ロシアの悪童マラト・サフィン その2 2002年全豪オープン決勝 対ヨハンソン戦

2012年09月06日 | テニス

 前回の続き。

 2000年USオープン

 弱冠20歳で優勝し、世界ナンバーワンに輝いたのは、ロシアマラトサフィンであった。

 とにかく、その才能に関しては折り紙つきで、一度のせたら手が付けられなくなるのは、王者ピート・サンプラスに何もさせずに完封した、USオープン決勝戦で証明済みである。

 となれば、ここからはマラト時代がやってくると誰もが思ったはずだが、それがなかなかどうして、そう簡単ではなかったのである。

 その後サフィンは、まずまずの成績を残すが、センセーショナルだった対サンプラス戦のような活躍はなかった。

 その理由はハッキリしていた。

 彼のメンタルだ。

 才能ある選手というのはテニス界にも多々いるが、それだけではトップで戦う選手にはなれない。

 中には、その才能がありすぎるために、をもてあまし、制御できずにもがく者もいる。

 特にサフィンのような天才肌の選手がそうだった。


 
 試合の中で感情をおさえることが、大事なのはわかっているんだ。

 でも、できないん。コントロールをはずれて、コート上で叫ぶ。

 たとえそれで負けたとしても、それが僕なんだ。



 自ら言うように、フラストレーションを抑えることが、決して上手ではないのが彼だった。

 そんな不安定さゆえに、サフィンという選手はとにかく、いいときと悪いときのが大きかった。

 調子のいいときのサフィンというのは、とんでもない破壊力を秘めたプレーヤーだった。

 あのUSオープン決勝のように、スーパーショットを次々と繰り出し、相手になにもさせず、木っ端微塵に粉砕してしまう。

 その様はまさに問答無用であって、この状態の彼に挑むのは、素手タンクローリーと戦うようなもので、立ち向かいようもない。

 ただただ、相手に好きなように打ちまくられ、ペシャンコに押しつぶされ、「ご愁傷様」としか、いいようがない状態でコートを去ることになる。

 ところが、悪いときというのは、「え?」という相手に、あっさりと負けてしまったりして、見ているこっちをズッコケさせる。

 その代表的な試合が、2002年オーストラリアンオープン決勝戦

 ここでも、サンプラスをやぶってファイナルに進出したサフィンは、すでに優勝を確信していただろう。

 本人のみならず、ファンの多くも、そう思っていたはずで、というのも決勝の相手は、スウェーデントーマスヨハンソンだったから。

 いや、ヨハンソンが弱いわけではない。

 最高ランキング7位、後にウィンブルドンではベスト4にも入ることとなる実力者であるが、いかんせん彼は、サフィンとはが違った。

 また、こういってはなんだが、ファイナリストとしては圧倒的にがなかった。

 スターのオーラを身にまとい、「悪の華」の魅力に満ちたサフィンとくらべると、ヨハンソンは気の毒なくらい地味だった。

 そんな男が、この大舞台でサフィンに勝てるはずがない。だれもがそう思っても、それは責められまい。

 という戦前の予想というか決めつけは、思いっきり、くつがえされることとなった。

 ヨハンソンの派手さはないが巧み、かつ力強いテニスの前に、サフィンは力を発揮できず、苦杯をなめることとなった。

 まさかの番狂わせだが、一度くずれると立て直しがきかないのがマラト・サフィンのテニス。

 ヨハンソンからすれば、回転を失いかけた独楽のようにふらつく「天才」など、料理するのはお手の物だったろう。

 そういえば、サフィンが大の苦手とする選手に、フランスの選手である、ファブリスサントロがいる。

 ダブルスではプロ中のプロでも、シングルスではサフィンほどの実績がないサントロ。

 だが彼は、まさにその「弱いサフィン」を引き出すコツを、知っていたのではあるまいか。

 インタビューで、なぜサントロに苦戦するのか聞かれて、

 

 「なんか、勝てねえんだよな」

 

 サフィンはいつも口をとがらせていたが、ヨハンソンもまた、そんな尻尾をつかませぬ「なんか勝てない」テニスをしたにちがいない。

 まさに、よくを制す。

 こうしてサフィンは、大きなチャンスを逃してしまうこととなる。

 こういったタイプの選手は、当然の事ながら安定感に欠ける。

 1年通じて、コンスタントに成績を残すのがどうしても難しい。

 そこがサフィンが、絶対的チャンピオンになれなかった泣き所だった。


 (続く)




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