HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

全天候型経営が陥る落とし穴。

2015-05-20 12:53:12 | Weblog
 一昨日、ワールドが全店舗の15%程度になる500店舗を来年3月期までに閉店し、10~15ブランドを廃止すると発表した。

 TSIホールディングスも、プラネットブルージャパンとトウキョウスタイルインプレスラインの2社を清算する他、ボディドレッシング、ジルスチュアートニューヨーク、スタイルコムなど、9ブランドを廃止し、希望退職者を募るとリリースした。

 閉店やブランド廃止の理由をワールドは、ファストファッションの台頭等による業績の低迷からという。一方、TSIホールディングスは収益重視への貢献が見込めないブランドには大ナタを振るう決断をしたようだ。

 ブランド廃止や店舗の閉店は珍しくないが、両アパレルとも日本を代表する企業だけに、ファッション業界ではかなりドラスティックなニュースとして受け取られている。

 でも、両社がなぜここまでブランドを増やしたかということである。

 筆者はアパレル時代、ブランドの開発に参画したことがあり、その先のプレスプロモーションまで手がけていた。その時、経営者や開発責任者の多くがブランドを開発するのは、「顧客の変化、嗜好の多様化に対応するため」と語っていた。
 
 お客の好みが多様化、個性化するにつれ、大量生産、大量販売は通じなくなったから、新たなブランドを開発して、きめ細かく市場を捕捉していこうという意味だ。その結果、新ブランドが次々とデビューいていくことになる。

 しかし、これまでのコメントを聞き、実際に誕生したブランドを見るたびに、「本当にそうなのだろうか」と、懸念を抱いてきた。

 プレスリリースに書かれた文言を読んだ段階では、「どんなデザイン、色、素材感なのだろうか」とワクワクするのだが、その期待に応えてくれたブランドがいくつあっただろうか。レディスはまだしも、メンズはほとんどないという印象である。

 ここからはあくまで独断と偏向に満ちた論述になるが、多ブランド政策に陥るアパレルの病巣に切り込んでみたい。

 そもそも、ワールドやサンエーインターナショナルのようなアパレルは、資本力や規模では群を抜く大企業である。企画や生産には優秀なスタッフが揃い、素資材の調達から工場の手配、販売、フォローまでに万全の態勢を敷いている。

 しかし、大企業ゆえの難点も抱えている。組織が大き過ぎて、決定に時間がかかり、スピードや機動力では必ずしも中小のアパレルに優っているとはいえない。本当にお客の顔を見据え、彼らが求める商品を提供するMDを作りあげきれているかということだ。

 ワールドはオゾックやアンタイトルで、シーズンの立ち上がりはオリジナルを投入し、その売れ行き動向に対応して商品を修正、切り替えるというQRを組み合わせて、SPAを成功へと導いた。

 店頭の情報がPOSを通じて、企画生産部門までフィードバックされるため、売れない商品は売場からカットされ、売れる商品はスピーディーにフォローされていく。結果、生産も販売も効率は、格段にアップしたのである。

 しかし、POS情報が本当にお客の嗜好や購買心理を表したものかということである。「黒がたいへん売れている」情報には、「紺を買いに行ったがなかったので、黒を買った」お客が含まれているかもしれない。

 となると、「皆が黒が好きなわけではない」という隠れた情報は、POSからは読み取れない。また、「紺がなければ、次はこのブランドは買わない」というお客の心理までは探れないということである。

 どんな小さなアパレルでも生産ロットがあるし、量産しないと収益は上がらない。ワールドやサンエーインターナショナルになると、SPA1ブランドあたりのロットもハンパではないから、他社のブランドと並んで似たような商品が市場に溢れるのである。

 「消費者の嗜好をきめ細かく捕捉する」と言いながら、生産&販売効率を追及するSPA化は、市場での同質化を招いていくという矛盾も生むのである。

 こうしたアパレルの病巣は、何も今に始まったことではない。

 1980年代のDCブランド全盛期にもあった。ビギやメルローズ、ピンクハウスで構成したビギグループの代表、大楠祐二氏は、デザイナーの菊池武夫氏の独立に際し、人間も事業も1つに賭けていると痛いめにあうと、ブランドの数をどんどん増やしている。

 経営者として、デザイナーの知名度にだけおぶさるようなビジネスは危険すぎるから、関連会社を次々と設立し、デザイナーやキャラクターのブランドをデビューさせている。

 その真意とは何か。売場の声やお客の反応を重視したMDに力を入れ、菊池武夫氏に修正させたから、ビギは売れたということだ。

 そして、ブランドを増やす中でも、その手法は変えず、展示会では得意先の情報を収集し、それを自分なりに解釈して、他ブランドのデザイナーや営業に触れて回っている。

 それはスタッフの競争心を煽る目的の一方で、結果的にどのブランドにも同じようなデザインの服が出現するように誘導する。売れ筋へ回れ右させるのだ。

 全天候型経営とでも言うのだろうか。ビギグループのケースでは、それぞれのブランド企業の規模が小さいからできると言われていた。

 確かに同じブランドばかりだとお客には飽きられる。だから、ブランドは多い方が良いという理屈にはなる。しかし、デザインやテイストが似通ってしまうと、さすがにお客も見透かしてしまう。

 結果、ビギを始め、多くのDCブランドが同質化して、お客離れを引き起こしてしまったのである。経営者が効率を追及し過ぎたことで、必ず陥る落とし穴があるということだ。

 ただ、ビギグループの場合はMDを重視しながらも、企画・デザイナー側の作りたい服、着せたい服、見せたい服と、営業サイドの売れる服とのバランスは、3対7と言われていた。つまり、3割は個性的、尖鋭的な服があったのだ。

 ところが、今はどうだろうか。ワールドやサンエーインターナショナルを見るまでもなく、市場に出回っているブランドの9割が「売れる服」ではないだろうか。正しく言えば、「売れ筋の服」が大量に並んでいるだけである。

 ブランド名は違うけど、色もデザインも素材感も似通ってしまっている。そこでの違いは、プロモーション投資などを背景としたブランド力、スタッフのセンスや話術による販売力、はたまた…。それが売上げを左右し、結果、勝つか負けるかが決まるのだ。

 敗者であるワールドやサンエーインターナショナルのブランドリストラを見る限り、その差は企業規模ではないようである。お客がSPAによる効率追及を見透し、ブランド離れを引き起こしてしまったことも一理あるだろう。

 また、デザインチームも事業部であろうと、子会社であろうと、大企業の庇護のもとで仕事ができること故の「甘え」があったのかもしれない。

 知らず知らずのうちに売れる商品を作れば良いという考えが、お客が本当に欲しがっているテイストや感性とのズレを生じさせていったのではないだろうか。

 お客は誰も着ていないテイストの服は、買う気にはなれない。一方で、誰もが着ているテイストの服に高いお金を払って買う気になるはずもない。

 だから、ブランドを仕掛けて、差別化を図るのだが、似たようなブランドが出回ると、今の時代は価格の安い方向にお客が流れる傾向はいたしかたない。まさにワールドがリストラ策の要因にあげた「ファストファッションの台頭」がそうだろう。

 つまり、ブランドは少なく過ぎても、増やし過ぎてもダメだということ。この辺はファッション業界が抱える永遠のテーマでもあるが、その答えが簡単に見つかるはずもない。それゆえ、大手アパレルのブランド再編劇が緒に就くとは思えないのである。
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