もうちょいだけ宮本武蔵。
彦島にあるファミマのおばちゃんに、「巌流島が見たいんだけど、どこから見えるんですか?」と聞くと、「でしまつ」に行けば見えるという。でも、大して見えないよという。門司に行った方が良く見えるという。
よし、でしまつへ行ってみよう。
でしまつへ行った。でしまつとは、弟子待と書く。
もしかしたら、武蔵の弟子の伊織くんが、ここで武蔵の帰りを待っていたのかもしれないなどと思いながら歩く。
小さな小さな手書きの看板がある。
「巌流島眺望所こちら」
海沿いを歩いているのに、海が見えない。なぜか?
そこは、大手石油会社の社有地で、金網が張り巡らされており、太陽光のパネルなんぞが山ほど設置されているからである。
つまり、たぶん、武蔵が戦った巌流島など、さしたる価値がないと・・・そんな風に感じる。
小高い丘へ登る。道は泥。靴の裏にごっそりと泥がつく。
九州門司の山々が見える。街並みが見える。本州と九州を繋ぐ関門橋が遠くに見える。
関門海峡、彦島寄りにポッカリと浮かぶ島が見える。ファミマのおばちゃんは「よく見えない」と言ったけど、巌流島が良く見える。
「武蔵が戦ったのはあの島のどの辺なんだろう?」と、ぼんやりと巌流島を眺める。
武蔵が名人か名人じゃないか、それはわからない。
武蔵が好きか嫌いかと問われるなら、好きだと答える。
どちらかというと、巌流島の決闘以降の、武蔵の人生の悲哀が、僕は好きである。
おわり。