去年、ベン・ウィショーの「ジュリアス・シーザー」などで話題になったロンドンの新しい劇場ブリッジシアターにて、サミュエル・ベネット君が出ているお年寄りのミュージカルぽい「アレルヤ!」という舞台をやっているとツイッターで知った時から見たかったのをついに、東京でナショナルシアター・ライブで見れました。
老人ホームが舞台なんだなと思い込んでいたら、まんまと罠にかかっていて、実はホームではなく病院なのに、行く所がないため退院できない老人病棟の話でした。
日本でお年寄りというと茶色とか灰色のイメージなんですが、イギリスの老人たちってカラフルなのでそれでミュージカルと思ったくらいです。
しかも元気。特に数少ない男子はガンコジジイで、これはハイトナーの願望もあるのでしょうか。イギリスは老女の方が無敵に強いイメージがあったのですが。
しかしカラフルで元気な病棟の話だけれど、捻りは来るだろうとは思ってたけど、
ダークなストーリーとは予想以上でした。
サミュエル君といえばどうしても「ヒストリー・ボーイズの〜」と言いたくなりますが(「ダーク・ジェントリー」も忘れてないけど!)、そのヒストリー・ボーイズからもう一人のキャストがいたんです。
インド人の医師役サシャ・ダワン。
この二人の語りが増える終盤近く、「ああ、これは老人たちの『ヒストリー・ボーイズ』だったか」と独り言が出てしまいました。
それぞれの登場人物の事情がわかってくるとそれぞれに感情移入してしまう。
特にインド人医師、不法滞在がバレて国外退去になるんですね。その時に彼はイギリスの国としてのダメな部分やイギリス白人の根拠なき優越感を嫌という程知っているのに、「それでも僕はイギリスに帰化したいのか」と自問自答するんです。ここに、同じ外国人として切ないほど共感します。
私もイギリスいいところばかりじゃないのを知っているけど、なぜか日本よりも精度が整っているんじゃないか、と夢を見てしまうのですね。現に、この劇の老人たちは自宅を子供にとられても病院には無料で住んでいるわけですから。
でもインド人医師、良心的で決して医師として無免許でもなんでもなく資格があるのに、なぜ病院で謎の老衰が多発したのか見抜けないのだけは疑問に思ったけど、さすがに80歳以上で寝てるうちに死んでたらやはり老衰となるのがどこの病院でも普通なのかな。
と重い話ながら、重く見せずにメッセージだけが伝わるのはイギリス的なユーモアと、歌と踊りと、それからサミュエル君たちキャストのせいでしょうね!みんな頼りなさげな人物を演じてるのに台詞がうまい。
サミュエル君って、いるだけで、見てるだけで幸せな気持ちになるんです、私。
ところでパンフレットにはリハーサルの写真が出ていて、老人役の人たちもジーンズにTシャツにスニーカーで全然若々しいんです。あのお芝居の衣装は入院患者だからというのもあるけど、お年寄りらしいお年寄りの衣装として考え抜かれたのかな。
サシャ・ダワン、いい役でしたね。幕間の解説で、どのキャラクターにも脚本家アラン・ベネットの一部が投影されているけれど、でもベネットの主張を一番ダイレクトに伝えているのは彼だ、とか何とか言ってましたけど、
>「それでも僕はイギリスに帰化したいのか」と自問自答する
この葛藤には、私も痛いほど共感しました。アラン・ベネット自身はイギリス人なのに、外国からイギリスに来て働いている人の複雑な心理を何て的確につかんでいるんでしょう!
>サミュエル君って、いるだけで、見てるだけで幸せな気持ちになるんです
わかります〜。彼の役柄ってどちらかというと「出世主義のイヤな奴」ですが、見ていて不思議とムカつかない(笑)。恐らくはゲイで、炭鉱夫たちのカルチャーとは相容れなくて、自分が自分でいられるためにロンドンに出て行ったんだろうな、ということが透けてみえるからでしょうか?
やはりヴァレンタイン先生よかったですか!?
「ヒストリーボーイズ」では存在感なかったのに、俳優さんと
脚本が合うとぜんぜんちがうんですねー。
イギリスの福祉が限界に来てるのもわかるけれど、
福祉で一度上がったスタンダードは最低限度でも
他の国よりもまだマシっていうのが外国人から見た
イギリスのよさなのかも知れません。
そうですね、サミュエルくん、顔が緩いからだけじゃなくて
さり気ない演技で嫌われない事情を醸し出してたからでしょうか。
同じ台詞を別の俳優さんがやったらぜんぜんちがうでしょうね。