HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

素材という価値が薄れたセレクト。

2013-12-04 16:42:17 | Weblog
 ファッションは素材が左右すると言われる。欧米のメゾンブランドやクリエーターがコレクションを年2回しか行わないのは、テキスタイルデザインがシーズンの1年前の見本市でお披露目されるからだ。もし、そこでインスパイアされる生地に出会えなければ、織りから取りかかるリードタイムが必要になってくるのである。

 それゆえ、産地の糸や織り機、生地の打ち込み、職人技の加工という条件を加えて生み出された素材は、でき上がる服の完成度を決めると言っても過言ではない。われわれアパレルで仕事をしてきた業界人の中に「素材が商品を決め、テキスタイルがデザインのカギを握る」という一家言をもつ人間が少なくない所以はそこにある。

 一般にアパレルが扱う素材は、まず原材料では天然ものが超長繊維綿、オーガニックコットン、麻(リネン=亜麻、ラミー=苧麻)、羊毛(ウール)、獣毛(ヘアー)、絹、そして合成繊維がポリエステルやナイロン、ポリウレタンやエスラタン(スパンデックス)、レーヨン、キュプラ、テンセルなどだ。

 それを撚って糸にすると、スパン、フィラメント、梳毛や紡毛、スラブヤーン、ネップヤーン、パイルになる。そして、それを織ると、サテンやモスリン、シフォン、レース、ベロアなどになり、編み立てると天竺(平編み)、ゴム(リブ、フライス、テレコ)、スムース(両面編み)、ガーター(パール編み)のニット素材になる。

 そして、オートクチュールなどに使われるのがオパール、フロッキー、エンボス、ラミネート、シルケットなどの加工で、素材はいろいろの表情を醸し出す。それがアパレルやデザイナーの目によって吟味されて採用され、一着の服へと仕上げられていくのである。

 元来、紡績業は原材料の調達に始まり、生地メーカーは糸を吟味して素材の番手や格を決め、アパレルやデザイナーはそれを用いてサンプルデザインを上げ、MDは原価や下代を考えながら、商品化していくというのが、長らく業界のクリエイティブ&ビジネスセオリーであった。

 ところが、繊維不況とアパレル斜陽が顕著になり、SPAがマーケットをリードし、さらにファストファッションが台頭し始めた頃から、流れは完全に逆転してしまった。つまり、最初に価格と利益ありきで、それに合わせて繊維、つまり糸や生地を調達していくのが主流になったのである。

 もはや消費者も最初にブランドを見て、次に正札を見るのがほとんどで、先に素材を確かめることなどしなくなったようである。店売りの最大の特徴はお客が素材に直に触れ、肌触りや着心地を確かめられることだ。しかし、ネット通販の浸透とともにこのスタイルは、完全に蚊帳の外に追いやられてしまっている。

 それどころか、ここ1年の素資材の環境を変えているのが、「混紡」の変化である。これについて筆者は「最初に価格と利益ありき」の影響がかなりあるのではないかと見ている。例えば、1980円でニットを販売するとなると、素材原価はその15%以下、つまり300円より安いものを調達しなければならない。必然的にウール100%とはいかないのである。

 まあ、素材のトレンドがフィット感やストレッチ性に傾いていることもあり、どうしても綿100%では限界がある。しかし、原価率を下げるために、合繊を混紡しているものは少なくないように感じる。また、明らかに「合繊の掛け合わせ」で見た目ウールや新たなの質感を表現しているものもある。

 まあ、SPAやファストファッションなら生地から大量生産するし、原価率と利益を明確に計算しているのだから、最初から認識してのことだ。でも、ここ1年、一般に「有名セレクトショップ」と呼ばれているところでも、 合繊の掛け合わせが顕著になってきている。

 それはトレンド提案と見られなくはないが、やはり原価率の問題もあるだろう。実店舗は30店以下でも、ネット通販ももつようなセレクトショップは、在庫を抱えなければならない。それゆえ、メーカー仕入れでは対応できず、商社OEMや企画会社型のODMを利用する。当然、受ける側は最初に原価ありきなら、生地提案からせざるをえないのだ。

 だいたい、日本でセレクトショップと言われるところは、トラッドショップやアメカジ系の系譜で発展しているから、素材はアメリカンコットンや英国ウールを用いた上質なものを扱ってきたイメージが強い。ところが、ネームバリュやブランド力がつき、数の論理で収益を上げようというところは、完全に方向性を変えてしまったようだ。

 例えば、とあるセレクトショップのサイトを見てみると、「テーラージャケット&パンツ」という名称をつけた商品があった。表地はポリエステル、レーヨン、ポリウレタンの混なのである。スーチングできるわけだから、なんかピンと来ない。また、別のショップでは「スラックス」でも綿、ポリエステル、ポリウレタンの混紡。ストレッチを入れるためにポリエステルやポリウレタンを混紡したのはわかるが、ご丁寧にアイテム名に「スーパーストレッチ」とか「リラックス」とかの冠までつけている。

 驚いたのはあるショップの「ジョッパーパンツ」である。これは腿の部分が外側に大きく膨らんでブーツを履いたシルエットをカッコ良く見せるのが特徴だ。であるからコシのある素材を使うのが定番なのだが、現物はポリエステル、レーヨン、ポリウレタン混で、まさにジャージだ。

 だいぶ前から、ヨーロッパのビジネススーツにもすべて合繊の掛け合わせが登場している。皺になりにくく、ケアが楽という目的や機能性が重視され始めたのだろうが、それでは素材感というファッション性は完全に崩れてしまう。

 若者の多くがネットで商品を買う傾向の中、生地に対する造詣やこだわりが無くなくなってきている。でも、それでは着心地や感触を判断する感性さえ錆び付かせてしまうのではないか。それはファッション文化の崩壊につながる危惧を覚える。はたして、Woolistさんはどう思っていらっしゃるだろうか。
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