした音楽で、なにやらフレンチ・ノワール的アンニュイさを醸し出している。
 
 けど、これってセリフだけ取ったら、
 
 

 「ジュリアンを見たで」

 
 
 酔っ払ってる不思議ちゃんがそういうのに、
 
 

 「彼女に一杯あげたって。で、いつ?」
 
 「うーんとね、先週!」
 
 「ズコー!」

 
 
 ……てことでしょ?
 
 

 「オレ、カジノで大もうけしたで」 
 
 「へー、すげえな!」
 
 「『ドラクエ』のやけどな」
 
 「ゲームの話かい!」

 
 
 ていう子供の会話と一緒やん!
 
 その間、勝手に車盗んで、嘘八百の武勇伝をふかしまくって、それを笑われたらいきなり拳銃で撃つとか、自分のダメダメっぷりを棚に上げて
 
 

「オレの人生はメチャクチャだ」

 
 
 ルイは苦悩している。知らんがな、と。
 
 一方、ベロニクの方は、
 
 

 「ひどいことになったわ。あたしたち、新聞に載るのね……」

 
 
 泣きそうになりながらも、ふと顔をあげ、ウットリしたようにつぶやく。
 
 

 「みんなが言うのね、見て、あのカップルよって……でも、それもステキかも……」

 
 
 完全に陶酔モード。
 
 痛すぎるねえちゃんである。絶対に彼女にしたくないタイプだ。
 
 あまつさえ、
 
 

「心中して、歴史に名を残しましょう」

 
 
 などと底が抜けたようなことをいいだし、ふたりは睡眠薬を飲んで眠りにつく。
 
 もうこのあたりは明らかに悪意のある演出で、当時まだ監督は25歳なのに、「今どきの若者」に言いたいことでもあったんでしょうか。
 
 とにかく、このカップルの能天気ぷり(まあ本人たちは大マジメですが)を見てると、そこが、モーリス・ロネのにっちもさっちもいかない危機的状況と比較されて、もう大爆笑
 
 緊張と緩和というか、悲劇と喜劇というか、ほんまにルイマル天才や
 
 いや、爆笑するところでは全然ないんだけど、笑うッスよ、これはホント。

 いやあ、もうメチャメチャにおもしろい。
 
 しかも、話はまだエスカレートし、なんとベロニクが偽名(「タベルニエ夫妻」というモーリス・ロネの役名)を使っていたことが原因となって、モーリス・ロネはドイツ人殺しの下手人として追われることとなる。
 
 朝になって、ようやく電気がついて、やれうれしやとエレベーターから脱出したら、その途端に見も知らん殺人の犯人に。
 
 しかも、エレベーターの中にいたもんだからアリバイはなく、そもそもそれを言っても信じてもらえない。
 
 だいたい、信じられたら今度は社長殺しの容疑はまぬがれず、八方ふさがり。
 
 まったくもって、おそろしい話だが、その発端はただの忘れ物である。
 
 ついでにいえば、このころジャンヌ姉さんも明け方、不審人物として警察に連行されている
 
 ドタバタしてますなあ。
 
 結局、死にきれなかったルイとベロニクであったが、ルイは「モーリス・ロネ逮捕」の報に、
 
 

 「やったラッキー!」

 
 
ガッツポーズで、おおよろこび。
 
 よろこんで、どうするという話だが、まあ、そういう子なんですね。フォローのしようもない。
 
 ところが、ここには穴があった。
 
 そう、モーテルで撮った記念写真だ。
 
 あれを見られたら、犯行時にドイツ人夫婦と一緒にいたことがバレてしまう。なんとか取り戻さないと……。
 
 バイクで写真屋に急いだところに、刑事であるリノヴァンチュラが待っていて御用となる。
 
 モーリス・ロネの無実が証明されて、ジャンヌ姉さんは
 


「いやー、もうウチ安心したわ。刑事さん、サンキューね」


 
 ウキウキとよろこぶが、そのカメラのフィルムの中にはモーリスとジャンヌ姉さんが、仲良くちちくりあっているところも写っており、リノ・ヴァンチュラが、
 


 「奥さん、写真はまずかったッスね」


 
 うなずいて映画は終了
 
 ジャンヌ姉さんは、
 
 

 「すべてはお終い。でも、写真の中だけでは、あたしたちは永遠にふたりきり……」

 
 
 遠い目をしてつぶやくのだが、その前に、これから二人で人を殺そうってときに、呑気にツーショットの写真撮るなよ!
 
 浮気とか、ようその展開でバレますねんって。

 ラブホテルで彼氏と写真撮って、それでスキャンダルになったアイドルとか、よういてますやん。
 
 てか、モーリスも元パラシュート部隊の英雄で、スゴ腕産業スパイのはずやのに、どこでも証拠残しすぎや!
 
 こうして最後まで見て、私は天にむかって叫んだのである。
 

 「この映画に出てくるヤツ、どいつもこいつもアホばっかりやあ!!!!!」

 
 だってこれ、事件を殺人現場からじゃなくて
 

 不倫現場から逃げ出す」

 
 に変えたら、そのまま立派な『ベッドルーム・ファルス』になるもんなあ。
 
レイクーニーとか、アランエイクボーンみたいな。
 
 てか、私が舞台人なら、これを一字一句変えずにコメディとして上演します。いや、マジで。
 
 かくのごとく私は、この映画を観るたびに、パリ夜闇が匂い立つような重厚なノワールを味わうつもりが、奇しくも
 
 
 「忘れんぼ兄さんが閉じこめられてる間に、リアルな世界がとんでもないことになってギャフン!」
 
 
 みたいな作品を見せられてしまい、
 

 「なんか思ってたのとちがう……」

 
 そんな気分になりながらも、
 

 「けど、おもしろかったからいいや」

 
 なんて満足してしまうのである。
 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« こんなに変だぞ『死刑台のエ... | トップ | 鈴木大介六段が藤井猛竜王に... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。