HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

需要や気候は読めないか。

2016-11-09 07:17:46 | Weblog
 11月も半ばにさしかかった。九州博多でも朝夕は冷え込む日もあるが、日中に陽が射すとまだまだコートなんか必要ない。今月中に何とか寒くなってくれれば、冬物を買い込もうという気分にもなるのだが、果たして期待通りにいくのかどうか。

 季節はさておき、11月も半ばとなれば、冬物の実売期であるはず?だ。小売店にとっては、立ち上がりで提案したアイテムにバリエーションを付け、ボリューム展開する頃合いでもある。お客さんの購買動向は単品買いが主流で、このシーズンには顕著になる。立ち上がりから売れて完売近いアイテムに見切りをつけるか、それともフォローが利くならバーゲンまで引っ張るか、勘どころ、見極めが重要になる。

 アパレルのMDバランスは、昔も今もそれほど変わりないと思う。基本的に「提案する部分」(企画デザイン重視、見せる商品)、「売上げを取る部分」(売れ筋、トレンド商品)、「稼ぐ部分」(ベーシック、定番商品)で構成される。

 かつてはざっくり言って提案する部分は「少なめ」、売上げを取る部分は「適量」、稼ぐ部分は「やや多め」に生産し、一定の在庫を抱えていた。実売期に入り、トレンドや定番の商品が売れ始めると、販売力をもつ小売店に対して「売上げを取る」や「稼ぐ」目的で生産した商品ついて「下代を下げてでも、引き取ってもらう」よう営業をかけていた。

 当然、バイヤーさんも店頭の状況を見ながら売れると踏めば、立ち上がりより荒利が取れるので、フォローをかけてくれた。しかし、中には提案する商品は次々と追っかけるが、売上げを取る部分は売り切りで留め、稼ぐ部分はほとんど扱わない人もいた。ビジネスの基本すら教科書通りではつまらない。そんなことをやっていたら他店と同質化してしまうからだ。そんなバイヤーは社内会議で経営陣と対立することもあったようだが、我々からするとすごく頼もしく思えたのも事実である。

 クリエーションを創り出すアパレル、とくにマンション・専門店系メーカーである以上、マーケットの実需傾向とは正反対のゾーンを攻めることを意識していた。無地が売れるなら、良い柄や組織の生地を徹底して使い、世の中がコンサバ路線一色でもエッジの利いた商品を仕掛ける。意外だが、そんな商品は個店のバイヤーには受けがよく、展示会だけで完売したことがある。

 バイヤーさんは自店のお得意さんをよく知っているから、展示会で売れると踏んで付けてくれた。もちろん、店頭では売れ残ることはなく、ほとんどプロパーで完売していた。ボリュームになる商品なんて手掛けたくない企画側の思いは、販売力をつけ顧客を育てていくバイヤーさんの狙いの裏返しでもあったと言える。

 生産、仕入れ、販売がそれぞれ状況に応じ、最高のパフォーマンスを目指していたから、当たる時はウィンウィンの関係、外れる時もリスク分散(実際には小売店の方が優遇されるケースが多いのだが)する方向で考えることも、できたのだろう。

 ところで、先日、ユナイテッドアローズが2017年3月期の第2四半期決算を発表した。(http://www.united-arrows.co.jp/uploads/_archives/ir/pdf/kessan_2903_2.pdf)こちらはセレクトショップと言っても、完全小売りからSPA化しているので、仕入れ(調達)から自社で責任を負わなければならない。決算書によると、全体売上げは前年同期比99.9%とほぼ横ばい。ただ、小売り部門は同96.2%とダウンしており、その分をネット通販の22.6%増がカバーした格好だ。

 同社では売上げ計画が未達となった背景について、「天候不順などに対し、MD進行に柔軟性が足りなかった」「ファッショントレンドの変化が小幅な中、新たな提案が不足した」などと分析。その上で「例年以上に天候、消費マインドなどのマイナス要因があったものの、それらに対し柔軟な対応ができなかったこと=内部要因」と、総括している。

 当然、投資家やメディアの追及が想定されることから、対策もきちんと示している。「初回投入の抑制、期中でのより柔軟な修正を実施する」「売れ筋の追加投入の強化とともに、スローセラーの可能性のある商品は早期に生産抑制も検討する」というもの。つまり、シーズンはじめの商品投入について、何が売れるかつかめないので、出来る限り抑えるということか。

 ユナイテッドアローズはSPA化で規模が拡大した分、でき上がった商品から「セレクト」して「チョイス」するわけにはいかない。商品の開発・調達は自社でできるが、あらかじめ計画した型、バリエーションで発注することになる。しかし、決算が物語るようにSPA化でMDが硬直化しており、初期投入した商品が売れずに期中まで持ち越したりしてしまっているのだ。だから、期初に投入する商品をセーブし、売れ筋やトレンドを見極めながら、売れるものを追加投入する手法に変えていくのだろう。

 GLR(グリーンレーベルリラクシング)は、上期の既存店売上げが前期比105.1%と計画をクリアしている。8シーズンMDの進化、シューズやバッグなどシーズン端境期の対応が奏功したことで、これを他の部門に活用するという。

 ただ、期中でトレンドや売れ筋に手応えを感じてから追加生産するとなると、納期はどうなのか。結局、 他社も同じことをするのは容易に想像できる。実需ばかりに頼る手法ではかえって同質化を招くのではないか。結局、工場に生産が集中し、納期遅れやデリバリー遅延でかえってロスが生じ、数字が上げられないというリスクもはらむ。

 一例を挙げてみよう。3年ほど前からマーケットに出回っているコートがある。本物をアレンジし、「チェスターコート」という名前で販売されているものだ。アパレル業界では冬場に数字を取るため「ウールコートを売りたい願望」は、何年たっても失せていない。しかし、暖冬、モータリゼーションの発達、カジュアル化により、オーバーコートを捨て、生地自体を薄くしたり、ショート丈にしてみたり、ダウンジャケットに変えたりして何とか需要を生み出して来た。その行きついた先がジャケット代わりに1枚もので着られるというチェスターコートだったと思う。

 それも昨年くらいがトレンドで、今年は完全にボリューム化している。各ブランドともデザイン、素材とも似通ってきており、差別化されなくなっている。店頭のフェイスをどかっとチェスターコートが占め、修正して点や新たな提案などは見られない。結局、今年の実需は、企画が秀逸で価格の安い欧米のファストファッションに流れているのかもしれない。

 1枚もののコートは若者なら、それだけ着ればいい。しかし、都心に電車で通い、寒風吹き荒むホームにたつビジネスマンやOLはそうはいかない。オフィスに着いてコートを脱ぐことを考えれば、ジャケット着用は欠かせない。そうなるとコートを少し大きくしなければならず、デザイン的には1枚もので着るには野暮ったく感じる。細身がトレンドの昨今はなおさらだ。日本人はパリジェンヌのようなセンスも着こなしもできないから、コート企画は非常に難しい。

 ユナイテッドアローズとGLRは、今年もともにチェスターコートを投入している。10月下旬は暖かかったせいか、店頭の動きは鈍いように感じた。ただ、ヤングがターゲットのB&YではWEB限定の2万円台で完売の色がある一方、GLRはメーン対象が30代になるため、ビジネスマン、特にメンズでは1枚もののコートはヤングと同じようには動かないようだ。着用機会が減るカジュアルシーンなら、もっと安いファストファッションがいくらもあるから、それで十分だろう。その辺も動きが鈍い条件かもしれない。

 MDにおいて売上げを取る商品、さらに稼ぐ商品となれば、実需ニーズに左右される。となると、ユナイテッドアローズのような決算、政策の修正を余儀なくされてしまう。UAくらいの規模になれば、提案する商品を次々と追っかけ、売上げを取る部分は売り切り、稼ぐ部分は扱わないことなどできない。しかし、新たな提案もなく、期中の修正もされないことで、この冬のコート売上げが不振の場合、3月決算はどうなるか。上期と同じような反省点になるのではとの心配もよぎる。

 ファッションアイテムがトレンド、さらにボリューム化するのは必至だ。また、天候に売れ上げが左右されることも仕方ない。だからこそ、あらかじめニーズは2年程度のスパンで終焉する(3年目はボリューム)と想定できるだろうし、季節もこれ以上の厳冬にはなり得ないを前提にしてもいいのではないか。

 あまりに稼ぐ商品に注力し過ぎる結果、売りきれずにバーゲン処理せざるをえない。だから、売れ筋を追加投入する政策にシフトする。いい加減にこうした紋切り型のMD政策から、脱却するところが出てきてもいいのではないか。まあ、それを十分に理解しているUAでさえ、アナザーエディション渋谷店の退店は、むしろ逆の意味で深刻さの前触れなのか。

 もっとも、9月〜3月を下期にする企業では、年明けの天候不順を想定した上で、スプリングコート予約販売、春色冬素材、梅春物の企画充実などの仕掛けも必要だと思う。端境期はバッグや靴が売れるというのも、業界神話に成り下がっている。お客さんは提案される商品を待っているのだし、それでマーケットは引っ張られていくのではないか。

 ファッションビジネスは感性ではなく、サイエンスだと言う人もいるくらいだ。ならば、どこかが需要や気候に対する定説を科学的に導き出し、それにそった企画や商品投入に踏み切り、マーケットをリードしていかなければならないのではないかと思う。

 科学的とは言えないが、個店レベルでは確実に売れるという意味での実需、暖冬傾向を想定しながら、提案する商品を追っかけているショップはある。今年の冬バーゲン明け、陽射しが日に日に明るくなっていた日、とあるレディスセレクトショップでは、「オフホワイト」で「98,000円」の「レザージャケット」が投入直後に完売した。そこまで露出はしていないから、目立たないだけだ。大手でもどこかが引っ張っていけば、少しは店頭が品揃えが変わるのではないかと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする