火曜日午前の救急当番の時に、心肺停止の78歳男性が救急搬入された。
妻が買い物に外出して、家に戻った時に、居間にいないのに気づいた。トイレを見にいくと、便器にすわったままうなだれた姿勢でいた。声をかけても反応がなかった。あわてたのか、救急要請するまで時間がかかったようだ。
この患者さんは市内のクリニックに高血圧症などで通院していた。昨年当院神経内科に紹介されて、認知症相当と診断されて、認知症薬で経過をみるようにという返事がなされていた。
救急隊到着時は心肺停止(心静止)、瞳孔散大だった。心肺蘇生術を開始して、救急車収容後に、ラリンゲアルチューブ挿入による人工呼吸・心臓マッサージ機による胸骨圧迫がなされた。さらに地域の基幹病院救急科の指示をもらって、点滴とアドレナリン注を行っていた。
病院搬入時も心肺停止(心静止)で瞳孔散大・対光反射なしだった。点滴は漏れていたので(心臓マッサージ機の作動の影響か)、看護師さんが入れ直して、アドレナリン注を繰り返した。
家族の目の前で心肺停止になったわけではなく、発見まで時間がかかっている。蘇生術に対する反応はなく、家族に説明して、死亡確認になった。
死因不明なので、Autopsy imaging(AI)を行った。頭部CTでは脳委縮を認めるが、頭蓋内出血はなかった。胸腹部CTを行うと、放射線技師さんから声が上がった。左肺に肺癌と推定される腫瘤を認めた。
ただ、肺癌だったとしてそれが死因になる状態ではない。心嚢液が軽度に貯留しているが、死亡にいたるような癌性心膜炎とはいえない。肺癌はあるが、直接的な死因ではないと判断される。
冠動脈の石灰化が走行に沿って目立ち、冠動脈疾患だった可能性があるが、確定はできない。急性心筋梗塞だったとすると、心不全症状を来すほどの余裕もなく死亡したことになるか。
神経内科に紹介された時は頭部MRIしか施行していない。通院しているクリニックで、胸部X線を見ていたかどうかはわからない。