Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§44「竜馬がゆく」(坂本龍馬) 司馬遼太郎, 1962.

2016-02-19 | Book Reviews
 「世の中の人は何とも云はばいへ、我が成すことは我のみぞ知る」

 多角的な視野と先を見透す視点、俊敏な判断力と機動的な行動力。読後の感想は、長州藩・高杉晋作や長岡藩・河井継之助と類似した印象ですが、ひょっとしたら、彼らと違うのは帰属意識なのかもしれません。

 武士が武士たらしめる価値観は、ひとえに藩主への忠義にほかならず、藩の自主独立の為には武威をもって戦うことも辞さず、藩が存亡の窮地に追い込まれれば、彼らは藩主の海外逃亡まで画策するほど。

 彼らの初期条件は上級武士の生まれであるがゆえに、彼らの境界条件は藩主への忠義に殉ずることにほかならず、彼らが導いた解は藩の存亡をかけて振り上げた拳を振り降ろすのみ。

 そういった因果性に支配された幕末史のなかで、龍馬の初期条件は同じ武士でありながら、主君から虐げられた長宗我部恩顧の武士であること。龍馬の境界条件は殉ずるべき忠義を誓う主君が不在であるがゆえに龍馬が導いた解は、旧態依然の土佐藩という帰属意識を離れ、自由と向き合い平等な社会を築く為に、自らが成すべきことを果たすのみ。

 だからこそ、土佐藩を脱藩した龍馬が、北辰一刀流免許皆伝の腕前でありながらも、その白刃で誰ひとり殺めることなく、薩長同盟や船中八策による大政奉還を成し得たのかもしれません。

初稿 2016/02/19
校正 2020/12/22
写真 太平洋の遥か彼方を見つめる龍馬像, 1928.
撮影 2011/05/07(高知・桂浜)