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HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

百貨店とアパレルに突きつけられた命題。

2012-05-23 17:18:01 | Weblog
 先日、日経ビジネスオンラインに「バーゲン『後ろ倒し』の大博打」という記事が掲載された。百貨店各社は売上げが落ち込む中で、年々セール時期を前倒し。6月下旬から夏物衣料が安売りされるようになった。一方、消費者はシーズンインで商品を購入する傾向が強く、盛夏ものがプロパーで売れる時季に百貨店はバーゲンに入るというおかしな現象となっている。
 そこで、まず三越伊勢丹の大西洋社長がバーゲンのあり方を見直すべきと言い出し、この夏のバーゲンは従来の7月初めから2週間ほど遅らせると決断した。これを受けて駅ビルのルミネもバーゲンは7月中旬から始めるとアパレル各社に通知したため、業界で大きな波紋を呼んだというわけだ。

 ただ、ライバル百貨店の大丸・松坂屋、そごう・西武、ファッションビルのパルコや渋谷109の対応は冷ややかで、「セールを遅らせる予定はない」と言う。また高島屋や東武も一部のブランドは6月末から始めると明言している。
 アパレルメーカーにとっては、不毛な値引き合戦から解放されるのは好ましいようだ。でも、同じブランドで卸先の百貨店によって価格が違うという現象が起きるのは避けなければならない。三越伊勢丹やルミネに合わせれば、他の百貨店が従来通りにバーゲンを始めたとき、他社のブランドはセール対象なのに自社のものはそうならないってことになる。
 そこで三陽商会は、通常よりも2~3割価格を抑えた新商品をバーゲン時期に投入するという。セール品のほぼ同額のプロパー商品だから、バーゲン前の三越伊勢丹やルミネでも売ることができるのだそうだ。
 
 この問題を冷静に見つめると、単なるバーゲン時期の問題ではない。永年続いてきた百貨店と百貨店系アパレルとの蜜月、持たれ合いの構造が引き起こした部分がある。本来、百貨店が商品を完全に買い取っていれば、いくらで売ろうと勝手なはずである。しかし、かつて福岡の岩田屋がそれに踏み切ったにも関わらず、自由に値下げしては売れなかった。こうしたところに問題の本質があるような気がする。
 また、三陽商会が打ち出した「通常よりも2~3割価格を抑えた新商品をバーゲン時期に投入する」という施策もいろんな問題をはらむ。同社婦人服企画部のお偉いさんは「通常商品を値引きして売るよりも、当初から3割安い新商品の方が利益率は高い」と宣っているが、あまりのお客を無視した百貨店やアパレルメーカーのご都合主義が透けて見える。

 論点を整理してみよう。まず、バーゲンには百貨店と百貨店系アパレルメーカーの間で慣習化している委託販売の問題が関わっている。
 百貨店は品揃えや価格の決定権はもつが、アパレルは販売スタッフを派遣し、在庫の最終処分リスクを負うから、派遣スタッフの人件費や処分後の返品経費といったコストが価格に乗せられる。結果として百貨店の商品は「原価率に比べ割高」になっているのだ。
 まず、百貨店はそうした取引慣行について考えるべきだが、その商品を安売りをすると荒利益が少なくなるから、後ろ倒しにすると言うのは本末転倒ではないか。まあ、チェーン専門店や路面のブランドストアは従来通りにバーゲンをスタートするだろうから、実際は大きく変わるとは思えない。
 逆に先にバーゲンをしたところがセール客を奪ってしまえば、後ろ倒しした百貨店やアパレルは売上げが取れなくなるかもしれない。さらに百貨店とアパレルが「申し合わせて価格を下げない」ことになれば、カルテル行為として独占禁止法に抵触する恐れがある。

 それ以上に問題なのは三陽商会が打ち出した「通常よりも2~3割価格を抑えた新商品」だ。これは最初から百貨店の値入れ率を確保しておき、プロパー販売で確実に荒利益を取ろうという魂胆が見えてしかたない。だが、販売価格を下げているわけだから、コストダウンして製造した商品である。それは「アウトレット専用品」と、何ら変わらないのではないか。
 三陽商会は「エポカ ラ ファブリカ」というアウトレット業態を展開している。当然のことながら、売れ残り在庫やキズものだけで売場は編集できないから、 アウトレット専用品も生産せざるを得ない。
 ただ、低価格にするには量産止むなしだから、MD担当者なら「まずは百貨店に流して、売れ残ればアウトレットで消化すればいい」と逆転の発想をするのは当たり前。メーカーだから同じルートの商品とわからないようにタグを変えたり、デザインをいじくったりといった小細工はいくらでもできるだろう。
 結果として、値下げされた他ブランドのレギュラー商品と、最初からコストダウンしたアウトレットライクのプロパー商品が同じフロアに並ぶという“いびつな構造”になってしまう。

 1999年、東急百貨店日本橋店の閉店セールは大盛況を博した。開始当初はセール商品に百貨店系アパレルの在庫を投入したが、売れに売れて商品が足りなくなり、最後は通常は百貨店には並ばない「量販店系商品」まで投入して凌いだと言われている。
 百貨店にはどうもこの閉店セールの成功体験が染み付いていて、とどのつまりが三陽商会が考えるような商品に行き着いたのではないかと思えてしかたない。今は見てくれが良くて、価格が安い商品がいくらでも開発できるのだから、なおさらだ。
 しかし、当時とは違い、お客の目も肥えて来ている。値下げされたブランドのレギュラー商品とアウトレットライクのプロパー商品を見比べれば、すぐに気づくはずである。こんな姑息な手段がいつまでも通じるとは思えない。
 百貨店と百貨店系アパレルは、バーゲン時期の後先といった場当たり的な政策に一喜一憂するのではなく、委託販売や買い取り、商品の原価率や値入れといった構造的な問題に踏み込まなければ、何の解決にもならないと思う。
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