HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

生地屋に未来はあるのだろうか。

2013-12-15 16:17:03 | Weblog
 子供頃から「生地」に触れる機会が多かった。洋裁師の息子という家庭環境、同級生が服飾材料店やオーダーサロンの小倅、生地屋が軒を並べる商店街etc.。大学生になると、今度は日暮里のファブリックストリートにも出かけたものだ。

 そこで気に入ったのが、キャンバスやネル、別珍やフェルトなど。組織が厚めで、こしのある生地だ。暇を見てはそれらで使って、信玄袋やショルダーバッグ、ブックカバー、シャツなんかを作ったものである。

 アパレルで仕事をしてからは、生地環境はゴロっと変わった。既成服の資材となる「表地」は、街の生地屋で売っているようなものとは一線を画した。特に当方が勤務したマンションメーカーでは、国内外の産地メーカー、商社や生地問屋、テキスタイルコンバーターの展示会や見本市で、個性的で上質なものを調達していた。

 特に力を入れる企画ものや別注商品では、イタリア製の薄手だがこしがある生地を使っていた。一方、他のメーカーでは、日本独自の染めや織にこだわったファブリックもあった。新潟なんかの地方にある機屋では、旧式の機械で少しずつ織り上げるテキスタイルが主流だった。一例をあげると、「ヨーガンレール」のような生地だ。

 あれから20数年、日本のファッションビジネスでは、生地は完全に「コスト」という意識になり、ブランドやデザインを決める重要な条件ではなくなったように感じる。もう見た目で、また触って、「良い生地だ」と感じる服は少なくなった。あっても、欧米のラグジュアリーブランドや国内の専門店系アパレルくらいだ。

 また、独特の風合いや微妙な色使いなど、特徴的な素材もあまり好まれなくなった。組織的にフラットなものばかりで、全然面白くない。SPAの中でユニクロは典型的だ。布帛ではカットソー、デニム、フリース、チノクロス、ニットではメリノやカシミア。すべてが平板で、メリハリは色でつけるだけ。それも秀逸な色出しとは言い難い。

 これがファストファッションになるとどうか。H&Mはデザインではトレンドを打ち出すが、素材ではユニクロよりはるかに下。Forever21は色出しは優れているものの、素材はやはり価格に見合うレベルでしかない。

 GAPは価格が上がる分、素材もやや上になる。でも、カラーはベビー、キッズが除いてレディスもメンズもベーシックトーンが主体。ZARAはモード感を追求するため、組織に特徴はあるが、決して上質ではない。GAPと同様に生地から発注できるため、コストパフォーマンスが条件で、質が追われることはないようだ。

 日本のデザイナーブランド系も、一部を除き海外生産にシフトしているところは、生地のグレードは確実に下がっている。というか、ブランド名が違っても、生地の色柄、組織はほとんど同じように見える。つまり、商社や企画会社のOEMを使えば、そうした企業が調達しやすい生地になるわけだから、同じになるのはわかりきっている。




 先日、書いたセレクト系商品に使われる「合繊」の混紡がが何よりそうだ。では、日本のテキスタイル産地や生地メーカーのスタンスや考え方はどうなのか。これは筆者よりファッションライターの南充浩さんの方が詳しいので、最近のブログから引用させていただく。

「製品を作ったからにはどこかで売らねばならない。
小売流通業への卸売りを模索するとともに、自社直販の手段も講じねばならない。

『生地販売を強化して売上高を回復』という取り組みの方が近道だと考える国内産地製造業者も多いだろうが、中高級価格帯を扱う国内アパレルの生産ロット数は知れている。
1社や2社取り引き先を増やしたところで、生産する生地のメートル数は何百メートル単位が増えるだけだろう。
それこそ、カイハラよろしくユニクロのような大ロット生産が可能なブランドと組むほかはないが、大ロットブランドは低価格帯であるから、国内産地製造業者のコストと合わない場合が多い。
カイハラのような例は稀なケースだと考えた方が良い」

(中略)
 
 「こう考えてみると、現在の小規模生産背景を活かすには製品化しかない。

製品化したからには、自社での直販も考慮にいれないといけない。

そういう風潮を察してか、最近、製造業者や産地組合が外部から講師を招いて製品化への取り組みのセミナーや講演会を開催することが増えた。

これは喜ばしいことではあるが、閉会後の反応はだいたい2つに別れる。
「我々もがんばりましょう」という場合と
「製品化とか直販なんて言われても・・・・」という場合だ」

「後者の場合は重症だ」

「ただ、今後いくら待っていても国内産地がガチャマン時代のような活況を呈することは絶対にない。
現在、中国の経済失速、政治的軍事的対立、人件費高騰によって、国内製造業へ受注が戻りつつある。けれどもこれは今後永遠に続くものではなく一時的なものにすぎず、いずれ東南アジア諸国やインドあたりへシフトしてしまうことは目に見えている。

国内製造業へのわずかな揺り戻しがある現在をボーナスステージと捉えて次への準備を進めるべきである。
もしくは円満廃業への準備を進めるか、である」と。

 かつてのデザイナーブランド全盛期のように、国内テキスタイルが服のデザインを決めていた時代は、もう戻ってこないかもしれない。また、テキスタイル業界自体が何らかの対策をとろうとしない点がいちばんの問題と、南さんは指摘されている。

 街の生地屋も、洋裁をする人間が少なくなった環境から、ビジネスとして成り立たなくなった面はあるだろう。しかし、子供の頃、お使いに行っていた時の記憶を辿ると、生地に関してかなりのプロがいたように感じる。ところが、今は向こうからアドバイスしたり、組織や素材について講釈することは少なくなった。

 まして、既成服向けの生地について、「こんなイメージの生地ないですか」と訊ねても、「ありませんね」とあっさりした答えしか帰ってこない。これには非常にショックを受ける。




 生地は何も服を作る時だけ買っていたわけではない。プレス事務所時代にはアクセサリーや小物を撮影する時の「バック布」にも使っていた。質感や光沢があるものは、商品を際立たせてくれる絶好の演出道具だからだ。

 生地は狭いとヤール幅、その上が90cmか1m幅、テーブルクロス用で120cmくらいが限界だ。だから、ジュエリー程度の撮影ならいいのだが、バッグのように大きくなると、幅が1m程度では余白が足りなくなる。

 撮影専用に織られた広めの素材もあるが、質感のバリエーションはないし、価格も1枚数万円とカメラマンの負担は少なくない。東京で筆者がよく行っていた生地屋は、「撮影用のバックに使う」といつも言ってたせいか、むこうからいつの間にかいろんな生地を提案してくれるようになった。決して購入する用尺は多くはないが、それでも一度に4mほどを何種類か買っていたので、結構なお得意さんだったはずだ。

 カメラマンのアシスタントやスタイリストにも紹介し、いろんな生地を使うことを覚えさせた。生地屋もそうしたやり取りで少しは、服飾材料とは別の用途もあることを学んだようである。

 でも、これが地方になると、からっきしダメだ。先月もクリスマスプロモの撮影用で、ある生地屋に行った。そこでこちらから「撮影用に使いたい。クリスマス用のため、発色がいい物を」という注文をつけた。すると、予想通り「裏地」に使うキュプラ系に案内された。

 ただ、色のバリエーションがあるだけで、あとは厚みの違いで700円~900の価格帯のみ。撮影のカンプを見せて「こんなイメージ」と言っても、「裏地」以外の生地がアドバイスされることも、探して提案してくれることもない。ただ、淡々と、こちらの話を聞くだけ。

 「何と商売っ気がないのか」と思ってしまった。あくまで服用の素資材を販売するのが目的だし、撮影のプロではないのだから、理解できない部分はあるだろう。しかし、生地屋なのだから手持ちのバリエーションや質感、発色の違いくらいはアドバイスしても良さそうなものだ。それが商売の基本だと思うし、顧客を惹き付けるカギではないだろうか。

 誰がどんな目的で生地を求めているのか。多くの人にうちの生地の良さを少しでも訴えることが必要ではないか。南さんがいつも指摘されている「生地メーカーにはビジネスを広げる視点に欠ける」というのは、街の生地屋にも共通する。これでは格安既成服全盛の時代に、街の生地屋が残る可能性は、ますます少なくなってくると思う。
コメント
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