HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

市場活性のイグニションに。

2015-08-05 12:07:42 | Weblog
 7月末、ロイターが報じたニュースによると、 小売りの雄であるセブン&アイ・ホールディングスと、ファッション業界で一人勝ちが続くファーストリテイリングが「包括的な業務提携」を行うことで協議していることが明らかになった。

 セブン&アイHDがもつ情報&物流インフラ、ユニクロが誇る衣料品開発のノウハウなどを含め、いろんな分野に活用して相乗効果を高め、winwinの関係を築こうというこだろう。

 現時点では、識者や評論家の諸氏が原稿を書いていらっしゃる状態。これから両社の業務提携についての賛否など、いろんな記事が出てくると思う。

 ともに日本を代表するサクセス企業だけに、もてる力、潜在能力を発揮すれば、1+1≦3くらい可能性はあるのではないかという論調が支配的になるのかもしれない。

 このコラムでは、主にファッションを論じているので、今回の提携で双方のファッションがどうなるのか。また新しいビジネスモデルが登場するのかを中心に考えてみたい。

 セブン&アイHDはコンビニのセブンイレブン、百貨店のそごう、西武などの流通企業を傘下にもつ。ファーストリテイリングはユニクロ、セオリー、コントワーデコトニエなどのファッションブランドを抱えている。

 前出の記事にもちらほら書かれているが、包括的な業務提携で真っ先に見えてくるのは、「ユニクロの商品をセブイレブンで受け取ることができる」というサービスの拡充だ。

 「ユニクロは結構多いのだから、店に行けばいいだろう」「お直しを受け取るには近所のコンビニの方が便利」「コンビニのスペースは限られている。大量在庫は置きにくい」等々、いろんな方々がツイッターでご意見を発せられているのではないだろうか。

 どれも正論だし、当たっていると思う。すでに国民服となったユニクロだから、老弱男女を問わず、ほとんど日本人が購入していると言ってもいい。
 
 書き加えると、お金持ちも買っているかもしれない。多少の見栄から店舗を訪れるのは気が引けるし、通販で注文してもロゴ入りのボックスが宅配されるのは気恥ずかしい。とすれば、自宅から離れたコンビニで商品を受け取れるのは、人目を気にせずに済む。

 「そこまでするか」という意見もあるだろう。

 しかし、すでにビジネスモデルが行き詰まっている流通、ファッション業界である。共にトップに君臨する企業なのだから、お客の購買心理や利便性まで想定して、売上げアップ、マーケットの獲得になるなら、あらゆる可能性、販売チャンスに賭けるはずだ。

 逆にファーストリテイリング、特にユニクロのノウハウをセブン&アイが活用するということもある。これがそごうや西武のPBの開発に生かすということである。

 現状では、いくら百貨店の2社が合体したところで、開発できるPBはたかが知れている。商社丸投げのもの作りや、無名アパレルブランドにタグを張り替えるだけの域を出ないケースがあり得るからだ。

 このコラムで過去に取り上げたが、セブン&アイはパリコレのデザイナー、ジャン=ポール・ゴルチェ氏を起用したレディス向けのPB「ジャンポールゴルチェ フォーセット プルミエ」として発売すると発表した。

 しかし、ジャン=ポール・ゴルチェ氏自身はもともと奇抜なデザインだけに、どれほどPB衣料でどこまでパリコレのエッセンスや世界観を表現できるかはわからない。またそれが売上げに直結するかは、全くの未知数である。

 百貨店系アパレルの中には、ユニクロの好調さに業を煮やし、生地メーカーにユニクロと同じ生地がほしいと真顔で申し出たところがあるという話もある。ロットが違うのだから実現するはずはないのだが、そこまで切羽詰まった状況なのである。

 ということは、考え方を変えて、そごうや西武がユニクロの生産ラインを一部押さえて、PBを開発できないかと考えるとすれば、こちらの方が現実的なのかもしれない。

 単純にタグだけ変えるだけでは無意味だろうから、スニーカーのようなデザイン別注のような仕掛けは必要になるだろうが。

 現在、百貨店のファッション衣料は危機的状況にある。ブランド、価格、クオリティのどれを取っても仕入れ中心では、ユニクロのようなグローバルSPAとは勝負にならない。

 すでにあるものを持ってきただけでは、硬直した百貨店の衣料マーケットを活性化させることは難しい。

 西武百貨店は8月にA館3、5階の婦人服、B館5階の紳士服を改装し、20年以降に予定する渋谷再開発に向け、アートとデザインを先鋭化させたファッション発信拠点として刷新するという。

 自主編集売場を核にキャリア向け渋谷発のコンテンポラリースタイルを前面に押し出す。買い取りを中心にした海外買い付けを増やし、東京の「アンリアレイジ」、ニューヨークの「パブリックスクール」「フード・バイ・エアー」などを導入するようだ。

 ただ、西武は過去に何度もブランドの入れ替えを行ってきているが、その中で爆発的なヒット商品を輩出したとは言い難い。今回も期待は持てるが、それがどこまで市場を開拓できるかはわからない。

 服全体に消費意欲が落ちている中で、一定の売上げを取っていくのは容易ではないのだ。だから、ブランドとブランドの間にある市場を開拓することが必要で、それにはユニクロがもつ強みを味方に付け、小刻みにチャンスを狙うことも重要だろう。

 あるいはウルトラCの施策として、ユニクロの商品生産ノウハウ、そごう・西武のブランドと百貨店インフラ、そして世界的なデザイナーとの協業により、全く新しいブランドの開発も全く実現不可能ではないかもしれない。

 さらにオムニチャンネルを加えて、そごうや西武がない地域でも購入できるようにする。加えて試着は近くのユニクロでできるようにすれば、お客にとっても目的を持ってユニクロに行くわけだから、気恥ずかしいことはない。

 要は、硬直したファッションマーケットに両社がもつポテンシャルを生かして立ち向かうことで、何か「イグニション」になるのではないかということである。

 個人的には、ファブリックを主体とした日用品として、セブンイレブンにユニクロの商品を置いてもいいのではないかと思う。

 目下、セブンイレブンは「セブンライフスタイル」と銘打って、タオルやスリッパなどの低価格PBを投入している。これは無印良品を置いているファミマを意識したような商品だが、カラリングがイトーヨーカドー的なので競争力があるとは思えない。

 逆にユニクロのライフスタイルグッズの方が色もビビッドできれいだし、品質についても実証済みである。こちらの方がコンビニのメーン顧客である若者にも受けはいいのではないだろうか。

 さらに下着や靴下もNBとPBが置いてあるが、これもお客からするとコンビニにおいてどういう目的で購入するかである。とりあえず必要だから、量販店クオリティでもいいと考えるのか。買う以上はある程度のクオリティを求めるのか。

 これもユニクロの方が価格と価値のバランスでは、イトーヨーカドーのPBよりも上をいくのではないかと思う。

 また出張のサラリーマンが替えの下着や靴下を忘れた時、NBだからといってコンビニで1点千数百円のブリーフや1足1000円以上する靴下を買うだろうか。購入には二の足を踏んでいるのではないかということだ。

 だったら、ユニクロが扱っているような1足300円程度の靴下の方がはるかに手が出やすいと思う。売場のスペースに限りがあるわけなので、 白、黒や紺といったベーシックな色に絞ればいいわけだ。

 下着にも同じ事が言えると思う。BVDやグンゼは最低でもスーパーでのまとめ買いなどが主流のはずだし、そうした販路の方が売りやすいし、売れやすいと思う。

 オムニチャンネルを使えば、ユニクロのクオリティの高い下着や靴下はネットで注文してセブンイレブンで受け取れる方が需要が高まるかもしれない。売場ならどうしても人目を気にしてしまうからだ。

 すでに商品企画、ものづくりでは、新しい価値を提供するのは容易ではない。だからこそ、持てるノウハウやインフラをいかに活用して新たなビジネスを仕掛けていくか。これがセブン&アイHDとファーストリテイリングの業務提携の肝だと思う。

 まあ、資本提携までに踏み込むことになれば、今度は銀行が別の意味で画策することになるだろうが。

 自社の商品やビジネスモデルだけで、立ち居か無くなった多くの企業が両巨塔に提携を持ちかけることは、これからもしばらく続きそうである。
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