HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ジンクスは恵みの雨になったのか。

2015-05-06 05:58:34 | Weblog
 ゴールデンウィーク終盤である。ほぼ1週間が休みになることで、日本民族大移動は分散傾向にある。とは言え、駅も空港も大混雑で、高速道路も大渋滞だ。

 いくらネットで混雑予測ができても、群集心理が働くのか。混まないと、休みじゃない気分の人たちが少なくないようだ。特に日本人は。

 筆者はいつの頃か、渋滞や混雑は避けるようになった。だから、ゴールデンウィークや年末年始のピークには全く移動しない。今年のゴールデンウィークも、事務所と自宅の往復で終わりそうだ。

 博多の街は5月3日、4日が「どんたく」である。都落ちしたローカルアナに語源を解説されるまでもなく、蘭語のゾンターク、休日の意味だ。 だが、博多の人間として言わせてもらえば、 どんたく=休日という感覚はない。

 昔から町人たちがたしなむ芸事を多くの人に披露するお祭りであり、松囃子や仁和加、三味線や長唄、舞踊など、芸どころを象徴する多彩な演目が各地の舞台で繰り広げられる。観劇するより、参加した方が楽しい催しと行った方がいいだろう。

 8月の博多祇園山笠が男性主役なら、どんたくは女性が主人公。筆者の母校、奈良屋小学校(現博多小学校)では、クラスの女子はとにかく前夜祭からテンションが上がっていた。まさに女衆にとっては、博多版リオのカーニバルってところだろうか。

 そして、ジンクスがある。雨の日が多いということだ。筆者の記憶でも、晴れより雨の方が多かったような気がする。奇しくも、今年はそのジンクス通りになってしまったが、参加する地元団体や客演された方々にとっては、そんなのは関係無しである。

 一方で、しばらく福岡を離れ、ファッション業界に身をおくと、外から見るどんたくはまた違っていた。警察発表にあるように例年200万人もの集客はあるのだから、どうしても「販促」や「実売」に結びつけていたからだ。

 商品を卸すアパレル側にとって、ゴールデンウィークの九州は、気温が一気に上がると予測できるので、夏物が動く絶好のチャンスと見る。筆者が働いていた頃は、夏物の納期を4月末にして、一気に売ってほしいというのが本音だった。

 実際に80年代前半は、どんたくシーズンはよく商品が動いていた。どんたく見物してついでに買い物もしたいと、福岡にやって来るお客さんがだいぶいたようだ。
 4月中に気温が上がると、ショップのバイヤーから電話があり、納期前倒しの催促やゴールデンウィーク開けのフォローが舞い込んでいたのだ。

 これを起爆剤にして、近畿や関東、東北にその勢いが伝播していったこともある。福岡で売りにつながると、東京でもヒットにつながったケースは少なくない。フォロー分を厚めにして関東、東北の市場を攻めることもできたのである。

 ところが、こうしたアパレルの思惑や成功体験も、時代とともにだんだん通じなくなった。90年代半ば以降、どんたくはイベント一色に姿を変え、完全に本来の参加型にシフトした。集客はあるものの、店舗の販促にはそれほどつながらなくなったのである。

 筆者の周りからも、「どんたくには行くけど、服を買おうとは思わない」という意見が多く聞かれるようになった。レジャーに行くために服を準備するのではなく、レジャーはレジャー、ショッピングはショッピングと割り切る人々が多くなったからだろうか。

 福岡市の中心部に200万人もの人出があるにも関わらず、売上げアップには中々つながらないというのが、小売りの状況なのである。

 だから、行政なんかがどんたくを「販促につなげる」なんて言い出すと、実に嘘くさく感じる。どんたくを口実に他の事業をやりたいのでは、またそうけしかけている輩がいるのではと思えてくるからだ。

 もっとも、200万人を逃す手はないのは、小売業にとっては共通認識。じっとしていてこれほど集客があるわけはないし、行き交う観光客を指をくわえて見ているのも口惜しい。

 日頃は地元のお客さんばかりなら、この際、観光客にアピールするだけでも有効だ。この時に買い物してくれなければ、セール時期まで有効な割引券なんかを渡して置き、再来店を促すのも一つの手段ではないか。

 昨年、友人がビームスで買い物したところ、セール以外のプロパー商品で使える3,000円の商品券をもらったと見せてくれた。これには友人ならずとも、筆者の方が感動した。

 どうせセールで割引するなら、プロパーシーズンに出来る限り、商品を消化する方法をとった方がいい。アパレルは自信作の商品は少し前倒しで着こなしてほしいし、バイヤーだってプロパー時期に着てもらった方が仕事のモチベーションは上がるだろう。

 だからこそ、プロパー時期にいかに売るか。どんたくなどの集客を活用するのである。

 今年のどんたくは、ジンクスが当たり、雨だった。この雨が小売業、ファッション業界にとって、恵みの雨になったかは、売上げデータを見たわけでもないので、何とも言えない。

 でも、雨が降れば、見物を足早に切り上げ、屋根がある商業施設を訪れる可能性は高い。幸い、福岡・天神は天神地下街を軸に、南北東西に地下道が広がり、全く傘をささずに商業施設を回遊できる。

 ファッションから日用品まで大概のものは手に入るから、半日くらいの時間は平気でつぶせるのだ。これは売りにつなげる絶好のチャンスと言える。

 ただ、販促策としての「雨天サービス」を事前にアピールすれば、まさにどんたくに水差すことになる。

 でも、「どんたくは生憎の雨でしたが、わざわざのご来店ありがとうございます。ご来店への感謝のしるしとして、全商品10%引きでご奉仕いたします」なんて、当日企画のPOP表示ならどうだろうか。少なくとも、後ろめたさは感じないのではないか。

 新天町商店街は、「どんたくご祝儀セール」と銘打って、4月末から各店が店頭にワゴンを出していた。ただ、お客さんは賢くなっているので、セール用にわざわざ仕入れた商品とわかれば、なかなか購入しなくなっている。

 それを知ってか、また会社の方針なのか。とあるセレクトショップだけは、プロパー販売を貫くために、もろ「セール品」とわかるものは展開していなかった。

 だったら、これだけの集客を生かして、「店を売る」仕掛けを考えてもいいのではないかと思う。どんたく目当ての観光客で潤うのは、レストランとカフェではあまりに寂しい。

 集客力のあるイベントは、商品を売るというより、遠隔地から来ていただける一見のお客さんに、コマーシャルスピリットを見せるというのも、一つの手段だと思う。

 どんたくを今日まで受け伝えて来たのが博多の商売人なら、この時期に商魂を示すのは決してはばかれることではないと思うのである。
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