HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

思惑通りに市場は動かない。

2015-12-05 12:58:14 | Weblog
 The FLAGイシュー(http://theflag.jp/blog/16)、今回のテーマは、 「ファクトリーブランドは国産比率を高めることができる?」について。

 ファクトリーブランドとはイシュー曰く、「下請け工場が独自に立ち上げたブランドのこと」を指すのだそうだ。

 「工場が直接、企画、デザイン、製造までを行うことによって、デザイン料やブランド料等がカットされ、我々に品質の良いものがこれまでより安価に提供できるようになる」と、メリットもあげている。

 しかし、どうだろうか。工場が直接、企画、デザイン、製造まで行うだけなら、それは単なる「プロダクト」に過ぎないのではないか。そもそも、ブランドと言うからには、ある程度の知名度があることが前提になる。

 確かにファクトリー発なのだからメジャーブランドに比べると、ブランド化に不可欠とされる広告宣伝費は省けるのかもしれない。

 いや、資金力の面からかけられないと言った方が正確だろう。果たしてそれを抜きにしてブランド足り得えるのか、である。まあ、ブランド化するための施策が先か、すでにブランドありきのビジネスかを議論しても始まらない。

 きちんとネーミングされ、ロゴマークがあって、タグが付けられているものなら、ブランドと言えなくもないだろうから、厳密な定義云々はこの辺にしておこう。

 もっとも、ブランド足るにはネームバリュ以前に商品のそのものの素材や縫製のレベルがカギになる。これについては海外生産が劣っていて、日本製が優れているという単純な論理には根拠を欠く。

 ファクトリー側が言う、日本には「素晴らしい技術をもつ工場がある」というのは、何と比較してそう言っているのか。

 海外、とくに中華系資本によるアジア生産も、技術レベルは日進月歩で向上し、日本を凌ぐところはいくらも登場している。だから、相対比較に過ぎないのである。

 メディアは日本の職人技が「海外」で評価されていると騒ぐが、セレクトショップといった個店レベルの判断や一アパレル担当者のコメントでは、数字的割合で国産比率が増えるとまではいかないだろう。

 マーケティングの問題もある。どんなお客をターゲットに想定し、そのお客にどのような商品を提案し、お客が欲しくなるような市場を作りあげなければ、ファッションビジネスは成り立たない。

 日本製のファクトリーブランドがこれを世界標準としてできるか、である。でなければ、商品は流通しない。

 一般にアパレルメーカーでは企画担当者はブランドに対して、前年の実績をもとに仮説を立てる。そこからデザイナーやパタンナーを使いこなし、その表現を商品に落とし込むために仕様や価格政策を精査し、量産に乗せる工場を選定していく。

 そして、時にはインダストリアルスペックを見直し何度も作り直す。でなければ、企画担当者が思い描く商品が仕上がらないからである。当然、その先にはそれをしないと納得しないバイヤーやお客がいるからだ。

 簡単にファクトリーブランドの国内生産というが、マーケティングやマーチャンダイジング、それが生まれるプライスラインを抜きに、国産だから売れるということはあり得ない。

 国産の素晴らしい技術というが、何をもってそれなのかを問いたださないとならないし、技術のみではビジネスが立ち行かないのがアパレルなのである。

 一方、小売りではバイヤーは、基本的にショップのコンセプトに沿って商品政策、いわゆるシーズンMDを組んでいく。昨今、MD構築のために必要ならば、ワールドワイドの商品開拓も辞さない。

 専門店として特徴ある商品を打ち出す時、素資材や色出し、感性の面で国内生産が海外より優ることはなかなかないからだ。

 パリやロンドンのトランクショーでは、新進のファクトリーが次々と商品を発表して行く。だから、バイヤーは思い描くMDに見合う商品が一般の展示会では見つからなければ、こうした展示会を積極的に活用する。

 さらに有名ブランドを手掛けるスペインやイタリアの工場に別注をかけることも珍しくない。最近では大手のセレクトショップがSPA化してしまったので、中小の専門店ほどこうした新しい仕入れ方法を選択するようになっている。

 もちろん、国内のメーカーでも別注に対応してくれれば厭わずであるが、現状ではそうしたケースはそれほど多くはない。それ以上にお客は「価格」にシビアだ。商品価値に相対して、納得いくバランスでないと財布の紐は緩まない。

 メーカー主導のプロダクトアウトが市場変化のスピードに合わなくなり、小売り主導のマーケットイン発想、QRなどのシステムで、ファッションビジネスは市場が求めるものを投入する方向に変化した。

 ところが、今度はどこを切っても同じ商品、海外生産頼みの効率主義が逆に業界のクビを締めるようになった。

 そのため、ファクトリーが再び声をあげ始めたのは、商品を創る側が主導権を取り戻したいのと、メイドインジャパンの復権というメンタリティの方が強いように感じる。

 海外のメジャーなブランドと単純比較して、中間コストを削減すれば、簡単に売れて国内生産が増えるほどマーケットは甘くない。

 アパレル、小売りの現場で行われているビジネスの本質を注視せず、いかにも浪花節的な理論だけで語るのは、あまりに短絡過ぎやしないだろうか。

 テーマを謳うテキストへの登場を含め、最近はメジャーからローカルのメディアまでが取り上げるアパレル通販サイトの「ファクトリエ」。同社が提唱するビジネスの仕組みは以下のようだ。

 「従来は商品発注者と工場との間にOEM業者などが介在していたため、工場側は非常に低い工賃で縫製を引き受けなければならず、非常に疲弊してきている」

 「これに対し、工場がしっかりとした売上・利益を確保していくには、中間業者を完全排除して工場と消費者をダイレクトに結び付ける工場直販を提供していく」

 「発注側と工場が直接つながると、中間業者をカットできてコストが削減でき、工場側も利益がつながる」仕組みということである。

 同社代表の山田敏夫さんは、熊本市中心部の商店街にある老舗ファッション専門店のご子息。仰っていることはIT世代のベンチャー起業家らしく、一般的には説得力があるようにみえる。

 おまけにイケ面で、テレビや新聞の写真映りは良い。 NHKまでが同社の番組を作り、キャスター自らフィリップでビジネスの仕組みを説明するくらいだ。

 おまけに最近では大学生を対象としたトークショーなどにも「クリエーター」という肩書きで登壇されている。ファッション業界を知らない一般人が話を聞くと、「なるほど」と思ってしまう。

 しかし、商品や商品政策を考えてきた業界人からすれば、前述したような問題点が山積みなのだ。どうもネットベンチャー礼賛のサクセス論には首を傾げざるを得ない。

 「パリのグッチで働いた」「日本には本当のブランドがないと言われた」「その言葉を覆したい」等々。山田さんが事あるごとに語るカッコいいコメントは、いかにもメディア受けする。

 しかし、グッチで働いたのは、一介の販売員ではないのか。決してメゾンのデザイン深くに関わったわけではないだろうし、クチュリエなどの作業現場に簡単に立ち入ることなどできるはずもない。

 日本に本当のブランドがないのは、ファッションの世界で改めて言うまでもない。

 欧米人は日本人よりもはるか前から洋服を着てきているわけで、ブランドの背景にあるデザイナーのクリエーションはもちろん、色出しから縫製に至る職人技が日本より優れるのは当然だろう。

 しかも、国家規模でこうした伝統技を保護しているし、クチュリエ側もユニオン(労働組合)などの団体活動を通じて自分たちの地位保全を求め、雇用者であるメゾン側と対峙している。

 こうしたバックボーンを考えると、中小零細企業がほとんどで、国から支援もほとんどなく、法的な活動も行わない日本のアパレル工場を同じ次元で扱う方が無理である。

 だから、国内のファクトリーが立ち上がらなければという気持ちはわからないでもない。しかし、最終的に商品を購入するのはお客さんなのだから、どこまで納得させられるかは決して簡単ではないと思う。

 ファクトリーブランドが国産比率を高めるには、まずジャパンブランド足る様々な仕掛けを行うことが前提になる。そして、それをブランドとしてお客さんが認めて購入するようになってくれるかだ。

 この傾向が太くならないと、結果として、国内工場への発注は増えないと思う。

 ファクトリエが展開する通販サイトはインターネット頼みだ。しかし、現状の技術力では着心地や肌触りを伝えることはできない。

 日本製のファクトリーブランドが差別化としてクオリティや出来映えと謳うのなら、なおさら試着をしてみないと、お客には伝わらない。

 じゃ、展示会を開催すると言っても、わざわざ店舗まで試着に来るお客やバイヤーが増えるとも思えない。集客するには東京開催にならざるをえないとすれば、逆にコスト増につながる。自ずとネット通販では限界が生じてしまうのだ。

 試着は必要ないと感じるお客を増やすことができればいいのだが、そこまで来ると海外の通販サイトの方が良いと感じる方向にお客の嗜好が広がって行くことも考えられる。

 「ネットの向こうには莫大市場が広がっている」とは、ネットベンチャーがよく言う常套句。しかし、ファクトリエが本拠を構える熊本はどうなのか。1年間に100億円、いや150億円以上の売上げが福岡に持ち出されているではないか。

 これは多くのお客がマスマーケットに流れているということ。低価格帯から中価格帯の人気ブランドが多数を占め、この中にどれほどの日本製があるというのか。

 足下商圏すら深耕できないのが地方専門店の現状なのである。それはそのまま日本中の都市間競争の縮図とも言える。

 一度でき上がってしまったこうした大きなうねりに対し、ファクトリーブランド、日本製が堰となって歯止めをかけるのは至難の業だろう。

 海外のアパレルでは日本以上に感度の高い商品が、価格はピンキリでどんどん登場している。お客の目も肥えて来ているし、海外からダイレクトに商品を購入する手法もますます整備されている。

 現状、日本の工場がプロダクト、ブランドの両面で海外アパレルを凌駕できるとは思えない。これからもできるとは懐疑的である。

 正攻法から言えば、日本のファクトリーブランドが日本のアパレル、バイヤー、お客にどこまで求められる価値が提供できるかなのである。しかし、日本のマーケットやニーズを考えると、そこまで国産を求めるとは考えにくい。

 とすれば、ファクトリーブランドが国産比率を高めることは、非常に厳しいと言わざるを得ない。
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