HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ボタニカル柄は救世主になれるか。

2013-01-17 10:50:04 | Weblog
 西武・そごうの元旦初売りが賑わう反面、三越伊勢丹は未だにセールにすら突入していない。ナショナルチェーンは12月から商品の一部をバーゲンしているし、SPAもマークダウンは恒常化している。そんな状況なのに今さらセール時期に云々し、利益率アップを声高に叫ぶ業界、メディアには首を傾げたくなる。

 個人的に冬のセールで買いものするのは皆無だが、東京に初雪が降る気候で南国九州とて春物の入荷はまだまだ少ない。そんな折、偶然訪れたユニクロで一つのアイテムが目を引いた。
 正式名称は「プリントスキニーフィットストレートジーンズ」。ナチュラルデニム素材にペールトーンのオレンジやパープル、グリーンでボタニカル柄をプリントとしたものだ。ボトムボディにディスプレイしてあったアイテムが遠目には肌色に見えたので、近寄ってみると柄だとわかった。
 無地やせいぜいボーダーが主流のユニクロで、ボトムの柄ものは筆者の記憶にはない。特に今回のようなジーンズでは初めてではないだろうか。頑にベーシック路線を貫いてきたユニクロとしては、思い切った商品投入だ。

 というか、MD会議の段階で「Go」が出た背景には、幹部が売れると判断したからであろう。ここ数年のユニクロは「春先の天候不順」で上半期の業績が芳しく無い。毎年のように同じ要因で不振に見舞われているのだから、その対抗策として天候を超えるだけのヒットアイテムを生み出したいのは、当然のことだ。
 また、ファッションの定石から言って、昨年のカラーパンツは一通り浸透したはずだから、次ぎは柄物に移るというのは考えられる。欧米のコレクショントレンドでも、2年ほど前からボタニカル=植物柄が登場しているし、デザイナーも毎年春夏に柄のボトムを発表するケースは少なく無い。

 とすれば、コレクショントレンドがマス化しやすい今年、「柄ボトムは行ける」と判断したとしても不思議ではない。要は売れるか、ヒットアイテムになれるかどうかである。商品を見た第一印象では、正直難しいと思う。その理由を以下にあげてみる。
 まず、ユニクロで買いものをするお客の大部分は、コレクション派生のトレンドなんかに期待していないからだ。ボトムは脚がスッキリ見えて、はき易ければ良い。そこでオシャレを主張しようなんて思っていない。
 もし勢い余って買ったとしても、同じ商品がかなり出回るから、また「ユニバレ」ってことにならないとも限らない。ユニクロの顧客はそれを十分認識しているはずである。

 次にデザインの面で、いかにもユニクロ的な「工業的」プリントから脱却できていないことがある。既存の柄をステンシルにしてそのまま生地に印刷したような「ワンパターン」になってしまって、デザイナー的なアレンジが少しもない。これなら感性商品ではなく、やはり単なる工業製品と言われても仕方ないだろう。
 3つ目はレングスが長過ぎること。 レディスの春夏パンツがすっきり見えるのは、くるぶしから2~3cm上くらいの丈だ。特に脚が短い日本人はレングスが重要になる。 裾上げをすれば済むことだが、ディスプレイでそのまま着せているのはマイナスだ。
 柳井社長の常套句、「個性は着る人間が主張する」というなら、その最大公約数的な個性を考えて着こなしを提案すべきである。入荷した商品をそのままディスプレイするだけでは、あまりに能がない。

 そして4つ目が柄そのもののデザインである。パンツの柄は昔のグラフィックデザイナーが使っていたスクリーントーンにあるようなモチーフ。CGを使用したり、手描きしたようなクリエイティビティが少しもない。さらに柄に「間」がないから、かえってデザインとして主張を無くしている。
 それが遠目には無地に見えることで、ベーシック路線を行くユニクロの狙いかもしれないが、ならば最初からペールトーンの無地でも良かったのでないか。これも感性商品というより、工業製品という所以である。
 
 一介のディレクターが一アイテムについてブツクサいっても、ユニクロにとっては取るに足らないことかもしれない。ただ、柄のボトムは筆者が懇意にするフランスのメーカーも発表している。考えようによっては今年、マス市場に浸透する可能性もある。
 だからこそ、企画のほんの捻りで、売れる売れないが決まってしまう。たかが柄、されど柄。昔から普遍のモチーフとして数多くのファッションデザイナーが採用してきただけに、それを商品化する企画は売上げを大きく左右する。

 今年の上半期決算でまた、「天候不順で春物の売上げが不振」なんてお決まりの良いわけをしないで済むようなヒットアイテムに、ぜひともボタニカル柄のジーンズがなれることを切に願う。ちなみにフランスのメーカーが企画したアイテム(共にコットン98%、スパンデックス2%のストレッチ素材)との比較写真をアップしておくので、興味のある業界諸兄はご覧いただきたい。

 
コメント
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