HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ノウハウを買収する狡猾さ。

2014-03-03 16:11:04 | Weblog
 先週末、業界にビッグニュースが飛び込んできた。ロイター電が伝えたところによると、「ユニクロを展開するファーストリテイリングが米ブランドJ.CREWの買収交渉を進めている」というのである。

 ウォールストリート・ジャーナルも電子版で、同社が「米衣料品 J.CREW ・グループの買収に向けた話し合いを始めた。買収額は最大50億ドル(約5100億円)を見込む」と伝えている。

 すぐに業界人の間では「バーニーズ買収に次いで今度はJ.CREWか」「レナウンが一度、失敗しているのに」「オーバーストアの日本市場では難しいだろう」「株主、投資家への配慮」etc. 駅ビルのリニューアルなんてそっち抜けで、話題になっている。

 ファーストリテイリングは「2010年グループ売上げ1兆円」という目標を掲げ、ユニクロ事業の国内外展開と並行して、M&Aを積極化。仏のコントワー・デ・コトニエ、プリンセスタムタム、米のセオリーなどといった海外ブランドを傘下に収めていった。

 2010年8月期の決算では、グループ年商8148億円と1兆円には届かなかった。しかし、ユニクロ旗艦店の国内大都市展開、ジル・サンダーとコラボした「+J」の発売、NY5番街のグローバル旗艦店の出店などの話題を持ち上げて、目標未達がやり玉にあがるのを巧くかわした。

 それどころか、今度は「2020年グループ総売上5兆円」という壮大な目標を打ち出し、諸々の新商品開発、アジアでの積極展開、ジーユーの海外進出と、既存ブランドのテコ入れなど、新戦略をぶちまけた。

 もちろん、それだけでは5兆円という目標が達成できる保証はない。ファーストリテイリングが単なるグローバルSPAで終わらず、ファッションコングロマリットも視野に入れているとすれば、やはりブランド買収も選択肢に入っているのは当然だ。

 ファッション音痴の国内メディアは、今回のJ.CREWも日本市場でも店舗展開や市場性、レナウンの失敗例だけで捉えようとする。でも、そこは強かな柳井正会長のこと、そんな単純な考えで、買収に走ったとは思えないのである。

 ここからはあくまで推測だが、まず米市場に強いブランドを手中に収める狙いがあると思う。ユニクロがいくらNYの5番街に出店し、米国内でブランドの知名度を上げたからといって、ブランド力がどこまで浸透できるかは、2年を経過した今でも未知数である。

 また、米市場にはユニクロより格上のGAPが君臨しており、グレードではJ.CREWはさらにその上を行く。ならば、 全米に店舗をもつブランドを傘下に入れた方が、売上げ確保やシェア獲得には手っ取り早い。経営者ならそう考えるのは当然のことだ。

 そもそも、J.CREWとはどんなブランドか。1983年、「トラディッショナル・テイストのいつの時代も着られる衣料を手頃な価格で」をスローガンに通信販売からスタート。89年からは小売りにも進出したが、筆者がNYで仕事をした90年代半ばは、サウスストリートのシーポートに本拠を構える一SPAに過ぎなかった。

 ところが、96年から全米に店舗を拡大し、今では全米各州やカナダの各都市の他、英国のロンドンにも展開。通販では依然として高いノウハウをもち、アウトレットというバーチカルな消化システムを構築する一方、NY、ボストン、シカゴといった主要都市の旗艦店ではウエディング&パーティドレスも展開する。

 こうしたキャリアやアウトライン、経営戦略もさることながら、何より事業規模22億ドルという手頃さが米市場におけるユニクロとの補完関係にあると判断され、買収案件に上がってきたのだと思う。そのため、今回はこれまで失敗してきたコラボレーションなんかのリスクは踏まず、実現可能なら単なるブランド買収に落ち着くはずだ。
 
 まあ、以前にレナウンがこのブランドを導入したのは、都市部のデパートやSCで売れると踏んだからだ。ファーストリテイリングの傘下に収まった暁にも、同じく百貨店やSCが出店のオファーを出すことは、なきにしもあらずだろうが。

 それにしても、レディスの商品を見る限りでは、米国ブランドにありがちなコンサバ色は薄れ、ユーロブランドにも匹敵するクリエイティビティを有している。そのシャープで大人っぽいテイストは、昨今のNBには見られないし、ユニクロなんかが打ち出せるものでもないだろう。

 SCや駅ビルにある甘さ追求のSPA、あるいは陳腐化した百貨店のハコに飽き足りない層は、ネットの転送サービスなどを利用して購入していると思われる。

 経営的にも03年、GAPのミラード・ドレクスラーCEOが同社に移り、10年で売上げを3倍に伸ばし、赤字だった企業を一気に黒字転換させたのは有名な話だ。これは買収案件を持ち込む銀行サイドにとって、かなり目を引いた要素ではないだろうか。

 20年に5兆円企業を目出すファーストリテイリングには、これから可能性のある企業やブランドを買収して立て直すなんて悠長なことは言ってられない。それは柳井会長がいちばんわかっていると思うし、バーニーズに買収を仕掛けたことが何よりだ。

 グローバル競争では、優良企業の買収合併は当然のこと。業界では未だにブランドライセンスや商標権確保の次元で論じられることが多い。でも、M&Aで経営権を手にするのは、自社が持たないノウハウを得ること。そこに意味があるのである。
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