前回、ファッション雑誌という紙媒体の限界について書いた。一方、それに変わるメディア、Webの隆盛は衰えることを知らない。特に今、アパレル業界で話題になっているのが、2月に開催された「第3回サムライモノフェスティバル」に出展した「誰でもブランドを立ち上げられるサービス」である。
このイベントは「モノづくりとITを中心としたスタートアップの祭典」と銘打ち、ベンチャービジネスや新規事業を広くアピールするもので、このサービスが一躍、業界の脚光を浴びたというわけだ。
ムーブメントとしての「誰でもブランドを立ち上げられる」は、別に目新しいものではない。10数年前、渋谷109を中心に「カリスマ販売員」が登場し、彼女たちの中から実際にビジネスを立ち上げて、自分のブランドをもったものもいるからである。
そのすべてがファッション専門学校でデザインやパターンを勉強したかというと、決してそんなことはない。むしろ、少数派だろう。では、なぜ彼女たちがそれができたのかというと、デザインやパターン、素資材の手配などを「黒子」としてやってくれる会社があるからである。
また、そうしたビジネスはトレンドがめまぐるしく変化し、商品生産のスピードを上げなくてはならない業界では、もはや当たり前になっている。名称はファッションソフトハウス、企画デザイン会社、OEMメーカー、ODM業者。それぞれの性格でいろいろ呼ばれている。
言い換えれば、こうしたビジネスソースがあるからこそ、「誰でもブランドを立ち上げられる」は可能なのだ。
一般にはあまり知られてはいないが、アパレルメーカーはトヨタ自動車やパナソニックのように自社で企画から生産まで行う製造業ではない。企画デザインやマーケティングはやっても、生産は外部のアパレル工場に任せ、上がってきた商品を小売店に営業する「卸売業」という解釈が正しい。
さらにそれさえ、ぶつ切りになって前出のような業者が登場している。それが10数年を経過して、今度はITを組み合わせてさらに簡略化するモデルとして登場したということだ。
今回の新サービスは、バンダースナッチという企業が手がける「STARted」。利用者は服のイラストを描くだけで実際に服が作れて、STARtedのECサイトで実際に販売することも可能だとか。アパレルにはいろんな中間業者がいるのだから、理屈としてできないことはない。
この企業は過去にいろんなブランドを立ち上げた経験があるというから、アパレルというビジネスの仕組みを熟知しているだろうし、業者を介在させれば不可能ではないと踏み、事業化を目論んだのだと思う。
このコラムでも以前に書いたが、欧米のSPAではデザイナーがファッションイラストを描いて、それから実物のパターンを起こしサンプルを作り上げるケースは少なくなっている。むしろ、IllustratorやPhotoshopを駆使してフラット絵型を描き、それをVectorで立体化してビットマップ画像化し、CADパターンを作成する作業が主流になっている。
STARtedはここまで無機質でデジタル化されたものではないようだ。ベースが素人レベルのファッションであるところに、まだまだアナログ感覚が残り、デザイナー憧憬はあるがIT音痴の若者を惹き付ける「可愛げ」「幼稚さ」を感じる。
でも、最終的には「10万円ほどで数着の服ができる」というサービスを目指しているというから、既存のアパレル事業者というよりも、それ以前の専門学校生や個人デザイナーにとっては光明かもしれない。
筆者はグラフィックデザインの仕事もしているので、プロのイラストレーターとも付き合いがある。従来は商業デザインの一環として、ポスターやチラシなどの挿絵を描くことでギャラをもらっていた彼らだが、やる気があればアパレル参入も可能ということだ。
というか、いろんなイラストレーターと仕事をすると、この人のセンスならファッションデザインを手がけても良いのでは思ったことが何度もある。その時は紙媒体で十分食えていたので、そこまで考えるイラストレーターはいなかった。
しかし、次第に紙媒体が少なくなり、食えなくなっているイラストレーターも多い。実力も経験も実績もあるのだから、こうしたサービスは新たなビジネスチャンスかもしれない。その意味では、ディレクターとしてファッションセンスをもつプロのイラストレーターに、アパレル業界の活性化が託せるかもしれないと思う。
ただ、現時点ではアイデアや企画デザインがサンプル化されるもので、その先のビジネスフローは明確にはなっていない。もちろん、量産化するためのパターン製作が不可欠だし、工場に縫製を頼まなければ商品化はできない。ビジネス化するには、工賃や納期の問題もクリアする必要があり、こうした流れは現状のままでいかざるを得ないだろう。
ビジネス的に考えると、こうしたサービスが求められていくのは、間違いないと思う。アパレルは採用に二の足を踏んだとしても、ファッション専門学校は導入するかもしれない。そりゃ、高校生に「あなたが描いたイラストが実物の服になるよ」といえば、プリクラの加工写真どころの騒ぎではないはずだ。
また、行政が絡むファッション振興事業でも、客寄せイベントの格好のギミックになる。企画担当者や子飼いの代理店は「公募で集めたイラストを商品化すれば、格好の話題になって事業が継続できる」と考えるはずだからだ。
でも、個人的には決して納得はしてない。子供の頃、ブティックのオーダーサロンで、生地選びや採寸を目の当たりにし、縫子さんが生地に型紙を当ててチャコで印を付け、裁ちバサミでカットし、それを仕付け糸で縫い合わせて仮縫いを行う光景に日常で触れてきた。
でき上がった服はお洒落の最先端を行き、身体にジャストフィットしていたのが、今でも頭に焼き付いて離れない。そして、そうしたフローを少しでも残しているブランドを今でも好んで着ている。
ビジネスとしてはこうしたサービスがますます市場を切り拓いていくことになると思うし、その流れは止められない。反面、1mm単位でのパターンを仕上げ、サンプルを修正しないと、カッコいいデザインの服にはならないというのをずっと経験してきた。
どちらにせよ、ITと呼ばれる情報技術が業種や職種をボーダーレスにし、アパレルをますます軽薄短小化するのは、もはや現実として受け止めなければならないようだ。
このイベントは「モノづくりとITを中心としたスタートアップの祭典」と銘打ち、ベンチャービジネスや新規事業を広くアピールするもので、このサービスが一躍、業界の脚光を浴びたというわけだ。
ムーブメントとしての「誰でもブランドを立ち上げられる」は、別に目新しいものではない。10数年前、渋谷109を中心に「カリスマ販売員」が登場し、彼女たちの中から実際にビジネスを立ち上げて、自分のブランドをもったものもいるからである。
そのすべてがファッション専門学校でデザインやパターンを勉強したかというと、決してそんなことはない。むしろ、少数派だろう。では、なぜ彼女たちがそれができたのかというと、デザインやパターン、素資材の手配などを「黒子」としてやってくれる会社があるからである。
また、そうしたビジネスはトレンドがめまぐるしく変化し、商品生産のスピードを上げなくてはならない業界では、もはや当たり前になっている。名称はファッションソフトハウス、企画デザイン会社、OEMメーカー、ODM業者。それぞれの性格でいろいろ呼ばれている。
言い換えれば、こうしたビジネスソースがあるからこそ、「誰でもブランドを立ち上げられる」は可能なのだ。
一般にはあまり知られてはいないが、アパレルメーカーはトヨタ自動車やパナソニックのように自社で企画から生産まで行う製造業ではない。企画デザインやマーケティングはやっても、生産は外部のアパレル工場に任せ、上がってきた商品を小売店に営業する「卸売業」という解釈が正しい。
さらにそれさえ、ぶつ切りになって前出のような業者が登場している。それが10数年を経過して、今度はITを組み合わせてさらに簡略化するモデルとして登場したということだ。
今回の新サービスは、バンダースナッチという企業が手がける「STARted」。利用者は服のイラストを描くだけで実際に服が作れて、STARtedのECサイトで実際に販売することも可能だとか。アパレルにはいろんな中間業者がいるのだから、理屈としてできないことはない。
この企業は過去にいろんなブランドを立ち上げた経験があるというから、アパレルというビジネスの仕組みを熟知しているだろうし、業者を介在させれば不可能ではないと踏み、事業化を目論んだのだと思う。
このコラムでも以前に書いたが、欧米のSPAではデザイナーがファッションイラストを描いて、それから実物のパターンを起こしサンプルを作り上げるケースは少なくなっている。むしろ、IllustratorやPhotoshopを駆使してフラット絵型を描き、それをVectorで立体化してビットマップ画像化し、CADパターンを作成する作業が主流になっている。
STARtedはここまで無機質でデジタル化されたものではないようだ。ベースが素人レベルのファッションであるところに、まだまだアナログ感覚が残り、デザイナー憧憬はあるがIT音痴の若者を惹き付ける「可愛げ」「幼稚さ」を感じる。
でも、最終的には「10万円ほどで数着の服ができる」というサービスを目指しているというから、既存のアパレル事業者というよりも、それ以前の専門学校生や個人デザイナーにとっては光明かもしれない。
筆者はグラフィックデザインの仕事もしているので、プロのイラストレーターとも付き合いがある。従来は商業デザインの一環として、ポスターやチラシなどの挿絵を描くことでギャラをもらっていた彼らだが、やる気があればアパレル参入も可能ということだ。
というか、いろんなイラストレーターと仕事をすると、この人のセンスならファッションデザインを手がけても良いのでは思ったことが何度もある。その時は紙媒体で十分食えていたので、そこまで考えるイラストレーターはいなかった。
しかし、次第に紙媒体が少なくなり、食えなくなっているイラストレーターも多い。実力も経験も実績もあるのだから、こうしたサービスは新たなビジネスチャンスかもしれない。その意味では、ディレクターとしてファッションセンスをもつプロのイラストレーターに、アパレル業界の活性化が託せるかもしれないと思う。
ただ、現時点ではアイデアや企画デザインがサンプル化されるもので、その先のビジネスフローは明確にはなっていない。もちろん、量産化するためのパターン製作が不可欠だし、工場に縫製を頼まなければ商品化はできない。ビジネス化するには、工賃や納期の問題もクリアする必要があり、こうした流れは現状のままでいかざるを得ないだろう。
ビジネス的に考えると、こうしたサービスが求められていくのは、間違いないと思う。アパレルは採用に二の足を踏んだとしても、ファッション専門学校は導入するかもしれない。そりゃ、高校生に「あなたが描いたイラストが実物の服になるよ」といえば、プリクラの加工写真どころの騒ぎではないはずだ。
また、行政が絡むファッション振興事業でも、客寄せイベントの格好のギミックになる。企画担当者や子飼いの代理店は「公募で集めたイラストを商品化すれば、格好の話題になって事業が継続できる」と考えるはずだからだ。
でも、個人的には決して納得はしてない。子供の頃、ブティックのオーダーサロンで、生地選びや採寸を目の当たりにし、縫子さんが生地に型紙を当ててチャコで印を付け、裁ちバサミでカットし、それを仕付け糸で縫い合わせて仮縫いを行う光景に日常で触れてきた。
でき上がった服はお洒落の最先端を行き、身体にジャストフィットしていたのが、今でも頭に焼き付いて離れない。そして、そうしたフローを少しでも残しているブランドを今でも好んで着ている。
ビジネスとしてはこうしたサービスがますます市場を切り拓いていくことになると思うし、その流れは止められない。反面、1mm単位でのパターンを仕上げ、サンプルを修正しないと、カッコいいデザインの服にはならないというのをずっと経験してきた。
どちらにせよ、ITと呼ばれる情報技術が業種や職種をボーダーレスにし、アパレルをますます軽薄短小化するのは、もはや現実として受け止めなければならないようだ。