たとえばね、旅人といえども、久しぶりに旅をすると、色々と忘れる。
何を忘れるかというと、旅の仕方とかを。旅の意味とかを。
不思議だなぁ。忘れちゃうんだなぁ。
今日は、まぁ、ろくなことがなかった。
寒いし、雨降るし。
二子浦温泉に行った。入った。250円。
漁業に使うプラスチックのケースを湯船にした温泉。
番台のおばあちゃんが「温まっていってねぇ」と声を掛けてくれた。
潮味のする温泉がたまった巨大なプラスチックのケースに、冷え切った身体を沈める。ザバババーンと、僕の身体の体積分のお湯がこぼれる。
僕は想った。
あっ・・・この温泉に出逢うために、ここまで走って来たんだ。そうだ、今日という日は、この一瞬のためにあったんだ。きっと。
なーんにも上手くいかない一日ではあったのだけれど、そう想ったら、上手くいかないことなんてなーんにもあるわけがない、そう想えたから不思議だ。
旅って、僕の旅って、こんな感じだった。そういえば、こんな感じだった。ははははは。やっと思い出したよ。
今日という日が、あって良かった。
番台のおばあちゃんが僕に聞いた。
「どうでしたか?」
「幸せでした」と僕は答えた。