Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

α19A「マリとキャシー」朝倉響子, 1989.

2023-01-28 | Exhibition Reviews
 バンダナを頭に巻いた「マリ」が両手をベルトにかけた瞬間に、ベンチにもたれて脚を組んだ「キャシー」といまにも言い争いを始めかねないような一触即発な印象。

 「キャシー」はギリシャ語で「純粋」を意味するそうで、決してぶれることのない、あるがままの〈わたし〉なのかもしれません。

 一方、「マリ」はフランス語で「主人」を意味するそうで、あるべき姿を追い求めようとするもう一つの〈わたし〉なのかもしれません※1

 でも、近づいてじっと観てみると、二人は言い争おうとしているのではなく、口を固く閉じて見つめあっているような気もします。

 ひょっとしたら、私を私たらしめているそれぞれの〈わたし〉なるものが、然るべき〈わたし〉として歩き出そうとする覚悟と別離を物語ろうとしているのかもしれません。

初稿 2023/01/28
校正 2024/01/05
写真「マリとキャシー」朝倉響子, 1989.
撮影 2023/01/22(千葉・佐倉)
注釈 ※1)α18A「マリとシェリー」朝倉響子, 1990.