「穴熊の暴力」
という言葉がある。
穴熊、特に居飛車穴熊は、その固さと遠さのアドバンテージを活かして、無理っぽい攻めをムリヤリ通してしまったりする。
その理不尽さが「暴力」という表現につながるわけだが、ときにはその穴熊を実にうまく料理してしまう人もいる。
鈴木大介九段とか、若手なら石井健太郎六段や、西田拓也五段なんかも四間飛車から、端攻めなんかをからめて、退治してしまうイメージだ。
前回は降級にさらされた一流棋士の見せた「順位戦の手」を紹介したが(→こちら)、今回はアベマトーナメントのドラフトで大人気だった、森内俊之九段の伝説的な穴熊攻略を見ていただきたい。
2009年、第22期竜王戦の挑戦者決定3番勝負。
深浦康市王位と、森内俊之九段の一戦。
深浦先勝でむかえた第2局は、森内の振り飛車と居飛車穴熊の戦いになった。
松尾流穴熊に組み替えた先手に、森内が1筋から仕掛けたのが機敏で、ペースを握るも、深浦も角をさばいて反撃に出る。
図は▲45歩と王手したところ。
穴熊は固いが、2枚のタレ歩が不気味にぶら下がっており、先手も圧をかけられている。
飛車角も好機にさばけそうで、振り飛車がやれそうだが、こういうところから「暴力」を喰らってうっちゃられるのが、穴熊の理不尽なおそろしさ。
だが、次の手が森内らしい力強さで、先手の反撃を封じるのだ。
△73金打が、森内流「鋼鉄の受け」。
金銀4枚がガッチリくっついたマグネットパワーで、これ以上先手に攻めがない。
数手進んだこの局面が、当時話題になった鉄の壁。
まさに金銀でできた重戦車で、取りつく島がない。攻略するのに、何手かかるか計算したくもない。
まさに「オレに恨みでもあるのか」と、泣きごとのひとつも言いたくなる固さではないか。もう、グッタリである。
以下、▲32桂成に角をアッサリ見捨てて、ゆうゆう△45飛とさばいていく。
その後も、森内が好きなように指して圧倒。
図は▲89香と、深浦が最後の根性を見せている場面。
後手陣は相変わらず無敵すぎる上に、3枚のタレ歩がド急所を押さえ、先手の4枚穴熊は見る影もない。
ここで森内に、気持ちのいい決め手がある。
△15飛、▲同角、△97香まで後手勝ち。
△15飛と遊んでいる飛車で香を取るのが、計ったようなトドメの一手。
最後に質駒を補充して必至をかけるという寄せの理想形で、こんな爽快な手で勝てれば最高の気分であろう(棋譜は→こちら)。
△97香と投げナイフを決めて、先手に受けはない。ここで深浦が投了。
快勝に気をよくした森内は、続く第3局も制して、見事竜王への挑戦権を獲得したのだった。
(中原誠が名人戦で見せた大ポカ編に続く→こちら)
>>以下、▲32桂成に角をアッサリ見捨てて、ゆうゆう△45飛とさばいていく。
水匠2で解析したところ、ここは「△6六角」を提示されました(△45飛は約+500点、△6六角だと約+700点)。
▲4一桂成で飛車は取られますが、△3九角成で馬作ってOKと。そして▲5一飛打をされても、△9五香打で端攻めして良いそうです。
(因みに△6六角の時に▲同飛とすると、今度こそ△45飛なので、約+1100点まで拡大)
そしてこの後もAIの攻防は長く続き、最終的には200手くらいまでに行きました。。。
>水匠2で解析したところ、ここは「△6六角」
角切りですか。なるほど、端攻めのためには、桂より香のほうが役に立つから、ここで取ってしまおうと。
ただ、▲41桂成と飛車を取らせるのは、重い形を強要してわかるんですが、次の△39角成は指せないですねー。
じっと成っておいて、端だけで勝てると。
なんか、全盛期の羽生さんみたいな指し回しですね。格調高いなあ。