僕の夢は、高野さんが作ってマキリを買うこと。
マキリとはナイフ。アイヌ紋様の入ったナイフ。
高野さんがデザイン画を見せてくれる。
「これはね、二年前に頼まれたマキリのデザイン画だよ。やっと出来た」
えっ?二年も?経ったの?
「デザイン画が出来たから、これから彫り始めて、出来上がるのは・・・来年の夏かな?」
えっ?三年じゃーん!頼んでから三年かかるじゃーん!
高野さんは忙しい。
高野さんがトンコリを弾いて聴かせてくれた。
僕にもトンコリを弾かせてくれた。わずか五つの音の組み合わせで音楽を奏でる。もちろん、高野さんが作ったトンコリだ。
伝統工芸実演中の高野さんである。
僕とお喋りをしている間にも、お客様がやって来る。スタンプラリーのスタンプを押しに来た人もいれば、高野さんに会いに来る人もいる。
僕は、言う。
チセに入ってきたお客さんに言う。
「この人は本当にすごい人ですよ。ほら、これもこれも、この人が作ったんですよ。本物に触れるなんて・・・ほら」とか。勝手にやる。高野さんのお店でもやるけど、ここでもやる。やりながら、僕も高野さんの作品を触りながら感激する。本当にすごいなぁ。と。
そこまではいい。としよう。
横を見ると、高野さんが、ラジカセのボリュームを上げている。そして、CDジャケットをお客さんに掲げて見せている。ラジカセから流れているのは僕のライオンズポートレートであり、掲げているCDも僕のライオンズポートレートだったりするのである。そして、高野さんはこう言う。
「この人が歌ってるんですよ。ほら」
高野さん、店でもやるが、ここでもやる。
高野さん、高野さん、ここ、伝統工芸実演中のチセですから。高野さん、高野さん、何やってんすか?CD、関係ないじゃないですか!
お客さんは、「ほぉぉ」と言っているけれど、まったく意味がわからない光景なのである。はははは。面白すぎる。
僕がチセに入った時に、僕を見つけた高野さんは僕に言った。
「ほら、ここで実演している時は、シングのCDをいつも聞いているんだよ。下北沢、行きたいなぁ」
僕がどれだけ嬉しかったか・・・想像出来るかい?