HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

雑誌廃刊で問われるプレス活動。

2014-04-17 06:35:09 | Weblog
 新年度がスタートしたが、2月に期初が始まるファッション業界は、すでに秋物の企画に入っている。そんな矢先、ギャル系雑誌「小悪魔ageha」などを出版するインフォレスト(旧英知出版)が事業を停止したというニュースが入ってきた。

 昨今、ファッション誌の廃刊は珍しくない。特にヤング向け雑誌はブームに乗じて発刊したはいいが、ものの2~3年で下火になると売上げはじり貧になる。発行部数が下がれば、広告収入も減少していくから、出版社として経営を維持できないという構図だ。

 インフォレストの負債総額は約30億円というから、紙や印刷、物流、販管といったコストがかかる雑誌の存続は、中小出版社には容易ではない。特に若者向けのようなターゲットを絞り込んだマイナーファッション誌では、もうコストに見合う収入は見込めないようだ。

 雑誌は広告収入で運営される。仮にあまり売れなくても、スポンサーが広告を出稿してくれれば、存続は可能だ。また、雑誌にブランド力があり、出版社の営業や広告代理店の新雑担当が「枠」を売りやすく、年契を結べることも条件だ。

 雑誌には「媒体資料」なる営業ツールがある。これに書かれている「発行部数」は、スポンサーにとって広告の出稿か否かの目安になる。そのため、営業担当が広告スポンサー探しに腐心しても、部数が少なければ簡単に広告は取れない。

 まして代理店になると、雑誌の発行部数よりブランド力でスポンサーに勧めることがあり、中小出版社やマイナー雑誌の営業にそれほど真剣に取り組まないことが多い。

 かつて旭通信社(現アサツーディ・ケイ)が扱っていたラグジュアリーブランドの雑誌広告も、数年前からは電通に一本化された。スポンサーにとっても、大手出版社に営業力を発揮し、優良な媒体の枠を優先的に確保できる代理店の方が都合がいいからだ。

 となると、弱小の出版社が発行するファッション誌が存続できる可能性は、ますます低くなっている。これまでは中小のアパレルや化粧品、エステ、健康食品、雑貨などのスポンサーが広告料が手頃だからという理由で出稿してくれていた。

 それが部数が減ってくれば当然、販促には結びつかなくなる。投資対効果が見込めなければ、雑誌に広告を出す意味は無い。かつてはアパレルの広告媒体として権威を誇ってきたファッション誌も、いよいよ限界に来ているようである。

 筆者はファッション関連の雑誌に携わって25年以上。当初はアパレルメーカーが雑誌に載せる「入り広」を制作していた。デザイナーとプロモーションイメージを打ち合わせ、シチュエーションに合わせたコピーを書き、ロゴをレイアウトしたラフスケッチを描く。

 それを絵コンテにしてカメラマンやスタイリストなどを交え、スタジオやロケで撮影し、上がったポジ(写真フィルム)をもとにレイアウトして、版下を作り入稿する。こうした作業の合間に担当営業とファッションについていろんな話をする機会があった。

 身内に洋裁師がいることから生地や付属品といった素資材、既成服のデザインやパターン、マンションアパレルのクリエイティビティについて語った。そこで「そんなにファッションのことが詳しいなら、記事も書きませんか」と言われたのがきっかけで、ルポも書くようになった。

 そして、書いた記事を別の媒体の編集者が見て、仕事の依頼が舞い込んだというわけだ。以来、20数年、ファッション業界関連のいろんな出来事に触れてきたが、幸い外部ブレーンとして参加だったので、雑誌廃刊の憂き目にあったことはない。

 残間里江子氏が編集長を務めた「Free 」のように創刊号の翌月に廃刊するのは例外として、ファッション関連の媒体も明らかにインターネット系のデジタルコンテンツに移行していると思う。というか、レスポンスを見ると、明らかに実感している。

 もちろん、すべてのファッション誌が無くなることはないだろうが、販路を通販メーンにしているアパレル、ターゲットの特性を考えてマーケットを広範囲に考えると、ネットのようにダイレクトに告知、販売までできるメディアは重宝する。

 ここで問題なのは広告料金や制作費だ。雑誌に比べるとネットの広告媒体料は安い。その分、収入も低いわけだから、制作費は潤沢ではない。 昨今、ネットでは「ライティング」や「デザイン」が数多く募集されているが、ギャラは1本数十円から数百円と素人内食の域を出ない。

 筆者はファッション関連メディアの仕事を20数年やってきて、それなりのギャラをいただいてきた。原稿料はネット内職とは2ケタも違う額で、ちゃんと「プロとしての力量」を評価していただいた結果だと思う。

 ネットメディアにおける広告の制作料金は雑誌やグラフィックデザインに比べると、半分から3分の1だ。当然、外部スタッフも雑誌媒体ほどのギャラはもらえないわけで、おそらくプロのスタイリストやヘアメイクは、ネットだけでは食っていけないと思う。

 メディア側はしきりにブランティングだの、ロイヤルティのアップだのを謳っている。しかし、現状のコンテンツイメージを見れば、そんなものは戯言に過ぎない。広告料金を上げる狙いがみえみえだからだ。

 4月に入り、メディアの業界を目指して勉強や就活を始めた諸君は、インフォレストの事業停止のニュースに見るファッション誌存続の厳しさ、一方でネットメディアを取り巻く収入の頭打ちにも念頭に入れて活動すべきだろう。

 肝心なアパレル側はどうか。広告料金は雑誌より安い。ターゲットによっては、適正な媒体だと言える。ダイレクトに売りにつなげることもできる。広告媒体として参入障壁は低いが、その分競合相手も多く、どこまで販促につながるかには?がつく。

 プルメディアとしての発信力はあるが、積極的にプッシュする媒体とまではいかない。ブランドロイヤルティを上げるほどの力にもほど遠い。雑誌媒体が厳しい状況にあるとは言え、ネットメディアが一人勝ちするようなこともないと思う。

 某バッグブランドのように商品の原価率は低いが、雑誌、ネットなどに莫大な広告費をかけてブランドロイヤリティを上げるのは、アパレルの常道とは思えない。商品が上質であるからこそ、バイヤーの目にかない、顧客満足を上げるのである。

 経費よりまず商品づくりにコストをかけるべきなのだ。そこで、資金力に限界がある中小アパレルにとって、プロモーションや営業にどんな媒体を使うかという課題にあたる。マスとソーシャル、プッシュとプル、紙とデジタルの使い分け。プレスにはこうした媒体戦略を考える能力がますます問われている。
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