こんなに変だぞ『死刑台のエレベーター』 ノエル・カレフ原作 ルイ・マル監督 その2

2019年03月29日 | 映画
 前回(→こちら)の続き。
 
ルイマル監督『死刑台のエレベーター』は、濃密なフィルム・ノワールと見せかけて、実はマヌケなギャグ映画ではないのかと疑ってしまった私。
 
 しかも、この映画のつっこみどころは、まだまだ、こんなところでは終わらない。
 
 そこで今回は、あれこれ言いながらストーリーを最後まで語っちゃうので、未見の方はスルーしてほしいが、続いてモーリス・ロネはロープを回収している間に、逃走用のを盗まれてしまう。
 
 窃盗犯は、現場である会社の向かいにある花屋の娘ベロニクと、そのボーイフレンドであるルイ
 
 彼女にいつも、

 

「あの戦争の英雄で、エリートのモーリスはんとくらべて、アンタはホンマに頼んないねえ」


 
 などと、からかわれていることに、イラッとしていたルイが、

 

 「ほな、オレ様のイケてるところ、見せたるわ!」

 

 ブチキレて、モーリスの車に乗りこみ、勝手に発進させる。
 


 「オレかって、本気出したら、こんな悪いこともできるんやぞ!」

 

 という、ヤンキー的中2病な彼氏に、最初こそ
 


 「そんなんして、怒られてもしらんで」


 
 あせっていたベロニクだが、やがて

 

 「いやーん、ドライブって、メッチャ楽しいやん。もっとスピード上げたって!」


 
ノリノリになってはしゃぎだす。
 
 なんか、殺人劇から打って変わって、頭の軽いカップルがワチャワチャやりだすのだ。
 
 そこからもふたりは、勝手にダッシュボードを開けて拳銃で遊ぶわ、仕事の書類を見るわ、果てはハイウェイで走り屋を気取るわ、もうやりたい放題。
 
 このふたりの浮かれっぷりが妙に長く、見ていてこれが、実にイライラさせられる。
 
 なんだか、殺人とかモーリス・ロネの運命など、だんだんどうでもよくなって、
 

「いつこのアホどもに天誅が下るか」

 
 そっちでハラハラするようになり、今どきの若いもんはと、とってもな気分が味わえる。
 
 そんなことも知らず、うっかり八兵衛ならぬ、うっかりモーリスは後始末に走るのだが、ここで第二のアクシデントが。
 
 なんと、エレベーターが止まってしまうのである。
 
 ロープの存在に気づいた時には、すでに会社を閉める時間が来ており、守衛がビルの電源を落としてしまったからだ。
 
 おかげで、エレベーターをはじめ、明かりなどもすべてストップ
 
 なんとモーリス・ロネは、今度は自分が密室の中に閉じこめられてしまうのだ!
 
 そこからモーリスは必死に脱出をこころみるが、動かないものはどうしようもないし、そもそもこんなところを見つかったら、社長殺しの第一容疑者だ。
 
 これでは、うかつに声も出せない。うっかりロープを忘れてしまったばっかりに、大変なことになってしまった。
 
 モーリスが袋のねずみになっている中、ルイとベロニクの阿呆カップルはますます絶好調
 
 ハイウェイで素人レースを展開したドイツ人夫婦に気に入られ、二人の泊まるモーテルに宿泊。
 
 はよ車返したれよ! とつっこみたくなるが、これにはベロニクも悪ノリ全開で、
 


タベルニエ(モーリス・ロネの役名)夫妻で一泊します」

 

 勝手に、モーリスの名前まで拝借。
 
 宿泊代も出せる当てもないのに、迷惑この上ない姉ちゃんである。浮かれとりますなあ。
 
 モーリスがエレベーターの中で悶々とし、脱出しようとしてエレベーターから落ちそうになってウッカリ死にかけたり(なにをやってるんだか……)しているのをよそに、4人はシャンパンで乾杯
 
 昔話をしたり、記念撮影をしたりと、完全にゆかいな旅行気分。
 
 ただそこに唯一、不機嫌そうなのがルイ。
 
 このアンチャン、顔はいいのだが、いかんせん無能で使えないにもかかわらず、プライドだけは山のように高いという、なんともめんどくさいタイプの男の子。
 
 それがここでも大いに発揮され、見栄をはってドイツ夫婦に
 
 

 「ドイツによる占領、インドシナ、アルジェリア、オレは戦地で命を張ってきたんや……」

 
 
武勇伝を語りまくるのだが、もちろんのことすべて大嘘のホラ
 
 まあ、「自称ヤンキー」が語る、昔オレはワルだった話みたいなもので、こういうのは洋の東西を問わないよう。
 
 後輩や女子に失笑されてるんやけどねえ……。トホホのホだ。
 
 そうやってフカしまくって、まだまだ彼女に「ワルなオレ」を見せたいルイは、ドイツ人の車を盗んで逃げようとするが、それは見破られていた。
 


 「そんなん、もうバレバレやん」


 
 バカにされた上に、

 

「外人部隊とか、全部ウソなんもわかっとったで。キミみたいな軟弱な痛い坊やは、そういうこと言いたがるねんワッハッハ」


 
 これには赤っ恥のルイが逆上
 
 なんと、ドイツ人をモーリスの拳銃で撃ち殺してしまう。
 
 おまけに、悲鳴を上げた妻もズドン。いきなり殺人犯に。
 
 ちょっとホラ吹いたのをバカにされただけで、人殺すなよ! どんだけ場当たり的に生きてるんや。
 
 外がえらいことになってるその間、主人公のモーリスは、やはりエレベーターの中。
 
 どないしようもなく座りこんでいるモーリスは、自業自得とはいえ(殺人よりも忘れ物の方でネ)実に哀れである。
 
 ここは押さえた演出で、感情表現のセリフとかナレーションは一切ないのだが、モーリス・ロネのその背中からは
 
 

 「オレって、アホやなあ……」

 
 
 という情けない声が聞こえてきそう。さすがは名優、見事な演技といえよう。
 
 ズッコケな出だしから、さらにズッコケがズッコケを呼び、再び殺人が起こってしまったというか、こんなことで殺されて、ドイツ人もいいツラの皮である。
 
 だが、ことはここで終わらないのが、この映画のすごいところ。
 
 そこからマヌケは、さらにブースターがかかっていくことになるのだから、もうなにがなにやらなのだ。
 
 
 
 (続く→こちら
 
 

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