名残は惜しいが発たなければならない。
雪月花廊にお昼ごはんのお客さんが来ている。
カカはキッチンで何かを作っている。忙しそうだ。
いいタイミングだ。
カカに声を掛ける。
「行きます」
カカが火のついたコンロを後ろにして振り返る。
「トトの話をたくさん出来て良かった」
カカが言う。
「また来ます」
僕が言う。
「トトとの約束を果たしたから、今度はカカとの約束を果たしに来ます」
僕が言う。
「また来ます」
僕が言う。
「ここから見送りますね」
カカが言う。
僕は玄関から外に出て、バイクに跨る。
サイドカーくんが外まで見送りに出てきてくれた。
振り返ると、雪月花廊の小さな窓の向こうで手を振るカカの姿が見えた。
たった一夜。短い時間だった。
本当に来て良かった。と僕は思った。
いっぱい泣いていっぱい笑った。
本当に来られて良かった。と僕は思った。
紅葉の山を僕は走る。
「いい旅だったなぁ」
と僕は思った。
「楽しい旅だったなぁ」
と僕は思った。
このまま旅が終わると錯覚を起こした。
まだ終わってない!
まだ終わってなかった。
あぁ、ビックリした。
危なく旅を終わらせるところだった。
あぁ、ビックリした。
雪月花廊はすごい所です。ほんとに。
トトとカカの雪月花廊のお話。
今回はここらへんで。おしまい。