さる11月25日、ユニクロなどを運営するファーストリテイリングは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との間で、グローバルパートナーシップを強化するための合意書を締結した。
今後はさらに「3年間で総額1,000万ドル(約12億円)の支援を実施」「国内外のユニクロ店舗で難民雇用を100名に拡大」「バルカン半島諸国、アフガニスタンに越冬支援として、ヒートテック15万点の寄贈」も行うそうだ。
これは受けて、柳井正会長兼社長がSankeiBizのインタビュー( http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151125-00000013-fsi-bus_all )で、移民の受入れについて語ったコメントがすごく気になった。以下がそれだ。
Q:人口減少問題も企業経営に影響する
柳井:人口減少は非常に深刻な問題だ。このまま放っておくと、日本は労働人口が不足する社会になる。人口が減って栄えた国はない。
Q:日本は何をすべきか
柳井:すぐに受け入れるかどうかは別にして、移民や難民を受け入れる必要性や、受け入れるには何が必要なのかという議論、準備を国レベルで始めなくてはならない。(中略)観光客が来てくれるのは歓迎だが移民や難民は受け入れたくないというのは通用しないし、日本は受け入れないと国そのものが滅んでしまうことになる。
毎回、その言動が物議を醸す柳井社長だが、ネット民もさほど食いつくまでもなく、今回は軽く受け流したようである。
移民問題については中立であるべきマスメディアも、「受け入れは慎重であるべき」との論調と同時に、人口減少による将来の労働力不足を想定した上で、「有能な移民外国人はビジネスでも戦力になる」的な報道を行っている。
難民と有能な移民は数の上では決してイコールではないのだが、メディアが報道するといかにも正論のように多くの国民が誘導され、錯覚に陥ってしまうのは非常に危険である。
それでなくても、シリア難民については、ドイツ行きの列車を待つ悲しそうな表情の子供たち、越境がかなわず砂浜に流れ着いた死体などの映像が、インターネットを通じて瞬時に世界中を駆け巡る。
それを見た多くの人々が「かわいそう」「何とかしてあげたい」と思うのは、当然だ。しかし、情緒論に流されてそれが政治の道具に利用されることを忘れると、パリの同時多発テロのような二次的な被害を生んでしまうことも考えておかなければならない。
柳井社長は「移民や難民の受け入れ議論、準備を国レベルで始めなくてはならない」という。しかし、自国民に対する限りないリスクをはらんでいることを抜きに、「受入れありき」の議論は成り立たない。
さらに言うなら、ブラック企業の汚名を着せられ、社員募集に苦しむ企業経営者にとって世界戦略を進める上で、労働力の確保、人件費コストの削減といった課題が頭をもたげているとさえ思えてくる。それではあまりに自己都合だ。
日本人の生命、財産を守るべき国家として、自社の利益最優先しか考えない一企業の言動を、容易く受け入れられるはずもないのである。
柳井社長の「受け入れないと国そのものが滅ぶ」の発言には、筆者周辺の業界関係者からも異論や懐疑的との声が上がっている。
「教育を受けた日本人でさえ離職率が高い職場で、難民を雇用し維持できるんですかね」
「難民を格安で雇いたいだけ」
「難民や移民の受け入れを議論する際に欠落している事。それは定住させるためのコスト。その後に発生する教育や治安に懸かるコスト。様々な国内対策費をどれだけ見積もっての話か。何処の誰が幾ら負担するのか」
「対極で利益を得るのは何処の誰か。そのヒト達はどれだけの納税を果たす考えを持つのか」
(移民受け入れという)「事前の事は議論にも上がるが、(受け入れ)事後に生じる様々な事について、現状では、想定できないと逃げ続けてきたじゃないか。その結果、在日韓国朝鮮人問題を引き起こした根源だろうが」
等々である。
今後の社会構造と一企業の労働力問題を決して同じ土壌で議論してはならないのである。なおさら日本は法治国家だ。これには労働という社会問題よりも先に国際私法である国籍法が関わってしかるべきだ。
国際私法は国内法である。当然、UNHCRとの取決めである国際法より優先される。在日外国人の定住問題ですら法律の抜け道があるのだから、国籍法より労働問題が先に来るのは筋が通らない。
このコラムは、ファッション業界の問題について取り上げているので、政治論や社会問題についてこれ以上深入りすることは避けたい。
むしろ、「日本人の若者がファッション業界に進まなくなった」と言われる中で、労働力の確保として移民を活用できるのかの方向で考えたい。それには販売スタッフという小売りと縫製スタッフというアパレル工場の両面がある。
小売りでは、ユニクロよるはるか前からグローバル展開を行っているGAPの例がある。
GAPのグローバル戦略を象徴することとしてあげられるのが、「ジーンズの3レングス」展開である。最近では見かけなくなったが、90年代はこれが当たり前だった。
一つの理由は、お直しをする手間を省くこと。もう一つは、外国人がミシンがけの訓練を行っても、みなが一律にマスターできるわけではないからである。ならば、最初から丈上げはしない方がいいと考えたのである。
グローバルスタンダードには、売場での作業を平準化することも含まれる。つまり、教育を行ってもスキルにバラツキがあるのなら、当然そのコストはムダになる。だから、経営者は最初から違う方法に投資することを選択するのだ。
ユニクロも当初はGAPの商品展開をサル真似していたので、ジーンズも3レングスを採用していた時期があった。ところが、あるときから1サイズに変えている。
理由はまず外国人ほど脚が長いお客はいないからだ。それに3サイズ展開すると、1サイズ展開より生産効率が落ちる。効率が良くないのに販売効率がさほど上がらなければ、経営者は1サイズで十分と考える。
まあ、日本人はそこそこ学習能力は高いし、丈上げくらいのミシンがけは研修すれば、ほとんどのスタッフがマスターできる。ならば、1サイズでお直しすれば言い訳である。
他にもGAPが商品展開で畳みをできる限り少なくし、ハンギング中心にしているのも、省力化と同時に人種、民族による作業レベルの差異を売場からなくそうということだ。
GAPでは世界中の人々を雇用する上では、きめ細かな売場作業はさせないことを前提にオペレーションを組んでいるということである。
接客の面でもなおさらだろう。日本のGAPでは、英語のあいさつを無理矢理日本語に直している。だから、日本人のお客にとっては聞き慣れないし、こそばゆい感じがする。
でも、販売員がお客に積極的にアプローチしないのは同じだ。これらがグローバルスタンダードなのである。
ところが、日本ではほとんどのショップが永年の慣習や文化から、お客をそのまま放っておくことを良しとしない。中には売上げを取らんがために積極的なアプローチを奨励する小売り店さえある。それはそれで日本の良さでもある。
ただ、最近では長らく続いてきたその辺のノルマ的な手法がスタッフの離職や人出不足を招いていると悩む企業もあり、考えや方法を変えるケースも生まれている。その結果、売上げが付いているかと言えば、決してそんなことはない。
どちらにしても、移民という外国人を採用する上では、日本企業の販売方法や接客スタイルが通用しないという前提で考えていかなければならないだろう。果たしてそれでアパレル企業の経営が維持できるかである。
アパレル工場では、なおさら技術問題が関わってくる。縫製では売場サイドの丈上げとは比較にならない細かな作業が要求される。日本人はもちろんだが、外国人であっても不器用であれば、端から採用しないと考えるのではないのか。
イギリスやフランス、イタリアのように縫製ノウハウの確立と、クラフトワーク、職人技を守り続ける次元とは別に、量産に耐えうる最適化技術を導入するには、やはりコストの安い国々の労働者に任せざるを得ない。
筆者がかつて90年代半ばパリで購入した「Loft Design by」のシャツは、原産国がアフリカの南東、インド洋に浮かぶ「モーリシャス」だった。
つまり、ヨーロッパのアパレルは高い技術をもつイメージがあるが、コスト面からアフリカや東欧の工場や外国人労働者の利用ははるか前から行ってきたのである。
ただ、最近はユーロ圏のアパレルでも工場はパキスタン、インド、ベトナムなどのアジアシフトが進んでいる。 もちろん、日本のアパレルが中国、ミャンマー、バングラディッシュなどで生産する理由も、言わずもがなである。
米国内のアパレル工場でも、働いているスタッフはアジア系が少なくない。
アジアシフトの最大の理由は、アジア人特有の手先の器用さもさることながら、勤勉さがアパレル関係者にとっては生産効率を上げる好都合だからではないのだろう。
縫製レベルでアジアの人々が最優良であることを考えると、今後、日本のアパレルが移民を受け入れて、教育し一人前に育てることを選択するとは思えない。それは円安が続いても変わらないだろう。
ただ、アジア系と言ってもすべての人々がアパレルに向くかと言えば、それも違う。名指しで申し訳ないが、難民で移民したいというシリアの子供たちがどれほど日本の小売りやアパレルの最前線で戦力になりうるのか。筆者は懐疑的である。
ユニクロのようなセルフサービスならともかく、日本流のホスピタリティを前面に出して差別化していくのなら、なおさら外国人の労働力は限られてくると思う。英語が喋れるという程度の次元で語るのは、接客の本質をわかっていない人間である。
また、仕様書に添った縫製というルーチンワークを1日、1ヵ月、1年と繰り返し続けることに対し、シリアやアフリアの移民たちがどこまで対応できるのかである。
いくらイランの女の子に一生かけてペルシャ絨毯を作り上げるほどの真摯さがあると言っても、同じ中東のシリア人の子供たちの能力や性格を一緒にすることはできない。
中東でもいろんな民族がいる。イランはペルシャ系、シリアはアラビア系。同じハム系のユダヤ人とパレスチナ人でも宗教が違うだけで、諍いが絶えないくらいだ。
人間の技術や能力、性格はそのまま国情を反映する。だから、その辺を冷静に分析していかなければならない。いくら労働力不足になるからと、一律に移民を採用にしていく考えはあまりに短絡的である。
GAPのケースを見ても、グローバルスタンダードの中でショップマネジメントやオペレーションを平準化するのは、人種や民族、それぞれの性格、器用さなどが関わる。それらとコストとを両天秤にかけなくてはならないのだから、簡単にはいかないのだ。
筆者は人種のるつぼニューヨークで、外国人労働者がかなり雇用されているのを見てきたが、日本人の感覚では閉口した対応を受けたことが少なくない。
いくら日本が労働力不足に陥ると言っても、ユニクロお得意のシステムで、簡単に移民を日本の商慣習やマーケットにあった戦力できるとは思えないのである。
2年ほど前、ファーストリテイリングは世界同一賃金を打ち出した。しかし、これには「仕事で付加価値がつけられなければ、途上国の賃金水準まで賃金を引き下げる」という裏の側面もあった。
つまり、柳井社長には日本の法整備や労働事情をクリアすることを布石に、海外店舗では安い賃金で移民をこき使おうとの商魂がないわけでもないだろう。UNHCRとのパートナーシップはそうした露払い、政府の外堀を埋める狙いがあるような気がしてならない。
今後はさらに「3年間で総額1,000万ドル(約12億円)の支援を実施」「国内外のユニクロ店舗で難民雇用を100名に拡大」「バルカン半島諸国、アフガニスタンに越冬支援として、ヒートテック15万点の寄贈」も行うそうだ。
これは受けて、柳井正会長兼社長がSankeiBizのインタビュー( http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151125-00000013-fsi-bus_all )で、移民の受入れについて語ったコメントがすごく気になった。以下がそれだ。
Q:人口減少問題も企業経営に影響する
柳井:人口減少は非常に深刻な問題だ。このまま放っておくと、日本は労働人口が不足する社会になる。人口が減って栄えた国はない。
Q:日本は何をすべきか
柳井:すぐに受け入れるかどうかは別にして、移民や難民を受け入れる必要性や、受け入れるには何が必要なのかという議論、準備を国レベルで始めなくてはならない。(中略)観光客が来てくれるのは歓迎だが移民や難民は受け入れたくないというのは通用しないし、日本は受け入れないと国そのものが滅んでしまうことになる。
毎回、その言動が物議を醸す柳井社長だが、ネット民もさほど食いつくまでもなく、今回は軽く受け流したようである。
移民問題については中立であるべきマスメディアも、「受け入れは慎重であるべき」との論調と同時に、人口減少による将来の労働力不足を想定した上で、「有能な移民外国人はビジネスでも戦力になる」的な報道を行っている。
難民と有能な移民は数の上では決してイコールではないのだが、メディアが報道するといかにも正論のように多くの国民が誘導され、錯覚に陥ってしまうのは非常に危険である。
それでなくても、シリア難民については、ドイツ行きの列車を待つ悲しそうな表情の子供たち、越境がかなわず砂浜に流れ着いた死体などの映像が、インターネットを通じて瞬時に世界中を駆け巡る。
それを見た多くの人々が「かわいそう」「何とかしてあげたい」と思うのは、当然だ。しかし、情緒論に流されてそれが政治の道具に利用されることを忘れると、パリの同時多発テロのような二次的な被害を生んでしまうことも考えておかなければならない。
柳井社長は「移民や難民の受け入れ議論、準備を国レベルで始めなくてはならない」という。しかし、自国民に対する限りないリスクをはらんでいることを抜きに、「受入れありき」の議論は成り立たない。
さらに言うなら、ブラック企業の汚名を着せられ、社員募集に苦しむ企業経営者にとって世界戦略を進める上で、労働力の確保、人件費コストの削減といった課題が頭をもたげているとさえ思えてくる。それではあまりに自己都合だ。
日本人の生命、財産を守るべき国家として、自社の利益最優先しか考えない一企業の言動を、容易く受け入れられるはずもないのである。
柳井社長の「受け入れないと国そのものが滅ぶ」の発言には、筆者周辺の業界関係者からも異論や懐疑的との声が上がっている。
「教育を受けた日本人でさえ離職率が高い職場で、難民を雇用し維持できるんですかね」
「難民を格安で雇いたいだけ」
「難民や移民の受け入れを議論する際に欠落している事。それは定住させるためのコスト。その後に発生する教育や治安に懸かるコスト。様々な国内対策費をどれだけ見積もっての話か。何処の誰が幾ら負担するのか」
「対極で利益を得るのは何処の誰か。そのヒト達はどれだけの納税を果たす考えを持つのか」
(移民受け入れという)「事前の事は議論にも上がるが、(受け入れ)事後に生じる様々な事について、現状では、想定できないと逃げ続けてきたじゃないか。その結果、在日韓国朝鮮人問題を引き起こした根源だろうが」
等々である。
今後の社会構造と一企業の労働力問題を決して同じ土壌で議論してはならないのである。なおさら日本は法治国家だ。これには労働という社会問題よりも先に国際私法である国籍法が関わってしかるべきだ。
国際私法は国内法である。当然、UNHCRとの取決めである国際法より優先される。在日外国人の定住問題ですら法律の抜け道があるのだから、国籍法より労働問題が先に来るのは筋が通らない。
このコラムは、ファッション業界の問題について取り上げているので、政治論や社会問題についてこれ以上深入りすることは避けたい。
むしろ、「日本人の若者がファッション業界に進まなくなった」と言われる中で、労働力の確保として移民を活用できるのかの方向で考えたい。それには販売スタッフという小売りと縫製スタッフというアパレル工場の両面がある。
小売りでは、ユニクロよるはるか前からグローバル展開を行っているGAPの例がある。
GAPのグローバル戦略を象徴することとしてあげられるのが、「ジーンズの3レングス」展開である。最近では見かけなくなったが、90年代はこれが当たり前だった。
一つの理由は、お直しをする手間を省くこと。もう一つは、外国人がミシンがけの訓練を行っても、みなが一律にマスターできるわけではないからである。ならば、最初から丈上げはしない方がいいと考えたのである。
グローバルスタンダードには、売場での作業を平準化することも含まれる。つまり、教育を行ってもスキルにバラツキがあるのなら、当然そのコストはムダになる。だから、経営者は最初から違う方法に投資することを選択するのだ。
ユニクロも当初はGAPの商品展開をサル真似していたので、ジーンズも3レングスを採用していた時期があった。ところが、あるときから1サイズに変えている。
理由はまず外国人ほど脚が長いお客はいないからだ。それに3サイズ展開すると、1サイズ展開より生産効率が落ちる。効率が良くないのに販売効率がさほど上がらなければ、経営者は1サイズで十分と考える。
まあ、日本人はそこそこ学習能力は高いし、丈上げくらいのミシンがけは研修すれば、ほとんどのスタッフがマスターできる。ならば、1サイズでお直しすれば言い訳である。
他にもGAPが商品展開で畳みをできる限り少なくし、ハンギング中心にしているのも、省力化と同時に人種、民族による作業レベルの差異を売場からなくそうということだ。
GAPでは世界中の人々を雇用する上では、きめ細かな売場作業はさせないことを前提にオペレーションを組んでいるということである。
接客の面でもなおさらだろう。日本のGAPでは、英語のあいさつを無理矢理日本語に直している。だから、日本人のお客にとっては聞き慣れないし、こそばゆい感じがする。
でも、販売員がお客に積極的にアプローチしないのは同じだ。これらがグローバルスタンダードなのである。
ところが、日本ではほとんどのショップが永年の慣習や文化から、お客をそのまま放っておくことを良しとしない。中には売上げを取らんがために積極的なアプローチを奨励する小売り店さえある。それはそれで日本の良さでもある。
ただ、最近では長らく続いてきたその辺のノルマ的な手法がスタッフの離職や人出不足を招いていると悩む企業もあり、考えや方法を変えるケースも生まれている。その結果、売上げが付いているかと言えば、決してそんなことはない。
どちらにしても、移民という外国人を採用する上では、日本企業の販売方法や接客スタイルが通用しないという前提で考えていかなければならないだろう。果たしてそれでアパレル企業の経営が維持できるかである。
アパレル工場では、なおさら技術問題が関わってくる。縫製では売場サイドの丈上げとは比較にならない細かな作業が要求される。日本人はもちろんだが、外国人であっても不器用であれば、端から採用しないと考えるのではないのか。
イギリスやフランス、イタリアのように縫製ノウハウの確立と、クラフトワーク、職人技を守り続ける次元とは別に、量産に耐えうる最適化技術を導入するには、やはりコストの安い国々の労働者に任せざるを得ない。
筆者がかつて90年代半ばパリで購入した「Loft Design by」のシャツは、原産国がアフリカの南東、インド洋に浮かぶ「モーリシャス」だった。
つまり、ヨーロッパのアパレルは高い技術をもつイメージがあるが、コスト面からアフリカや東欧の工場や外国人労働者の利用ははるか前から行ってきたのである。
ただ、最近はユーロ圏のアパレルでも工場はパキスタン、インド、ベトナムなどのアジアシフトが進んでいる。 もちろん、日本のアパレルが中国、ミャンマー、バングラディッシュなどで生産する理由も、言わずもがなである。
米国内のアパレル工場でも、働いているスタッフはアジア系が少なくない。
アジアシフトの最大の理由は、アジア人特有の手先の器用さもさることながら、勤勉さがアパレル関係者にとっては生産効率を上げる好都合だからではないのだろう。
縫製レベルでアジアの人々が最優良であることを考えると、今後、日本のアパレルが移民を受け入れて、教育し一人前に育てることを選択するとは思えない。それは円安が続いても変わらないだろう。
ただ、アジア系と言ってもすべての人々がアパレルに向くかと言えば、それも違う。名指しで申し訳ないが、難民で移民したいというシリアの子供たちがどれほど日本の小売りやアパレルの最前線で戦力になりうるのか。筆者は懐疑的である。
ユニクロのようなセルフサービスならともかく、日本流のホスピタリティを前面に出して差別化していくのなら、なおさら外国人の労働力は限られてくると思う。英語が喋れるという程度の次元で語るのは、接客の本質をわかっていない人間である。
また、仕様書に添った縫製というルーチンワークを1日、1ヵ月、1年と繰り返し続けることに対し、シリアやアフリアの移民たちがどこまで対応できるのかである。
いくらイランの女の子に一生かけてペルシャ絨毯を作り上げるほどの真摯さがあると言っても、同じ中東のシリア人の子供たちの能力や性格を一緒にすることはできない。
中東でもいろんな民族がいる。イランはペルシャ系、シリアはアラビア系。同じハム系のユダヤ人とパレスチナ人でも宗教が違うだけで、諍いが絶えないくらいだ。
人間の技術や能力、性格はそのまま国情を反映する。だから、その辺を冷静に分析していかなければならない。いくら労働力不足になるからと、一律に移民を採用にしていく考えはあまりに短絡的である。
GAPのケースを見ても、グローバルスタンダードの中でショップマネジメントやオペレーションを平準化するのは、人種や民族、それぞれの性格、器用さなどが関わる。それらとコストとを両天秤にかけなくてはならないのだから、簡単にはいかないのだ。
筆者は人種のるつぼニューヨークで、外国人労働者がかなり雇用されているのを見てきたが、日本人の感覚では閉口した対応を受けたことが少なくない。
いくら日本が労働力不足に陥ると言っても、ユニクロお得意のシステムで、簡単に移民を日本の商慣習やマーケットにあった戦力できるとは思えないのである。
2年ほど前、ファーストリテイリングは世界同一賃金を打ち出した。しかし、これには「仕事で付加価値がつけられなければ、途上国の賃金水準まで賃金を引き下げる」という裏の側面もあった。
つまり、柳井社長には日本の法整備や労働事情をクリアすることを布石に、海外店舗では安い賃金で移民をこき使おうとの商魂がないわけでもないだろう。UNHCRとのパートナーシップはそうした露払い、政府の外堀を埋める狙いがあるような気がしてならない。