HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

郊外セレクトのカギを握るbingoの威力。

2012-05-15 07:37:08 | Weblog
 08年、ユナイテッド・アローズは、「値ごろ感のトレンド業態」と銘打った「COEN(コーエン)」をスタートした。これはマーケットをハイプライスのトレンド型と、ロープライスのボリューム型に分けてセレクトショップ展開してきた同社にとって、不況の影響で「高い金は出したくないが、トレンドの商品はほしい」という顧客が増え、そうしたマーケットを攻める業態開発が不可欠になったからである。
 当然、商品の価格を下げるにはコストダウンを図らなければならず、メーカーからの仕入れでは賄えない。リスク覚悟である程度大量の商品を生産し、それを捌ける店舗数が必要だ。また、家賃が高い都心部の駅ビルやファッションビルではコスト高でペイしない。

 そこで別会社(コーエン)を設立し三菱商事と組んで、商品生産は商社にアウトソーシングしてコストの安いアジアで生産し、ショップはショッピングセンター中心に展開したのである。
 これがセレクトショップかというと否である。それは置いとくとして、生産の手法をODM(UAブランドによる企画・生産)で行なうと、開発期間は短くて企画頻度も高いから市場対応のスピードが速くなるが、他社と似たようなデザイン、素材になり、UAらしさが無くなってしまう。
 一方、OEM(UAブランドによる生産)なら、企画デザインを自社で行えば、UAらしく商品の感度とレベルは高められるが、開発期間が長くなって企画の頻度が落ち、シーズン中にショップのすべてを埋める商品を手配できなくなる。

 結局、同社は開発期間の短縮、企画頻度のアップを優先し、ODMを選択したようだった。ところが、いざ商品が完成し売場に並んだのを見ると、素材やデザインはもちろん、感度も完成度も低い。UAのイメージとは大きくかけ離れてしまい、全く売れずに生産方法の修正を余儀なくされたのである。
 ブランド力があるから商社に丸投げして、あとは店を出すだけ。その程度の発想で高い金は出したくないが、トレンドの商品はほしいという「わがままなお客」を攻略できると考えるのは、浅はかだったのだ。
 ブージュ・ルードを展開するJACトレーディングの森健太郎社長は、初期のコーエンを見て「地方をバカにしている」と切り捨てたが、筆者もどこか東京目線、大手論理でものを考えているように思った。 その後、コーエンはOEMで自社企画を取り入れてQR体制による商品供給体制を確立し、出店先もショッピングセンターだけでなく、都市部にも展開してショップロイヤルティを高めていった。5月22日にはスカイツリータウンの東京ソラマチにも出店する。


郊外店でもセンスが高いマーケットは攻略

 もっとも、大手だから商社と組んでODMで商品を開発することができたわけだ。これが店舗数が少ない中小以下のセレクトショップならそうはいかない。
 では、どうすれば良いのか。そのヒントが熊本に本社を構え、福岡などにセレクトショップを展開するベイブルックのSC業態「ビンゴ」である。ここは郊外だからといって、コーエンのようにギリギリまで価格を下げた商品を販売していない。
 MDは基本的に仕入れによる構成で、あくまで都市型セレクトショップで培った商品感度と編集方針を貫く。 どうしても郊外マーケットは、「高い金は出したくない」という顧客ニーズがあるが、だからと言って商品のキャラクターや完成度が落ちて良いということではない。 つまり、結論は「値ごろ感がありつつ、センスが高いマーケット」 をいかに攻略していくかなのだ。
 もともと、ベイブルックは大手のようにバイヤーがアパレルをまわって、一括して商品を買い付けるセントラルバイイング制は採ってはいない。店舗スタッフがそれぞれ店ごとに仕入れを行なっている。それは効率的ではない、コストダウンが図れない、というのはあくまで大手の論理だ。
 それより、むしろお客に直に接してマーケットニーズを嗅ぎ取り、スタッフのフィルターを通して専門店系アパレルから探して、買い付けるのである。それはヴィンテージのジーンズであったり、上質なコットンのシャツであったりだ。だから、接客でも自信を持ってお客に勧めることができる。
 ビンゴでもこうしたポリシーを踏襲している。郊外店にしては商品の価格は高いが、そこを高い接客能力で補い、見事に提案力、販売力を発揮して、他社の追随を許さないのだ。08年秋にイオンモール筑紫野で初めて見たが、同じく出店するコーエンとは桁違いのレベルだった。
 4月末にオープンしたイオンモール福津店は、売場面積40坪ほどでメンズ、ウィメンズの複合業態。シャツやパンツといったデイリーカジュアルだけでなく、同社が得意とするインポートウエア、バッグや小物などの雑貨も揃える。まさにショップ力は企業ブランドじゃないって思わせる店舗である。
 また、広島のスーパーイズミが展開するゆめタウン光の森店は、さらにお客の入りが良い。たまの熊本出張時に寄ってチェックしているが、同社のルーツ「上通りのベイブルック」で育った目の肥えた顧客が家庭を持っても、引きつけられている。
 6000円~7000円といった値ごろ感のあるが、十分に上質な商品が揃うからだろう。 ヤング業態を卒業した顧客の受け皿がちゃんとできている。大手セレクトショップだから業態開発力はすごく、中小だからそのノウハウは参考にならない。そんなことは決してないようだ。
 
コメント
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