RAF SIMONS/THE INDEPENDENT
イギリスのことばかり書いている私ですが、婦人服に関してはフランスのデザイナーが好きです。サンローランやジバンシーなど華奢でコケティッシュでフェミニンな60年代の女優のイメージが。でもディオールに関しては、あまりにも完成されたクチュールのシルエットに親近感が持てませんでした。デザイナー自身もスキャンダラスな人生を送って本人がスターだったイヴやシャネルに比べて、ムッシュウ・ディオールってヒッチコックみたいなおじさんルックスで・・・
そんな私がなぜ「ディオールと私」という映画にときめいたか。
それはオートクチュール新任デザイナーのラフ・シモンズが好きだったからです。
彼はミニマリストなどと呼ばれたりしますが、クラシックなスクールユニフォームの要素や、パンクっぽい派手さ、ベルギー出身のファッションデザイナーらしいアヴァンギャルドなアート性も絶妙にブレンドされたモダンなメンズ服を作るのです。(ああ・・・こんな文章を書いているとアパレル宣伝課の仕事してるような気がしてきた・・・)
しかし、誰もが驚いたように、ディオール、しかもオートクチュールを彼ができるとは想像もしませんでした。
いったいどんな高級注文服を創るのか?!
と、世界のプレスや顧客も、そしてもしかして経営者さえも思って、発表されるコレクションに注目するというプレッシャーをかかえたラフが、キャリアの長いディオールのアトリエスタッフに迎えられながら造り上げた過程と結果の映画なのです。
特にこの映画でおもしろいのは「舞台裏」がよく見られる点です。一緒に見に行った友人もパタンナーをしているのでこれまでのファッション映画よりも服をつくる過程が楽しめたそうです。
服だけでなく、私がアパレルメーカーの宣伝担当としてした仕事、「ショーの演出」の決定と製作過程にも興奮しました。ショー会場の様子は、大きいスクリーンをなんと最前列で見たので臨場感たっぷり。PCでコレクション映像は誰でも見られますけど、あんなライブ感は絶対に味わえません。
服も会場も、当日のその時間まで、デザイナーの「もっとよくしたい」という意欲により変更指示が出されるのは、ラフも私が以前働いていたデザイナーも同じでした。最後の瞬間までスタッフは突然の指示に答えなくてはなりません。
ラフは穏やかな人柄で、とてもシャイです。しかもディオールのアトリエは歴史があるので、この道何10年というおばさん達も沢山働いていて、「切って貼ったら終わるプレタでしかキャリアがない」とラフのことを言ってたりするところに単身乗り込んで彼らを動かさなくてはならないのです。
しかしラフの言葉の選び方は穏やかなのですが、アイディアは断固としています。その意思が、通常納品のスケジュールを動かして限られた時間で「今までにはなかったもの」を形にして行くのを見ると「これができる人こそがクリエイターなのだ」と思うのです。
彼の初オートクチュールコレクションに、アメリカン・ヴォーグのアナ・ウィンターを初めとするプレスや女優などセレブとともに、最前列に他のデザイナー達が座っているのを見て驚きました。デザイナーが他のデザイナーのショーを見るって私知らなかったです!ヴェルサーチェのドナテラのサイボーグ感はすごかった。
東京ではBUNKAMURAル・シネマで3/14から上映していて、これから全国に上映館が拡大するので他の都市に住む方はこれからですよ~。しかしなんでこんなに人口の多い東京に1館しかないのでしょう?