面白かった。
童話 に近い印象はぬぐえないが、読みごたえのある中編が並んでいた。
「物語」というのは織物に似ていると思う。
縦糸と横糸が折り込まれて、それが綾なす布地の美しさ、時には素晴らしい模様が現れる。
だが、本当の逸品というのはその「綾なす」という部分を感じさせないのだろうと思う。
この「風に舞い上がる・・・」はその縦糸と横糸が意識されてしまう感があるが、
それが若い書き手だということで、これからの可能性を感じるものとなっている。
物語はどれも、読み手である私にとっても、登場人物にとっても少し違う道を進ん行く。
どうしてなんだろうと悩み、いくらか耐えて進むと、そこにいくばくかの明るさが待っている。
なるようになる というか、これでいいんだ というか、
人の生きようってこういうもんだよなという共感が残る。
どれも印象に残るが、私は表題作よりも「守護神」が好きだ。
でてくるのが大学生で、我が子たちと重ねる部分があるのかもしれない。
単位不足の恐れから、4年で大学卒業が危ぶまれる主人公“裕介”が、レポートの代筆の達人“ニシユキ”に代筆を依頼するところから物語は始まる。
いまどきの、遊びに夢中で努力の足りない大学生というイメージの裕介。
それがニシユキとの会話の中で、彼の本当のありようや、裕介自身も気がついていなかった姿が浮き彫りにされていく。
さあ、ニシユキは代筆を引き受けるのか・・・読んでいない人のために、ここは黙っていましょう。