いやあ、すごい内容だった。
とんでもない話なのだが、どうやら実話をもとにしたらしいところに抗えない凄みがあった。
主人公は荒地派の詩人・北村太郎。 50を過ぎてから、中学からの友人で同じ詩人の田村隆一の妻と恋に落ちる。
この妻がまたすごくて、田村隆一の4番目の妻で、自身最初の夫を明らかに自分の未熟さわがままから捨てている。
北村太郎も最初の妻子を海難事故で亡くし、再婚。 新聞社の校閲として“まっとうな”道を歩んできての~の話だ。
そしてなにより驚くのが、この3人だけでなく、荒地派ゆかりの人々は、多かれ少なかれこの手の変遷がものすごい。
それを荒地派でない人々が、驚愕の思いで付き合っているという風。
ただ、田村隆一の妻と恋に落ちるまでは、あまり多くの詩を生み出せなかった北村太郎が、
この恋のあと、次々と詩集を出していったことから、創作するために魂が欲するのかもしれない。
実をいうと、読み終わってもよくわからなかった。どういう話なんだこれは!!状況だった。
読後しばらく経って、何気なく置いてあった表紙の「荒地の恋」という題字が目に入った。
なんだか、すとんと何かが胸に落ちた。 なるほど「荒地の恋」だ。 この物語は、荒地の人々の恋の話なのだ。
各人各様、自分勝手な発想の持ち主の紆余曲折が、嫌にならないで読み終えられたのは、
ねじめ正一という作家のちからだと思う。
ホームドラマのような、穏やかな空気を醸し出しながら、淡々と修羅場を描いていく。
「高円寺純情商店街」と同じ柔らかいものが、この「荒地の恋」にもある。
だから落ち着いて読み続けることができた。
北村太郎の最後の秘密の愛人だった看護婦の阿子が、夫と娘と暖かい家庭を持っていたのはびっくりした。
最後の最後まで気がつかなかった。どこかにあったのかなあ・・・。
ああ、阿子も“荒地の恋”の人だったんだと思ったし、私がしっかりと読みきれていないんあだと感じた。
いずれ再読したい。