今回ご紹介するのは「ドラゴン・ティアーズ ―龍涙」(著:石田衣良)です。
-----内容-----
時給300円弱。
茨城の"奴隷工場"から19歳の中国人少女が脱走した。
彼女が戻らないと、250人の研修生は全員が強制送還される。
タイムリミットは1週間。
捜索を依頼されたマコトは、チャイナタウンの裏組織"東龍(トンロン)"に近づく。
彼女の事情を知り、板ばさみになり悩むマコト。
万策つきた時、マコトの母が考えた秘策とは?
-----感想-----
この作品は「池袋ウエストゲートパーク」シリーズの第九作目となります。
池袋の街を舞台に、実家の果物屋で働くマコトが、この街で起きる様々なトラブルを解決していく物語。
今作は以下の四編で構成されています。
・キャッチャー・オン・ザ・目白通り(悪徳エステティシャンと被害者同盟の話)
・家なき者のパレード(ホームレスを食い物にする失業保険詐欺の話)
・出会い系サンタクロース(彼女いない歴28年サラリーマンの奮闘の話)
・ドラゴン・ティアーズ ―龍涙(池袋の夜に身を沈める中国人美少女の話)
石田さん描くIWGP(池袋ウエストゲートパーク)シリーズはその時々の社会問題を取り上げることが多いのですが、今作でも今の時代らしい社会問題を取り上げていました。
その中で、表題作にもなっついる「ドラゴン・ティアーズ ―龍涙」についてレビューを書いてみたいと思います。
時給が300円弱という茨城の"奴隷工場"から19歳の中国人少女が脱走。
中国河南省にある「送り出し組合」からは、茨城県の三つの工場に250人の研修生を派遣していました。
しかしそこから一人でも失踪者が発生すると、厳しいペナルティが待っています。
その組合から派遣されているすべての研修生が強制退去になるのです。
送り出し組合もペナルティとして三年間派遣を禁じられるし、日本の工場も安価で優良な働き手を一気に失うことになるという、関係者全てが痛手を被る結末が待っています。
そこでこの事態を受けてマコトのもとに相談にやってきたのが、林高泰(リンガオタイ)という中国人研修生のアドバイザーを務める青年。
どうやら脱走した少女「郭順貴(クーシュンクイ)」は池袋のチャイナタウンに逃げ込んだのではという予想がされていて、そこで池袋で名の知れたトラブルシューターであるマコトにこの少女の捜索を頼みに来たのでした。
ここでマコトが疑問に思ったのは、なぜものすごい好景気でバブルなはずの中国から、わざわざ時給300円弱の奴隷のような仕事をしに日本に研修生として来る人が沢山いるのかということ。
これに対して林高泰(リンガオタイ)は、「中国は都市と農村でふたつの国に分かれている」と言っていました。
都市の住民は農村の何倍も豊かだが、農村部の年収はいまだに数万円にすぎないと。
都市と農村の著しい格差が如実に表されていました。
そしてマコトが「だったら街に行って働けばいいじゃない。不景気の日本より、ずっといい仕事があるんじゃないか」と疑問を口にすると、林高泰(リンガオタイ)の口から驚きの言葉が出てきました。
中国には「戸口(フーコウ)」の問題があって、居住証明書に出生地と居住するべき地域が明記され、それ以外の土地で暮らすこと、働くことは基本的に出来ないというのです。
農村戸籍の者が都市戸籍を取得するのは、ほぼ不可能とのこと。
「自由」がない国、中国。
だから農民たちは黄金の国日本への夢にかけると、林高泰(リンガオタイ)は言っていました。
時給300円弱の3K労働でも三年間必死に頑張れば20万元は稼げて、これは貧しい農民の生涯賃金に等しいとのこと。
だからこそ、脱走した郭順貴(クーシュンクイ)が戻らずに、250人の研修生が全員強制送還される最悪の事態を何としても回避したいというわけです。
しかしタイムリミットはわずか一週間。
その間に郭順貴(クーシュンクイ)を探しだし、工場に戻るように説得しなければなりません。
そこでマコトは郭順貴(クーシュンクイ)の居場所を知っているかも知れない池袋チャイナタウンの裏組織"東龍(トンロン)"に近付くのですが。。。
名前からしてやばそうなこの組織、一筋縄ではいかないし、そう簡単に郭順貴(クーシュンクイ)の居場所は掴めません。
一週間というタイムリミットのこともあり、林高泰(リンガオタイ)が少々荒っぽい物騒な計画を立てたりして、物語中盤の"東龍(トンロン)"との対決は読み応えがありましたね。
そして物語後半、郭順貴(クーシュンクイ)が抱える意外な事情が明らかになり、彼女を説得して茨城の工場に戻るように言うのが本当に良いのか思い悩むマコト。
この物語に最初から横たわる「中国の格差社会」の問題がずっしりとのしかかります。
どうにもならない問題を前に万策尽きるマコトですが、物語最終盤の展開は劇的なものでした。
その手があったかという一発逆転の展開でしたね。
マコトのお母さんの懐の深さが垣間見える展開でした。
とても良い終わり方だったのではないかと思います。
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
※図書ランキングはこちらをどうぞ。
-----内容-----
時給300円弱。
茨城の"奴隷工場"から19歳の中国人少女が脱走した。
彼女が戻らないと、250人の研修生は全員が強制送還される。
タイムリミットは1週間。
捜索を依頼されたマコトは、チャイナタウンの裏組織"東龍(トンロン)"に近づく。
彼女の事情を知り、板ばさみになり悩むマコト。
万策つきた時、マコトの母が考えた秘策とは?
-----感想-----
この作品は「池袋ウエストゲートパーク」シリーズの第九作目となります。
池袋の街を舞台に、実家の果物屋で働くマコトが、この街で起きる様々なトラブルを解決していく物語。
今作は以下の四編で構成されています。
・キャッチャー・オン・ザ・目白通り(悪徳エステティシャンと被害者同盟の話)
・家なき者のパレード(ホームレスを食い物にする失業保険詐欺の話)
・出会い系サンタクロース(彼女いない歴28年サラリーマンの奮闘の話)
・ドラゴン・ティアーズ ―龍涙(池袋の夜に身を沈める中国人美少女の話)
石田さん描くIWGP(池袋ウエストゲートパーク)シリーズはその時々の社会問題を取り上げることが多いのですが、今作でも今の時代らしい社会問題を取り上げていました。
その中で、表題作にもなっついる「ドラゴン・ティアーズ ―龍涙」についてレビューを書いてみたいと思います。
時給が300円弱という茨城の"奴隷工場"から19歳の中国人少女が脱走。
中国河南省にある「送り出し組合」からは、茨城県の三つの工場に250人の研修生を派遣していました。
しかしそこから一人でも失踪者が発生すると、厳しいペナルティが待っています。
その組合から派遣されているすべての研修生が強制退去になるのです。
送り出し組合もペナルティとして三年間派遣を禁じられるし、日本の工場も安価で優良な働き手を一気に失うことになるという、関係者全てが痛手を被る結末が待っています。
そこでこの事態を受けてマコトのもとに相談にやってきたのが、林高泰(リンガオタイ)という中国人研修生のアドバイザーを務める青年。
どうやら脱走した少女「郭順貴(クーシュンクイ)」は池袋のチャイナタウンに逃げ込んだのではという予想がされていて、そこで池袋で名の知れたトラブルシューターであるマコトにこの少女の捜索を頼みに来たのでした。
ここでマコトが疑問に思ったのは、なぜものすごい好景気でバブルなはずの中国から、わざわざ時給300円弱の奴隷のような仕事をしに日本に研修生として来る人が沢山いるのかということ。
これに対して林高泰(リンガオタイ)は、「中国は都市と農村でふたつの国に分かれている」と言っていました。
都市の住民は農村の何倍も豊かだが、農村部の年収はいまだに数万円にすぎないと。
都市と農村の著しい格差が如実に表されていました。
そしてマコトが「だったら街に行って働けばいいじゃない。不景気の日本より、ずっといい仕事があるんじゃないか」と疑問を口にすると、林高泰(リンガオタイ)の口から驚きの言葉が出てきました。
中国には「戸口(フーコウ)」の問題があって、居住証明書に出生地と居住するべき地域が明記され、それ以外の土地で暮らすこと、働くことは基本的に出来ないというのです。
農村戸籍の者が都市戸籍を取得するのは、ほぼ不可能とのこと。
「自由」がない国、中国。
だから農民たちは黄金の国日本への夢にかけると、林高泰(リンガオタイ)は言っていました。
時給300円弱の3K労働でも三年間必死に頑張れば20万元は稼げて、これは貧しい農民の生涯賃金に等しいとのこと。
だからこそ、脱走した郭順貴(クーシュンクイ)が戻らずに、250人の研修生が全員強制送還される最悪の事態を何としても回避したいというわけです。
しかしタイムリミットはわずか一週間。
その間に郭順貴(クーシュンクイ)を探しだし、工場に戻るように説得しなければなりません。
そこでマコトは郭順貴(クーシュンクイ)の居場所を知っているかも知れない池袋チャイナタウンの裏組織"東龍(トンロン)"に近付くのですが。。。
名前からしてやばそうなこの組織、一筋縄ではいかないし、そう簡単に郭順貴(クーシュンクイ)の居場所は掴めません。
一週間というタイムリミットのこともあり、林高泰(リンガオタイ)が少々荒っぽい物騒な計画を立てたりして、物語中盤の"東龍(トンロン)"との対決は読み応えがありましたね。
そして物語後半、郭順貴(クーシュンクイ)が抱える意外な事情が明らかになり、彼女を説得して茨城の工場に戻るように言うのが本当に良いのか思い悩むマコト。
この物語に最初から横たわる「中国の格差社会」の問題がずっしりとのしかかります。
どうにもならない問題を前に万策尽きるマコトですが、物語最終盤の展開は劇的なものでした。
その手があったかという一発逆転の展開でしたね。
マコトのお母さんの懐の深さが垣間見える展開でした。
とても良い終わり方だったのではないかと思います。
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