HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店は疲弊している。

2016-12-14 07:48:48 | Weblog
 疲弊とは肉体や精神が疲れることを指す。また不況や出費が続いて自力で立ち上がる力を無くしていることを意味する。通常は人間か、企業に当てはまるが、今回はあえて店舗を対象にしてみたい。疲弊している店とは、ユニクロ。先週に続き、ジャーナリスト横田増生氏の潜入ルポからの考察である。

 第2弾は週刊文春の12月15日号に掲載された。今回は前回よりはるかに生々しいドキュメントで、冒頭には以下のような本社人事部長と横田氏とのやりとりがある。

 「この記事を書かれたのは●●さんですよね」「そうです」「わかりました。ならば、当社のアルバイト就業規則に抵触しているということで、解雇通知させていただきたい、と思っています」

 「(この記事の)どこが、就業規則に抵触しているのでしょう」「まず、週間文春の十二月八日号を書かれたということは、当社の信用を著しく傷つけたということですね」「記事のどこが就業規則に違反するんですか」「アルバイトの就業規則の第七十五条の十四項と、第十六条一項に当社は該当すると判断しました」

 「この記事を寄稿されたこと自体が該当すると思っています。中身云々は別として、当社にとってまったくプラスになるような内容ではない」

 「懲戒解雇ですか?」「懲戒解雇ではありません。解雇通知です」


 私がいちばん聞きたかったのは、記事に事実と違う点があるのか否かだった。事実でないことを書いたというなら重大な損害を与えたと言うのも理解できる。しかし、何度も「記事に間違いがあるのか」と尋ねた末に、返ったきたのは、「間違っている云々の中身の吟味はしておりません」という一言だけだった。

 「記事は間違っていないということですか」と食い下がったが「お答えできませんし、お答えする必要もありません」(本文より、引用)

 横田氏のユニクロ潜入取材は、柳井正社長が雑誌プレジデント(2015年3月2日号)で「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。…社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と、反論したことに端を発した。

 実際にアルバイトとしてユニクロの3店舗に勤務し、1年以上にわたって店舗業務を経験しながら取材を重ねている。その第1弾が12月1日発売の週刊文春に掲載され、一般にはわからない店舗業務の内幕が白日の下に晒された。

 ルポ第2弾は横田氏の「諭旨解雇」という形で始まり、潜入取材は終わりを迎えるが、1年以上業務に携わったことから記事は続く。目を引くのは柳井社長の号令のもと、今年10月に下方修正したとは言え、2020年に年商3兆円企業に向けた「売上げ至上主義」に少しも狂いがないこと。そのために店舗では依然としてサービス残業が続き、人手不足が慢性化していること。そこには肉体的にも精神的にも疲れきったスタッフが大勢いる。まさに「店は疲弊しきっている」のである。

 ユニクロの売上げ追求の是非はひとまず置くとして、問題の本質はそのための手段である。ルポには、横田氏が勤務したビックロが創業祭を乗り切るにあたり、圧倒的に人手不足であることが記されている。横田氏はその状況を以下のように克明に記している。

「私がビックロに一番驚いたのは、夜になると派遣社員が働き始めること」
「派遣社員はほとんどがユニクロで働くのが初めてのため、客対応は荷が重すぎる」
「…今度は見かけたことのない女性従業員が客対応に手間取っている」
「…先ほどの女性従業員に声をかけられた。『助かりました。本部社長室の■■です』」「前日付の『部長会議ニュース』の冒頭で柳井社長が、感謝祭の応援に行っていない社員は必ず行くように、と指示…」
「気持ちはありがたいが、現場からすれば、修羅場の感謝祭で売り場を知らない本部社員は足手まといになることも多かった」
(以上、記事から引用)


人材の効率運用よりコストカット

 記事を一括りで解釈するとすれば、ユニクロのような強力なSPAですら、現場のレイバーコントロール(人的資源の効率運用)は脆弱であるということだ。派遣社員を雇うのはパートアルバイトを募集しても、人員が揃わないからだろう。派遣社員でもきちんと教育して戦力にすれば良いのだが、大型店ではスタッフの頭数が圧倒的に足りないため、じっくり時間をかけて教育する余裕すらないようだ。本来なら店舗社員やパートアルバイトで回していくべき店舗運営。そこにコスト高の派遣社員まで借り出さなければならない。まさに出費が続いて自力で立ち上がれず、店は疲弊している状態と言える。

 一方、ユニクロの本部スタッフはキャリア採用の中途入社やヘッドハンティング組になる。前職の経験や実績が重視されて採用されるため、現場の業務を知り得るはずもない。組織が肥大化すればするほど、現場と本部との乖離は顕著になり、結果的に社員のモチベーションに温度差が生じる。全員がそうとは限らないが、本部採用という特権意識もあり、現場に対しどこか上から目線で見ている部分もあるだろう。

 だからこそ、現場と本部との壁を取り除き、コミュニケーションを円滑にしていく上で、スタッフセクションの人間が店舗業務を応援するのは重要で、セールや創業祭は格好の場となる。ただ、それ以前に現場は深刻な人手不足に陥っており、同じ人件費を払うなら本部スタッフさえ活用せざるを得ない窮状も窺えさせる。

 前回のルポにも準社員の女性が勤務中に体の不調を訴えたり、男性社員がアルバイトに「そんなスピードじゃ、間に合わないんだよ」と叱責したり、派遣の中国人女性に「ちゃんと俺に言ったこと、分っている? いや分ってないね」となじったりと、現場の混乱ぶりが綴られていた。

 四半期ごとに発表される短信レポートには記されていない疲弊した店舗の状況が潜入ルポからはひしひしと伝わって来る。こうした状況が続くユニクロがはたして2020年に年商3兆円を達成できるのか。また、柳井社長は企業経営者として、求心力をもつのだろうか。疑問を呈さざるをえない。

 筆者がアパレル勤務の時代には派遣社員こそいなかったが、取引先のセールや創業祭では店舗に本部から応援に駆り出される人員は同様にいた。実際に総務部長のおじさんがレジ打ちしているのを見たことがあるし、部長級がエプロンを付けてぎこちなく接客する姿もあった。こちらは社外の人間なので傍観するだけだが、会社として売上げ目標を達成するには、全社一丸となって乗り切る態勢はどこも変わらないような気がする。

 レディスショップになると通常、男性はバイヤーや店長(候補)などバックアップやマネジメントが主な仕事で、お客さんに販売することはあまりない。だから、セールや創業祭の応援では店頭で活気出しのために声を張り上げたり、お客さんをフィッティングルームに誘導したり、スタッフが手一杯の時に対応したりと、補助的管理的業務になる。女性客はどうしても男性の視線を意識する。混雑する店内に男性がいることで、万引きなどの防犯担当の役割も担うのだ。

 ところが、ユニクロはターゲットが老弱男女になるから、接客は男女が同等に当たる。しかも大型店が多いから、多忙さは一般のショップとは比べ物にならない。商品の展開方法こそ簡素化されているが、万人向けのデザインでかえって客層は広く、購買機会も格段に増える。そのため繁忙時の接客対応にかかる人的負担は、尋常でないと思われる。

 単純に客対応がそのまま売上げにつながるのであれば、粗利益が50%程度と言われるユニクロの人時生産性(粗利益÷総労働時間)は相当に高い。だが、莫大な商品量の荷受け、その商品の品出し作業、客注のストック確認、閉店後の商品の畳みや整理など、生産性の低い作業もある。現状の業務のままでは営業効率が良いとは決して言えないだろう。

 記事では、昨年の感謝祭が惨敗だったため、ビックロの店長代行はその後の朝礼で「感謝祭は全社的に不振に終わっています。結果として経費を削っていかないと、下手したら会社が倒産してしまうという危機的状況です。今やらなければならないことは二つ。一つは、売上を取る。二つ目は経費を抑える。そのため、今週はスタッフの皆さんの出勤日数を削らさせていただきます」(記事から引用)と、言っている。

 つまり、店舗が利益を上げるには粗利益に占める人件費の削減は止むなしなのだ。先週のコラムはタイトルを「店長は経営者なのか」としたが、ユニクロではスタッフ雇用や経費削減が店長の裁量に任せられており、この行だけ読むと経営者たるのかもしれない。

 ただ、ルポにもあるようにビックロは、人手不足で夜間に派遣社員を雇用している。こちらは派遣会社を通すので直接雇用より人件費がかかるが、そうでもしないと人が揃わないのだ。そのためにパートアルバイトの出勤日数を削るのは本末転倒も甚だしいが、それほどレイバーコントロールが正常に機能してないとも言える。

 何より売上げの追求と利益の最大化を至上命題とする柳井社長が店舗に対し、コストカットを厳命しているのは間違いない。だから、店長他責任者としては手っ取り早く人件費に手を付けざるを得ないのである。しかし、業務を効率化し、職場環境を改善するのも経営者の役割のはずだ。店長がショップマネジメントを任されているのなら、従業員のことも優先的に考えていくべきなのだが、ユニクロからはそれがなかなか見えて来ない。

 潜入ルポ第2弾には「ユニクロにとって従業員とは何か、人件費とは何かを目の当たりにすることになった」とまでしか書かれず、後は前出の店長代行のコメントで、記事は終わっている。第3弾では従業員や人件費に関する横田氏の隠し玉が出てくるのかどうかはわかならいが、期待はしたい。

 横田氏も書いているように昨年ユニクロが値上げをしたことで、売上げが下がったのは事実である。当然、利益を確保するには人件費カットに踏み切らざるをえないわけで、そのツケはそのまま現場の負担となっていく。感謝祭のような繁忙期が終わると、店舗は通常営業に戻る。その分、売上げも落ち着くことになるから、利益を上げるにはなおさら経費を削らなければならない。

 ただ、本部からは次々と商品が送り込まれてくるわけで荷受け、品出し、畳み、商品整理といった作業は変わらない。こちらの無駄とも思える業務を削減せずに人件費だけを削るのでは、現場はますます疲弊していく。経営者ならまず社員が働き易い職場環境を整え、福利に資することも不可欠なのだ。

 ユニクロは日本のSPAとして国内では向かうところ敵無しと言える。しかし、店舗が疲弊したままではいくら決算が増収増益でも、卓越したシステムのどこかに綻びが生じ、成長に黄色信号が灯るかもしれない。疲弊している店の上で成立するマイダスタッチなんてあるはずもないのだ。

 多くのお客さんは思っているはずだ。あんなに大量の在庫を売り場におく必要があるのか。また在庫が全部捌けるのだろうかと。確かにヒットアイテムになると欠品する商品もあるだろう。それがどの商品になるのかはわからないから、機会ロスを無くすめに大量の在庫を置かなければならないという理屈はわかる。

 12月2日に発表されたユニクロの11月の国内既存店売上高は、気温が低下し冬物衣料の販売が好調だったため、前年同月比7.3%増と、4カ月ぶりに前年実績を上回った。比較的単価が高いカシミヤセーターやコート、ブルゾンといった商品がよく売れたようである。短信レポートにはそこまでしか書かれていない。しかし、数字は操作できるのだ。

 もし利益も上がっているとすれば、コストカットを徹底したからかもしれない。あれだけの大量な商品を抱えていれば、値下げや廃棄のロスも相当に及ぶ。なのに増益になるのはどこかにからくりがあるはずだ。取材するジャーナリスト、決算報告から分析するエコノミストやアナリストの多くが「増益」を単なる「コスト削減が要因」とまとめるが、その背景で店が疲弊している状況をどれほどが認識しているのだろうか。

 小売業である以上、売上げの拡大は当然の企業目標である。しかし、そのためには手段を選ばないのが企業にとって本当に理想的なことなのか。小売業は人(スタッフ)、物(商品)、器(店舗)のどれが欠けても成り立たない。だからこそ、店舗環境が良好であってこそ、目標が達成できることも忘れてはならないと思う。

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