HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ショーは仕入れの決め手にはならない。

2014-04-07 17:23:38 | Weblog
 「Mercedes-Benz Fashion Week Tokyo 2014-15 A/W」では、東コレデザイナーによる秋冬物のクリエーションを堪能した。でも、今は小売りのMDレベルで盛夏物の手配が終わり、アパレルは秋物第1弾の生産にかかる時期である。

 かつては店頭でも、アパレルの展示会は春夏、秋冬の1回で、期中に修正やフォローをかけていくものだった。ところが、次第にマーケットはアパレルの企画通りには動かず、トレンド変化が激しくなり、半年前に半年後の流行を予測するなど、不可能になってきた。

 そこで、アパレルはQR(クイックレスポンス)なるシステムを投入し、企画デザインと消費者の嗜好の変化を両立させようと腐心し、小ロット・多品種のアイテムを短サイクルで製造するようになった。

 さらに製造から販売までを一貫させて、作って売り減らす効率追及のSPAシステムが登場。SPAは当初、DCブランドメーカーが採用したものだったが、ギャップやユニクロといった小売業も、こぞって導入していった。

 ファッションメディアがこうした技術革新や新しいビジネスモデルを取り上げることはほとんどない。依然として「ファッションの発信基地はパリだ」というスタンスを崩さず、年2回のコレクションが「最も権威あるもの」と信じて疑わないのである。

 というか、それを貫くことが雑誌のロイヤルティを維持し、読者や広告スポンサーを惹き付けるのだから、やむを得ない面はある。でも、バイヤーの間では少しずつ意識変化が生じていった。ショーを見ただけでは、商品を仕入れるかどうかの見極めがつかなくなったからだ。

 バイヤーには、ランウエイを歩くモデルの着こなしを見ただけでは、アームホールや脇つれ、肩線、ウエストラインなどのディテールはチェックはできない。現物の服を触ってはじめて素材感がわかり、試着して着心地や着脱の難しさ、全体のバランスがつかめるのだ。

 筆者がマンションアパレルにいた頃は、レディスなのに実際に羽織って着心地を確認し、姿見に映して見た目のシルエットを確かめる男性バイヤーもいたほどだ。

 店頭で売る商品となると、顧客の好みからサイズまで念頭におかなければならない。せっかくのクリエーションもお客が買ってくれて、始めてビジネスになる。こうした小売りのニーズ、マーケットの変化には、むしろメゾンの方が敏感に反応した。

 ブランドを守る上で、クリエーターは簡単に切れても、職人や加工業者、縫製工場は守っていかなければならない。そのためには膨大なコストがかかる。そこで、取られ始めた手法が「プレコレクション」というショーの前に行われる商品化のための「展示会」である。

 これを実施することで、バイヤーは店頭のMDに則した仕入れができ、メゾン側はシーズンにおける売上げの見通しが立つ。それは「自分の作品を創り、その作品が観客の喝采を浴び、名声を博したい」とのクリエーターの心情も汲みながら、ビジネスに向かせる懐柔策にもなる。

 コレクションがイメージ誇示の場とすれば、プレコレションはバイヤーから受注を取る、商売の場なのである。営業担当者はその会場で、取引先バイヤーの声、情報も収集する。それが企画デザイン、ひいてはクリエーターにもフィードバックされていく。

 すでに世界の3大コレクションの現場では、当たり前のこと。大手ファッションメディアも、大々的に報道こそしないが承知の上だ。でも、ファッション音痴のローカルメディアは、この辺のメカニズムを全く知らず、相も変わらずコレクションだの、情報発信だのと抜かしている。

 東京コレクションが終了した翌日の3月23日、「福岡アジアコレクション/FACo」が開催された。お馴染みの三文タレントを集めた客寄せイベントで、「地元ファッションの発信」を強調するも、ショーの尺が埋まらないため、NBも堂々と組み合わせるまやかしの企画に過ぎない。

 また、タイトルに「アジア」が入っていること、事業モデルを海外でも展開させるための布石から、今回は「タイ」のアパレルを登場させている。主催者側はショーのリリースで、「ファッション雑誌の編集者やバイヤーさんへ」とわざわざ断わった上で、告知したほどだ。

 実際、大手ファッション雑誌が取材に来ていたかはわからないが、地元のフリーペーパーレベルをファッションメディアと呼べるはずもない。そもそもそれらにタイのブランドを論評するような知識もないだろう。いかにもイベント資金を拠出する「行政」にアピールしようという主催者の思惑が透けて見える。

 もっとも、バイヤーを対象にしているのなら、まずは「展示会」を催して商談の機会を設けるのが先だ。商品に実際に触れてみなければ、仕入れに踏み出すことなどできない。その辺に企画の稚拙さ、詰めの甘さというか、ファッションビジネスを完全になめ腐った態度が露呈する。

 「ショーを見ただけでは仕入れの決め手にはならない」は、ファッション業界のセオリーである。平気でルールを破るあの企画運営委員長の御仁と、ファッション音痴のトータルプロデューサー。このお二人がいかに地元ファッション業界に向き合っていないかがよくわかる。
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