HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

過大な期待は禁物。

2015-12-19 14:17:09 | Weblog
 The FLAGイシュー、前回に続いて下半期のニュースも振り返ってみたい。

 いちばんというか、この2つ以外はあまり浮かばないという印象だ。一つ目はユニクロが発表した「週休3日制の導入」である。

 内容は1日の労働時間が現状の8時間から10時間に変更されるが、給料は据え置きで、休みは土・日曜日、祝日以外で取得するというもの。まずは地域限定社員のみを対象とし、様子を見てその他の職種にも広げていくという。

 制度の背景には、ユニクロの店舗が次々と大型化していることがある。商品展開する棚や什器はそのままストックも兼ねるため、売場スタッフは乱れた商品を畳んだり、ハンギングしたりと、閉店後の作業は膨大な量になっている。

 ユニクロ側はなるべく残業させないように指導しているようだが、店内が片付かなければ翌日の開店は迎えられない。当然、店長職までのサービズ残業が増えていくことになる。

 そのため、幹部候補で入社したものでさえ、3年以内に3割が退職する状況だ。ユニクロ側としては、何とかブラック企業の汚名挽回と行きたいから、少しでも働き易さを強調したのではないか。

 週刊文春が告発した「過酷な労働環境」についても、ユニクロ側は高額な損害賠償訴訟に踏み切ることで封じ込めようとした。ところが、司法は「国内店舗は繁忙期のサービス残業を含む月300時間超の労働は真実」と認めた。

 この司法判断は、ユニクロにとっては非常に旗色が悪いものとなったのは言うまでもない。そこで、柳井会長兼社長とすれば、それを少しでも払拭するために週休3日制を打ち出したように思えてならない。

 人事部でも各店舗にヒアリングし、「約2割が週休3日制を希望」「大学院通学や趣味にあてる」など、多様な時間の使い方を想定しているという。広報も「魅力が高まり、入社してくれる人が増えればいい」とコメントしている。

 ただ、実際はどうなのだろうか。趣味はともかくとして、地域限定社員で大学に通うほどの人間がどれくらいいるのか。事例だから無きにしもあらずだろうが、理由があまりに極端すぎる。

 地域限定社員の顔を立てているのか、それとも一流企業然としたプライドがそうさせるのか。どちらにしても、週休3日になったところで、労働時間は変わりないのだから単なる組み替えに過ぎない。

 さらに穿った見方をすれば、問題になったサービス残業を名目上減らすには、通常の勤務時間帯を増やせばいいということだ。つまり、これまで8時間勤務で、残業が4時間だったものが、10時間勤務で2時間になるだけである。

 ユニクロの店舗は品出しや商品補充にかかるコストをできるだけ削減するために、棚や什器には在庫をフルに並べている。当然、お客が手に取ったあとは乱れてしまう。それをマニュアル通りに整理するには閉店後の作業は膨大になるだろう。 

 管理職はそれ以外にも営業関連の事務処理などの仕事があるわけだ。だから、売場づくりをはじめ、商品展開などのストアオペレーションを根本的に変えない限り、ユニクロでの残業時間は改善されないのではないかと思う。

 まして、週休3日制導入の理由とした「働き方の多様性」とは、一面でしかない。若者が働く価値観は、「自分のやりたい仕事」「仕事より自分の生活を大事に」」「定時で勤務を終えたい」など、さらに広がっているからだ。

 休みが3日なるからといって1日当たりに働く時間が増えること。さらに土日が休みでなくなることが大量採用に決め手になるとはとても思えないのである。

 売場で店長から「10時間勤務は給料分の仕事だから、やれ」と言われかねず、返って離職者を増やすのではないかとの懸念すらある。

 もう一つは、バーバリーとの契約を終了を受けた三陽商会が新たなメーン商材として、「マッキントッシュ・ロンドン」を発売したニュースである。

  マッキントッシュは、もともとアパレル専門商社の八木通商が開拓した英国のコートブランド。三陽商会よりもはるか以前から、中小のセレクトショップが「インポート」を先行して販売して来たという経緯がある。

 1800年代にデザインされたゴム引きのコートは、その撥水性と上質な作りに見られる本物志向が受け、1着20万円近くするにも関わらず、一定の顧客をつかんでいた。

 2007年には、八木通商がマッキントッシュのブランド自体を買収しているので、バーバリーのような契約終了のリスクはない。

 しかし、三陽商会が生産するマッキントッシュは、 高級ラインの「ロンドン」も普及版の「フィロソフィー」もライセンスだ。フォロソフィーはコートで7万円台、ジャケットで3万円台、ロンドンはコートで12~14万円と、本家インポートよりは低額である。

 フィロソフィーはネット通販があるものの、ロンドンはこれまでバーバリーを展開していた百貨店240~260店の代替展開であるため、ブランドとしてバーバリーの受け皿にならない限り、売上げがつくことはありえない。

 そもそも中小のセレクトショップがマッキントッシュの顧客を開拓できたのは、インポートが持つもの作りの良さや質の高さはもちろん、品揃えの中で商品を際立たせ、他ブランドのセーターやパンツ、ブーツなどとコーディネート販売したからである。

 セレクトショップが得意とする編集の妙があったから、売れたということである。

 これに対し、ロンドンは百貨店の売場でコートメーンのブランド単体を販売するだけで、ターゲットも市場も異なり、専門店の顧客を奪うとまでは行かないと思われる。

 言い換えれば、三陽商会側としても客層が違うので、競合がないと踏んだのだろう。しかし、バーバリーの客層はすでに高齢化し、リタイア組みも少なくない。ロンドンがすんなりバーバリーの売上げをキープするとは考えにくい。

 セレクトショップでマッキントッシュの良さに触れてきた客層は、まだまだ高くても40代後半。それゆえ、セレクトショップの感性で磨かれてきたが層がライセンス、しかも百貨店の売場に移行するとは思えないのである。

 八木通商のマッキントッシュ事業部も、それを十分認識した上で、ブランド戦略を構築している。

 既存のインポートを格上げしてラグジュアリー化し、プレステージラインにロンドン、セカンドラインにフィロソフィーという組み立てだ。

 ただ、プレステージと言っても、ロンドンは中価格帯に位置づけられ、セカンドラインのフィロソフィーは普及版と言った方がしっくりくる。

 ラグジュアリーブランドを見ると、最高級からボリュームまでのグレード別に展開するマルチブランド戦略を取るところが少なくない。
 
 しかし、今のマーケットを冷静に見ると、一部の富裕層と大多数の貧困層に大別される傾向にあり、中価格帯のブランドは売上げ的に厳しい局面にある。

 平たく言えば、H&Mがカールラガーフェルドやマルニと、ユニクロがジル・サンダーやクリストフ・ルメールとコラボすれば、お客が殺到して即完売の商品が出る。

 つまり、ラグジュアリーには手がでないが、ボリュームなら買える。結果、百貨店の中価格帯ブランドは閑古鳥が鳴いているに近い状況となる。悲しいかな、それがブランドマーケットの現実なのである。

 そうなると、百貨店に展開するロンドンがどこまでバーバリーの受け皿になれるか。何店舗か売場を巡ってみたが、初老のバーバリーファンが販売員に説明を聞いている風景に出くわすも、特別に売れている感じはなかった。

 今年下半期のニュースからは、過大な期待は禁物という印象を受けた。
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